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推定年齢120歳、顔も知らない婚約者が実は超絶美形でした。  作者: シロヒ
仮面魔術師と新たな婚約者

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第一章 7


 その日から、ユージーンは部屋に引きこもりがちになった。


 以前のようにすべてを拒否しているわけではないが、食事も自室でとると言うし、それ以外の時間も一切出てこない。

 一度だけメイベルが外での昼食を提案したが、「少し調べたいことがある」と言ったきり反応はなかった。



「ついにオレに恐れをなしたか」

「そんなはずありません! というか、私の気持ちは変わりませんからね⁉」


 最初は好都合だと笑っていたアマネだったが、張り合う相手がいなくなって寂しく思うところもあったのだろう、ことあるごとに「あいつはまだ籠っているのか」と聞いてくるようになった。

 メイベルももちろん心配で、日に何度か声をかけるのだが、曖昧だったり返事がない時もあったりと、部屋から出てくる気配はない。


(なんだか昔に戻ったみたいだわ……)


 だがあの時とは違い、メイベルを嫌っての行為ではないはずだ。

 きっと言葉通り、本当に急ぎの調べ物があるのだろう、とメイベルは前向きに待つことにした。



 ――しかしそんなある日、セロが慌てた様子で城に飛び込んできた。


「メイベル、いるか?」

「セロ、どうしたのそんなに慌てて」

「火急の件だ。キャスリーン様が、すぐに王宮に戻ってほしいと」


 何かあったのだろうか、と慌てるメイベルだったが、数日顔を合わせていないユージーンのことが頭をよぎった。

 あの状態の彼を置いて城を後にするのは気が引けたが、おそらくユージーンはしばらく部屋から出て来ることはないだろう。


「すぐに向かいます! セロは先に戻っていて」


 セロを帰した後、メイベルは堅牢に閉じられたユージーンの部屋へと向かった。

 鍵のかかった扉越しに、ユージーンに話しかける。


「ユージーンさん、あの、王宮に呼ばれたので少し行ってきます。用事が終わったらすぐに戻りますね」

「……ああ」


 小さくだが、確かに返ってきた言葉にメイベルはほっとする。一応アマネの姿も探したが、どうしたことかこちらは朝から見当たらない。

 仕方がない、とメイベルは急いで王宮へと旅立った。




 

 だが王宮に到着したメイベルを待っていたのは、困り眉のキャスリーンと、クローゼットにずらりと並べられた煌びやかなドレスの大群だった。


「お姉さま……私は緊急の用があると聞いて来たのですが……」

「そうなの! 実は明日、急に舞踏会が決まってしまって」

「着るものくらい、お好きに選んだらいいのでは⁉」


 メイベルが頭を抱えるのも無理はなかった。

 血相変えたセロから呼ばれて急いで駆けつけたのに、当の用事というのがキャスリーンの衣装選びだったからだ。


「だめよ、明日はその……同伴にゲオルグ様がいらっしゃるの! だから……」

「わかります! その気持ちは分かりますけども‼」

「ごめんなさい……それにその、最近メイベルと会えていなかったから……少しでいいから顔が見たくて、……」


 見ればキャスリーンの目は潤んでおり、いまにもはらはらと泣き出しそうな勢いだ。

 魔法は効かないメイベルだったが、美しい姉の涙には逆らえない。


 おまけに『会いたかった』という殺し文句まで聴かされては、無下に扱うことも出来なかった。


「……わざわざ用事を作らなくても、いつでも会いに帰りますから。……とりあえず、この緑のドレスに白のハイヒールで合わせてみましょうか」


 メイベルのその言葉に、キャスリーンは薔薇が綻ぶように微笑んだ。







 ひとしきりキャスリーンの衣装合わせに付き合い、ようやく納得のいく組み合わせが決まったあたりで、メイベルはようやく解放された。

 やれやれと言いながらも、満足感に満たされていたメイベルだったが、姉の部屋から出てすぐのところで、一人の男性から呼び止められる。


「――失礼しますメイベル様。少しお時間よろしいでしょうか」


 連れて来られたのは、王宮の一角にある応接室だった。

 導かれるままメイベルが部屋に入ると、奥に控えていた二人の男性が頭を下げる。


「どうぞ、おかけください」


 ソファを示されたものの、そのただならぬ雰囲気にメイベルは警戒を強めた。

 恐る恐る腰を下ろすと、彼らもメイベルの向かいに座り込む。正面に座した白髪交じりの男性に、メイベルは見覚えがあった。


(たしか議会の書記長よね……)


 議会には、一番に王佐、二番に議長という序列があり、書記長は議長の下にあたる第三位の役職である。

 トラヴィスの失脚後、リードーが王佐補に昇格したため、議会では実質二番手に相当する権力者のはずだ。そんな彼がメイベルに、一体何の用があるというのだろうか。


「お引止めして申し訳ございません。ですが正直にお伝えしても、王宮へお戻りいただけないと思い、キャスリーン様のお名前を使わせていただきました」


 書記長の言い分に、メイベルは一層疑惑を強めた。


 キャスリーンはあくまで仮の理由。

 メイベルをここまで呼び出したかったのは、彼らの方だったようだ。


「アマネ様と、一緒に暮らしておられるそうですね」

「一緒にというか、勝手に転がり込んできただけというか……」

「仲がよろしくて安心いたしました。他大陸の方ではありますが、人柄的にも明るい方ですし、メイベル様と並んでもなんら遜色のない家柄です。お相手といたしまして、申し分なく……」


 アマネへの称賛を流れるように口にする書記長に、メイベルは眉頭を寄せる。


「……あの、私は何の用事で呼ばれたのでしょうか。まさか、アマネさんのことを伝えたいだけではありませんよね?」


 するとメイベルの苛立ちを感じ取ったのか、書記長はごほんと咳ばらいをした。



「失礼いたしました。単刀直入に申し上げます、メイベル様――婚約解消をしていただきたいのです」



 

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