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推定年齢120歳、顔も知らない婚約者が実は超絶美形でした。  作者: シロヒ
仮面魔術師と新たな婚約者

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コミックス1巻発売お礼ss:誓いはいくつあってもいいから




 これは、メイベルが初めてユージーンと出会った日のこと――




(ふう……一日中掃除して疲れたわ……)


 夜、ユージーンに夕食を持って行ったメイベルは、ようやく自分の部屋へと戻ってきた。

 就寝用の衣服に着替えたところで、鏡台の前に置かれた紙くずに目をやる。


「……本当に、ぐしゃぐしゃになっちゃったのね……」


 それは昼間、ユージーンの手によって破かれた婚約の誓約書。

 はあとため息をついたあと、それらを手に取り屑籠へと向かった。だが手放そうとしたところで、メイベルは「うう……」とためらってしまう。


(やっぱり、簡単には捨てられない……)


 メイベルはそのまましばらく逡巡すると、やがてしおしおと鏡台の前へ引き返した。一番上の引き出しを開けると、山盛りになった紙くずを丁寧にそこにしまう。


(元には戻せないけど……でも、あまり無下にも出来ないし)


 ただあまり見てしまうと、あの時に味わった絶望が甦ってしまう――とメイベルは強く瞑目したあと、悲しみを封印するかのように引き出しを閉じたのだった。



 それから月日は流れ、気づけば二人は思いを通わせるようになった。

 ユージーンがメイベルの正式な婚約者となった、ある日のこと――


「ユージーンさん、何か探しものですか?」

「いや、別に」


 その日のユージーンは、朝からどこか挙動不審だった。

 朝食を終え、王宮から届いた手紙を確認していたかと思うと、突然書斎の中をうろうろと歩き回り始めたのだ。

 本棚を片っ端から整理したかと思えば、資材が入った箱を片っ端からひっくり返す。そうしてひとしきり自分の部屋を見回ったあと、今度は階下に降りてきて倉庫や厨房のあたりをうろうろと物色し始めたのだ。


「食事が足りなかったのなら、追加で何か作りますけど」

「いや、食事は十分だった」

「必要なものがあれば、セロに頼みましょうか」

「いや、特にない」

(……?)


 目の前を右に左に動き回るユージーンが若干煩わしく、メイベルは幾度となく理由を尋ねたが、どういうわけかはっきりとした理由を言おうとしない。

 こうなったユージーンは何を言ってもだめだ、とメイベルが諦めかけたところで、ようやく彼の方から口を開いた。


「メイベル、この館のゴミはどこに捨てている?」

「裏手に小さな畑があるので、そこの隅に埋めてますけど……」

「…………」


 それを聞くが早いか、ユージーンは踵を返して館の外へと出ていった。

 メイベルはぽかんとした顔で見送ったものの、ふと不安になり彼のあとを追う。


(い、いったい、何をしようとしているの……?)


 慌てて館の裏に向かうと、ユージーンが畑の前に立っているところだった。その背中に声をかけようとしたところで、突然畑に植わっていた作物がふわっと空中に浮かび上がる。


「ユ、ユージーンさん⁉」


 どうやら魔術を行使しているらしく、土壌全体が一つの浮島のように持ち上がっていく。収穫前のあれこれが大変なことに! と飛び上がったメイベルは、大急ぎでユージーンの腕を摑んだ。


「や、やめてください! どうしてこんなことするんですか!」

「悪いメイベル、でもどうしてもあれを捜さないと――」

「あ、あれって何なんですか⁉」


 困惑するメイベルを前に、ユージーンはようやく冷静さを取り戻したのか、掲げていた腕をふっと戻した。

 ふよふよと浮かんでいた土塊や根菜類はすぐさま元通りになり、メイベルはほっと胸を撫で下ろす。


「ユージーンさん、いったい何を捜していてるんですか?」

「…………」


 しばらく押し黙っていたユージーンだったが、やがてベストの内側にしまっていた手紙を取り出した。手渡されたメイベルが封筒を開くと、中から新品の『誓約書』が現れる。


「これって……」

「今朝届いた。僕たちの婚約を正式に認めるという、国王陛下の署名が入ったものだ」

「お父様の……!」


 金の箔押しがなされた立派な証書を前に、メイベルは思わず目を輝かせる。

 だがユージーンの表情は陰ったままだ。


「これを見て思い出したんだ。その……僕が以前、お前との誓約書を破ってしまったことを」

「! そ、そういえば……」

「今さら謝って許されるとは到底思っていない。あの時の僕は本当にどうかしていた。だからせめて、欠片だけでも元に戻せないかと……」

「ユージーンさん……」

「……悪い、あんまりに勝手、だよな……」


 本気で落ち込むユージーンの姿に、メイベルはしばし呆気に取られてしまう。

 しかしすぐに微笑むと、ぐいっと彼の腕を引いた。


「それだったら大丈夫ですよ!」

「……?」


 メイベルは自身の部屋へと案内し、鏡台の引き出しから破れた誓約書の山を取り出す。それを目にしたユージーンは目を見張り、すぐ悲しそうに顔を歪めた。


「僕は本当に、なんてことを……」

「……たしかにあの時は、すごくショックでした。でも私もあの時嘘をついたので、それでおあいこです」

「メイベル……」


 えへへとはにかむメイベルを前に、ユージーンは唇を噛みしめる。

 やがて紙くずの上に手をかざすと、静かに瞼を閉じた。


『――、――――』


 小さな囁きとともに、引き出しの中にあった紙の破片がふわりと浮き上がる。

 それらはパズルのように組み上がっていき、あっという間に一枚の紙としての形を取り戻した。接合部がどこか分からないほど、ぴったりとくっついている。


「すごい……」

「お前が大切に保管しておいてくれたおかげだ。もし燃やされていたら、ここまで元には戻せなかった」


 すっかり綺麗になった誓約書をユージーンは慎重に手にする。

 そのままおずおずと、メイベルに向かって差し出した。


「あの時は、本当にすまなかった。もしよければ……これにも、お前の署名を貰えないか?」

「……はい。もちろんです!」


 メイベルが満面の笑みで受け取ったのを見て、ユージーンもまた、ようやく胸のつかえがとれたかのように微笑んだのだった。



 その日、ユージーンの書斎を訪れたロウが首を傾げていた。


「なあユージーン、なんで同じ誓約書が二枚あるんだ?」

「同じじゃない。よく見ろ」

「……あ、片方は国王のサインがある。でもなんで二枚? 一つで良くないか?」

「何でもいいだろ」

「……?」


 額縁に入れられ、壁に飾られていた二枚の誓約書を前に、ロウは再び不思議そうに眉根を寄せるのだった。



(了)


コミックス発売記念ssでした。

書店さまで見かけましたら、どうぞよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] ユージーンさん可愛いですね。ほんと
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