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書籍版発売お礼ss:魔術ではなくただの恋では




 それはユージーンの館でのある日のこと。


「…………」

「…………」


 応接室のソファに向かい合う形で座り、互いの顔を見つめ合っているメイベルとムタビリス。しかもムタビリスは、いつも着けている白い仮面を外していた。

 一人遅れて部屋を訪れたユージーンは、その光景を見て眉根を寄せる。


「……お前たち、何をしているんだ?」

「あ、ユージーン」


 同じくソファに座っていたロウが、ひらひらと手を振る。


「いや、本当に『魅了』がかからないのか、メイベルちゃんが一度試してみたいって」

「何考えてるんだまったく……」

「まあ、今のところただのにらめっこだけど」


 その素顔を見ると、老若男女問わず惚れさせてしまうという『仮面魔術師』。

 だがメイベルだけはその特殊ないきさつから、どれだけ目にしても彼らに心を奪われることがないということが発覚した。

 その能力のおかげで、様々な問題を解決することが出来たのだが――今後のことも考えて『はたしてどこまで耐えられるのか』をきちんと確かめてみたくなったらしい。

 二人が見守る中、メイベルとムタビリスはにらみ合いを続ける――が、やがてムタビリスが顔を真っ赤にしてばっと俯いた。


「ごめん、メイベル、おれ限界だ……」

「ム、ムタビリスさん⁉」

「女の子とこんなに直に顔合わせたことないし、無理……」


 へろへろと両手で顔を覆い隠すムタビリスに、ロウは爆笑、ユージーンはくだらないとばかりに顔をしかめる。やがて笑いをこらえながら、ロウが名乗りを上げた。


「じゃー次は俺とやろっか?」

「は、はい‼ よろしくお願いします!」

「ふふ、よろしく」


 そう言うとロウは立ち上がり、慣れた手つきでメイベルの顎に手を添えた。そのままついっと自分の方に上向かせる。赤い仮面をテーブルに置くと、麗しい美貌が露になった。


「さあ、どんな感じ?」

「き、綺麗なお顔ですね……」

「……じゃあ、ちょーっと強めてみよっかな」

「……?」


 ロウが怪しく微笑んだかと思うと、その赤い瞳にちらっと光が走る。心臓がどくんと音を立て、メイベルが思わず息を吞み込んだ――その瞬間、ロウの顔に赤い仮面がばしっと勢いよく貼り付けられる。


「痛ったーーーー‼」

「ロ、ロウさんー⁉」

「調子に乗るな馬鹿」


 見ればユージーンがすぐ傍に立っており、なおもぐりぐりとロウの顔に仮面を押しつけていた。 突然の暴挙にさすがのロウも抗議する。


「だって大切なことだろ⁉ もしもメイベルちゃんでも対抗できない、強い魔術を使われたりしたらどうするつもりだよ!」

「その時は僕がすぐに対処する。あとちゃん付けをやめろ」

「うう……そんなに言うならユージーンがやってみろよ……」

「は?」


 まさかの指名を受け、ユージーンはゆっくりとメイベルの方を振り返った。

 二人のやりとりに不安そうにしていたメイベルだったが、目が合った途端嬉しそうに笑う。


「きょ、協力してもらってもいいですか?」

「……くそっ!」


 やけくそになったユージーンは仮面を外し、メイベルの向かいにどさっと腰かけた。無言のまま、二人はただまっすぐに見つめ合う。


「…………」

「…………」

「……………………」

「……………………」

(ねえロウ、これ、決着つくのかな?)

(まーメイベルちゃんの防御は一級品だからなあ。ユージーンでもさすがに……)


 すると数分もしないうちに、メイベルの顔がみるみる赤くなった。しばらく唇を引き結んで耐えていたようだが、やがてすっくとソファから立ち上がる。


「そ、そういえば、まだお茶もお菓子も出してなかったですね! 私、準備してきます!」


 言うが早いか、メイベルはあっという間に応接室を出ていった。

 ユージーンがしれっとした顔で仮面を着け直しているのを見て、ムタビリスが感激したように目を輝かせる。


「すごい……もしかして効いたのかな⁉」

「いや、どっちかというとあれは――」


 ロウはちらっとユージーンの方を見る。表情には一切現れていなかったが、その耳が真っ赤に染まっていることに気づき、思わずにやっと口角を上げた。


「……ムタビリス、そろそろお暇しようか」

「ええっ⁉ で、でも、今からメイベルのお菓子が……」

「俺がおごってあげるから。じゃあなユージーン――あとは任せた」


 ええーっと悲愴な声を上げるムタビリスを引きずって、ロウは応接室の窓から飛び立った。しばらくしてお茶とお菓子を持ったメイベルが戻ってくる。


「すみません、お待たせして――って、あれ?」

「あいつらならもう帰ったぞ」

「そ、そんな……」


 しょんぼりするメイベルの元に、立ち上がったユージーンが歩み寄る。

 上体をわずかに屈めると、こっそりと耳元で囁いた。


「これからは、試すのなら僕だけにしろ」

「えっ⁉」

「……お前のそんな顔を、他の男に見られたくない」

「……っ‼」


 いいな、というユージーンからの念押しを受けて、メイベルは再び真っ赤になったままこくこくと頷くのだった。




(了)


書籍版発売お礼ssでした。

講談社Kラノベブックスfさまより本日発売です。

どうぞよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] コミカライズの連載でこちらの作品を知り、単行本発売まで待ちきれず読みにきました。72部まで一気読みできる面白さでした。 読んでしまった今では、もうユージーンとメイベルが幸せそうでなによりで…
[良い点] 一気読みでした。ときめきをありがとうございました。
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