第三章 5
「――という訳で、本当に申し訳ないんですが、力を貸していただけないでしょうか……」
「とは言ってもねえ」
頭を下げるメイベルを前に、うーん、とロウは渋い顔をした。
「俺の魔法は量や大きさに限界があるんだよ。この国中に行き渡る数の花となると、ちょっと難しいね」
「そ、そうなんですね……」
「あと、あまり長い時間保てるものでもないんだ。祭の途中で消えてしまうのは、逆に悪いんじゃないかな」
ロウのもっともな意見にメイベルは肩を落とした。
何の策も講じることが出来ないまま、半壊した倉庫のある方角へと向かう。
(とりあえず残ったものを保護して、あとは――)
考えている途中、メイベルは街で会ったリッドの笑顔を思い出した。
一年に一度の、春のお祭り。
それを自分が間接的にでもダメにしてしまった。
(やっぱり時間の許す限り、私が作りなおすしか……)
だが悶々としたメイベルの思考は、人々の歓声によってかき消された。
また何か起きたのだろうか、とメイベルが慌てて先ほどの倉庫に駆け寄ると、上空に先ほどの鉄球が浮き上がっている。
こんなことが出来るのは、とメイベルが群集の中をかき分ける。すると倉庫の正面で、右腕を掲げて立つユージーンの姿を発見した。
「ユ、ユージーンさん! どうしてここに⁉」
当然周囲には多くの人がいる。
仮面を着けているので、魅了の影響は出ていないようだが、そもそもユージーンは人前に出ることを嫌っていたはずだ。それなのにどうして、とメイベルは目を白黒させる。
その間にも、崩れた倉庫は時間を逆行するかのように組みあがっていき、やがて元の形に完璧に復元された。鮮やかな一連の光景に、至る所から感嘆の声があがる。
「すごいな、あれか、兄ちゃんもしかして、魔術師ってやつかい」
「ああ」
「初めて見たが、すごいもんだなあ」
漁師だろうか、体格のいい男性が感心したように息をついた。他の人々の反応も似たようなもので、噂でしか知らなかった『魔術師の力』とやらを目の当たりにして、恐れよりも驚きが先だっているようだ。
その一方で、次々と浴びせられる称賛を前にしても、ユージーンは平然としていた。やがてメイベルがいることに気づいたのか、屈強な男たちの隙間をかいくぐり、こちらへと近づいて来る。
「大丈夫か」
「あ、ありがとう……良かったの? 人前に出るの、嫌いだったんじゃ……」
するとユージーンは、見上げてくるメイベルから視線をずらすと、ぼそりと零した。
「……お前が、少しでも肩身の狭い思いをしなくなるのなら」
「え?」
「――何でもない。それより、あれはどうする」
ユージーンがついと横目を使う。その視線の先には焼き崩れた造花の亡骸があった。
まだ問題は解決していなかった、とメイベルは再び眉間に縦皺を刻む――が、ユージーンの顔とわずかに残った花の残骸、そして無事だったアマネの姿が順に脳裏に甦った。
「……そうだ! あれなら、何とか出来るかも!」
やがて何かをひらめいたかのように、メイベルは大きな目を見開いた。








