第三章 7
「……ん」
翌日、ユージーンは朝日の眩しさに目が覚めた。
こんなことは何年ぶりだ、と眉間に皺を寄せながら瞼を開く。
(なんだ、ここ……)
ぼんやりとした視界が鮮明になるにつれ、ユージーンは自分の部屋とは違う天井や内装であることに気づいた。昨日の自分の行動をゆっくりと思い出す。
(昨日は研究の続きをしていて、それで……)
魔法のある一節を書き出したところまでは覚えているのだが、どうもそれ以降の記憶がない。
視線を左に動かして、そこで止まった。
「……なんで」
そこには眠っているメイベルの姿があった。
椅子に座ったまま器用に眠っており、何故かユージーンの手を握ったままだ。そのことに気づいたユージーンは一瞬で思考回路が吹き飛んでしまう。
そのわずかな動きに気づいたのか、ユージーンの手を伝ってメイベルが目を覚ました。
ユージーンと目があったかと思うと、驚いたように両手を掴んできた。
「だ、大丈夫ですか」
「……これはいったいどういう状態だ」
「昨日部屋で倒れていたんです」
その返事にユージーンはああ、と目をつむった。
「いつものことだ。余計なことするな」
「いつもって、そんな毎回倒れているんですか⁉」
「少し気絶していれば朝には目覚める」
研究に気を取られている間は、睡眠や食事を忘れて集中してしまい、そのたびに倒れていると知ると、メイベルは信じられないという顔をしていた。だが少しだけ非難するような声色で、ユージーンの額に手を伸ばしてくる。
「まあ元気になったならよかったです。……うん、熱も下がってますね」
だがメイベルの手が額に触れた瞬間、ユージーンは大きく目を見開いた。
素肌に触れるこの感触。まさか。
「おい! 僕の仮面はどこだ!」
「え、こ、ここですけど」
突然の剣幕に、メイベルは脇の机に置いていた仮面を手に取った。ユージーンはそれをもぎ取るように奪い、すぐに顔に装着する。そのままメイベルに向かって叫んだ。
「お前、僕の顔を見たのか!」
ユージーンのその様子に、メイベルはどう答えたものか戸惑っているようだった。
「ご、ごめんなさい、汗をかいていたから拭いた方がいいかと思って」
「だから! 顔を見たのか!」
「み、見ました……で、でもすごく綺麗な顔だな、としか」
ユージーンはどう答えるべきか言葉を失い、メイベルはそんなユージーンの様子をちらりと窺うように覗き見ていた。だが沈黙に耐え切れなくなったのか、メイベルが必死に言葉を続ける。
「す、すみません、あの、」
「――正気か?」
ユージーンのその言葉に、メイベルははい? と変な声を上げた。
「頭は大丈夫か」
「そ、そこまで言わなくても、私だって必死で」
「違う。――『僕に惚れていないのか?』という意味だ」
ユージーンがそう言った直後、メイベルは眉間の皺を最大に深くし、「はあ?」と本気で首をかしげていた。