第三章 4
今日の夕飯は、厨房で見つけた魚のオイル漬と貝の缶詰、干した茸を塩で煮込んだものだ。
いくつか出てきた芋から傷んでいないものを寄りだし、蒸かしたものを添えている。
「うーん、おいしい!」
メイベルは綺麗にそれらを食べ上げ、残りをまた皿によそうと再び二階へと向かった。こんこんと扉をたたき、慣れた様子でユージーンの部屋に入る。
「ユージーン様?」
「……なんだよ」
見れば昨日とあまり変わらない出で立ちのユージーンがいた。
相変わらずこちらを振り返ることなく、机に向かっている。窓を開けてもいないのか、また少し室内が埃っぽくなった気がする。
「今日のご飯です。よかったら」
「いらない」
その返事にメイベルはため息をつく。
また外に置いておくか、と思いつつ、心配になってユージーンに声をかけた。
「あの、ずっと部屋にいると疲れませんか? 少し休んだ方が」
「……」
「せめて空気だけでも入れ替えたほうが」
「うるさい」
やはり取り付く島もない。
メイベルは眉を寄せていたが、仕方ないと部屋を出た。昨日と同様廊下に夕飯を置いておく。
(本当に大丈夫かしら……)
ここに来てまだ二日だが、日中ユージーンの姿を見ることはない。メイベルが掃除で走り回っているせいもあるかもしれないが、おそらく彼は一日中この自室に籠っているのだろう。
確かにクレアやファージーも、発表会前などは練習のため部屋に籠ったりする。だが食事はきちんととるし、部屋だって非常に綺麗なものだ。
魔術師だから普通の人と同じに考えてはいけないのかもしれないが、だからと言ってあの環境が体にいいとはとても思えない。
「でも私が言うことでもないわよね……」
そもそも自分が何かを言ったところで聞き届ける相手ではない。
メイベルはそう思いなおすと、再び厨房の片づけをしに一階へと戻った。