第一章 4
キャスリーンお姉様はここ数日、騎士団長のゲオルグ様にご執心だ。そうでなくても恋多き女性で、落とされた男性は数知れず。そんな女性を仮面魔術師に差し出したとなれば、国中の男性が暴動を起こしかねないだろう。
ファージーお姉さまも既に恋人とされている男性がおり、メイベルも紹介されたことを覚えている。
音楽のこと以外控えめで、あまり自分の気持ちを見せないファージーお姉さまが、その時だけは本当に幸せそうに彼の隣でほほ笑んでいた。その姿を見て、メイベルはたまらなく嬉しい気持ちになったのを覚えている。
そんな二人を引き裂くなんて、とてもではないが出来るはずがない。
「……分かったわ。私が行きます」
「そう言って下さると思っていました」
悩みに悩んで絞り出したメイベルの言葉を、トラヴィスはさも予見していたかのようにあっさりと受け取りにっこりと笑った。この王佐、顔もいいのに性格だけは本当に食えない。
「確認するけど、あくまでも時間稼ぎなのよね。失敗しても仕方がないというか」
「はい。出来れば頑張っていただきたい、という議会の総意です」
それを聞いたメイベルは、深いため息をついた。
――かくして五番目の姫は、国を襲う脅威から守ってもらうという任務のため、顔も知らない怪しい男のもとへ嫁ぐことになったのである。