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第一章 五人の姫と婚約者




イクス王国には五人の姫がいた。


一番目の姫は戦姫。剣を取らせれば並みの男ではかなわない。

二番目の姫は歌姫。その声はセイレーンに勝るとも言われている。

三番目の姫は美姫。王子様に騎士団長、流した浮名は数知れず。

四番目の姫は奏姫。ピアノにヴァイオリン、彼女が奏でるは天上の音楽。

五番目の姫は――ええと、なんだったかな。



「メイベル~ちょっとお願い~!」


 三番目の姉の情けない声を聞き、末っ子のメイベルは急いで彼女の部屋へ駆けつけた。


「キャスリーンお姉様、一体どうしたの⁉」

「髪の毛が絡まってしまったの。どうしましょう、これからゲオルグ様とデートなのに」


 部屋に入ると、化粧台に座りこちらを振り向くキャスリーンの姿があった。周囲にはあわあわと顔色を青ざめさせる使用人たちがおり、どうしたものかと手を出しあぐねている。どうやらその美しい金の髪に繊細な髪飾りが絡まってしまったようだ。


「はいはい、ちょっと代わりますね」


 使用人たちに代わります、と笑顔で答え、姉の後ろに立つ。鏡越しに見るキャスリーンの緑色の目はひどく潤んでおり、頬は薔薇色に色づいている。ほとんど化粧もしていないはずなのだが、その色気だけで何人かの王子が求婚に来そうな勢いだ。

 メイベルは髪に絡まっている飾りを手に取り、丁寧に一本ずつ外していく。金色の髪は絹糸のようで、自分の髪とは艶やかさも柔らかさも違う。さすが美姫と呼ばれるキャスリーン、とメイベルは心の中で少しだけため息をついた。


「はい、これで大丈夫」

「ありがとうメイベル、やっぱり頼りになるわ」


 そう言って微笑むキャスリーンに、メイベルも笑顔を返す。だがすぐに他の使用人がメイベルを呼びに部屋に飛び込んできた。


「メイベル様! すみません、クレア様がお呼びで」

「氷室に喉に良い蜂蜜ジュースがあるわ。それを運んでちょうだい!」

「メイベル様~! ガートルード様がご帰宅なされたんですが」

「今行くわ!」


 慌てて玄関まで行くと、長姉が趣味の狩りを終えて帰ってきたところだった。

 一番上の姉、ガートルードは黒く艶やかな髪に同じく黒い瞳。凛々しい眼差しは高貴さと美しさを併せ持っていた。体には騎士団員と同じ装備を纏っており、腕からは真っ赤な血を一筋流している。それを見た使用人たちは真っ青になりながら、やれ消毒だ包帯だと彼女を取り囲んでいた。

 だが当のガートルードは周辺の慌ただしさには目もくれず、メイベルの姿を見つけると嬉しそうに手を振る。


「メイベル! こないだ食べたいと言っていた白鹿、捕ってきたぞ」

「お姉様……確かにおいしかったからまた食べたいとは言いましたけど、こんな怪我をされてまで欲しいとは言っていません……」

「はは、大した怪我じゃない。心配するな」


 ガートルードは腕に包帯を巻かれながら、心配そうにそれを見るメイベルの頭を撫でる。その爽やかさときたら。もし王子に生まれていれば、国中の女性から絶大な人気を得ていたことだろう。


「そういえばファージーがメイベルを探していたぞ? 次回の発表会に使うドレスについて相談したいと言っていたが」

「あっ忘れてた! 今から行くわ!」


 四番目の姉ファージーは、来月王宮でピアノの楽曲披露会に参加する予定だ。他国からも多くの著名人が訪問する一大イベントで、そこに着ていくドレス案について相談されていたのを思い出し、メイベルは慌てて自室へデザイン画を取りに走っていく。

 その姿を見送りながら、ガートルードはやれやれと笑った。



 このお城には、イクス王国の五人の姫が一緒に暮らしている。

 彼女たちは武芸や歌唱、芸術など、それぞれ何か一つ秀でた才能を持っており、「神に祝福された姫君たち」として有名だった。しかしただ一人、五番目の姫メイベルだけは、他の四人と違って特に目立った才能を持っていなかった。


 何の変哲もない茶色の髪に、平凡な緑色の目。

 それなりに可愛らしい顔立ちをしているのだが、美姫と呼ばれた三女を筆頭に、それぞれ個性的な美しさを持つ四人の姉たちと並ぶと、どうしても目立たなかった。

 国同士の交流会、舞踏会、発表会にと四人の姉は大忙し。そんな彼女たちのお世話に、お城の使用人たちは更に大わらわ。気づけばメイベルは、そんな使用人たちのお手伝いをして過ごすようになってしまった。




 

はじめまして、シロヒと申します。

投稿は初めてですが、少しずつ更新出来たらと思います。

どうぞよろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] >屋敷の使用人たちは更に大わらわ。 “屋敷”ですか? “お城”の方がいいんじゃないかと思うのですが……。
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