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第二章 4


「わあ!」


 メイベルが思わず声を上げると、毛布はのっそりと立ち上がり、脱皮するかのようにそれをするりと床に落とした。


 現れたのは真っ黒な人だった。


 正確には黒いコートと手袋、ブーツなど、すべてが黒色で統一されていた。髪もぼさぼさの黒髪で、何より驚いたのはその顔。仮面魔術師の名にふさわしい漆黒の仮面があった。おそらく彼が噂のユージーンだろう。

 ただし仮面は顔の上半分を覆うもので、顔の下部分だけは白い肌と薄い唇が露出していた。それと仮面越しに見える瞳だけが、彼が人であるとメイベルに認識させてくれる。

 噂では相当高齢だと聞いていたのだが、肌を見た感じそこまで年を取ってはいなさそうだ。背も高く、メイベルと並ぶと見上げるくらいになるだろう。


「お前、誰」


 仮面の下にある唇が動き、通りの良い声を発する。メイベルは慌てて頭を下げた。


「ご、ごめんなさい! まさか人がいるとは思わなくて」


 こんな部屋に、と言いかけたのを必死で飲み込む。


「勝手に入ってきてすみません。でも下に誰もいなくて、つい」

「だから、お前は誰なんだよ。どうやって森を抜けた」


 その問いにメイベルは言葉を詰まらせた。なんとか円満に婚約破棄をしてもらうためには、出来るだけ穏やかな関係を築きたい。

 ウィミィごめん、と心の中で唱えた。


「……ええと、その、メイベル様付きのメイドで、ウィミィと申します。その、二か月後こちらでお世話になるのに、主に代わってご挨拶をと思いまして」


 メイベルのその言葉に、しばしの沈黙が落ちた。ようやくユージーンが口を開く。


「メイベル?」

「はい」

「誰」

「ええと、婚約者の」

「誰の」

「その、ユージーン様の」


 おずおずとメイベルが男の方を見る。

 彼は仮面越しの目を胡散臭そうに眇めながら、首をかしげていた。


「何の話だ」

「えっ、あの、婚約に関して書面を送っているはずなんですが……」


 その言葉にユージーンは毛布を床に残したまま、ずかずかと机に歩み寄った。山と積まれた本を勢いよく崩す。いくつかの羊皮紙が床に落ち、乾いた植物の根のようなものも転がっていった。

 その中から一つの手紙を見つけ出すと、乱暴に封を剥がす。


「……これか」


 中から出てきた便箋をしばらく目で追っていたかと思うと、メイベルの方をちらと見、手にしていた手紙をぞんざいに机に置きながら告げた。


「確かに連絡は来ていた」

「で、ですよね」

「馬鹿な国だ」


 ふん、と仮面に覆われていない部分の口が歪む。


「大方、結婚を口実に僕の力を利用したいという算段だろう」


 ばれてる、とぎくりとするメイベルを前に、ユージーンは更に皮肉を込めて笑う。


「そのために娘を差し出すとさ。馬鹿な国だが姫も馬鹿だ。こんな勝手な話に使われて何も考えずにほいほい結婚を受け入れるなんてな」


(受け入れてませんけど! 何なのこの人失礼な)


 思わず言い返したくなるのをメイベルはぐっとこらえた。そうだ逆に考えよう、これはある意味チャンスではないだろうか。

 

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