表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/75

第二章 2


(それにしてもすごい場所だわ……)


 湿り気のある地面に、確かな靴跡をつけながらメイベルは歩く。相変わらず陰鬱な雰囲気が漂っており、遠くからずっと何かの鳴き声が聞こえていた。何度も地図を見ながら魔術師の館があるという方向を目指す。

 だが目印らしいものもなく、メイベルは額にじんわりと汗がにじむのが分かった。一歩足を進めた先で、何かがさっと逃げるような音がし、思わず足を引っ込める。正直今すぐ帰りたい。帰りたいが、ここで頑張らねばイクス王国の平和がなくなるかもしれない。


(まだ着かないのかしら……)


 木の根に足を取られ、ひゃ、という短い悲鳴の後べしゃりと前のめりに倒れる。なんとか立ち上がるが、手の平や膝にはべっとりと泥が付いていた。だがメイベルは適当にそれを払い落とすと、なおも奥へと進んでいく。


 そのままどのくらい歩いただろうか。

 周囲に見えるのはどれも似たような鬱蒼とした景色。一応してきた化粧は汗ですっかり落ち、手についた泥は乾燥し始めていた。洋服からもぱらぱらと泥の欠片が落ちていく。最小限に減らしてきたはずの荷物も、今のメイベルには非常に重たく感じられた。


 もしかしたらこのままここで遭難して死ぬかもしれない、メイベルがそんな不安を現実のものとして考え始めた頃、一歩踏み出す足が止まった。意図したわけではなく、わずかに心臓が痛んだ気がしたからだ。


(……?)


 帰りたい、という気持ちからかもしれない。だがそれ以上にこちらではない、と心に語り掛けてくるかのような違和感があった。その直感に従いメイベルが方向を変えて進む。するとまたある程度行ったところで、心臓のあたりを締め付けるような感覚があった。

 嫌な予感を感じる方向は避け、メイベルは都度方角を変えながら進んでいく。そうしているうちに、木々の向こうが明るくなっているのに気付いた。思わずそちらに向けて走り出す。


「で、出られた……!」


 森を抜けたそこは、丁寧に刈り揃えられた庭のようになっていた。若草色の草が短く切りそろえられており、太陽の光も十分に降り注いでいる。メイベルはようやく息ができるとばかりに大きく深呼吸をした。

 両腕を伸ばし、はあと息を吐く。するとその視線の先に古びた石造りの居城があった。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
\書籍版発売中です!/
5ffsfdnr7ln8bxe2jf0h2ylmf4on_1a3p_9s_dw_1ksp.jpg

\コミックス1-3巻発売中です!/
jgpa80sn3g541bpya5oe8cp7h7kw_eas_9s_dw_5luw.png

9dj9t6m6i3vcri53ivr8mwhpdp_19yf_9r_dw_1jht.jpg

7ltbm97ad9hd86cs3m79liji2ged_y0f_9s_dw_1d68.jpg
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ