56話 グラート
二人は兵士に連れられてグラートと思われる人物がいるという東の関所に向かっていた。暫く走ると、東の関所の近くまで来た。すると、二人の前に兵士に行く手を妨害されている黒髮で短髪の男がいるのが見えた。その男は紺青色のタンクトップに少しだぼだぼしている黒のシーンズを着ていおり、刃物で切られたような大きな痕のある左肩からはクリーム色のリュックを下げ、背中には刃が左右非対称の氷で出来ているような綺麗な見た目をした、肩から腰下よりある大きな戦斧を背負っていた。そして、道の端にはそんな男と兵士のやり取りを珍しがってか人だかりが出来ていた。
「あの人物なのですが、見ての通りで……」
直ぐ側まで行くと、兵士がこの状況を見て困った顔をして言った。
「お前ら、何回言ったら分かるんだ!?俺はもうこの街を出るところなんだ!邪魔をするんじゃね〜よ!」
「グラート!!」
男を見たレンが驚いた様子で言った。
「あ〜!?誰だ俺の名前を呼んだのは……って、レンっ!?」
レンが男の名前を呼ぶと、兵士から目を離してレンの方を振り向いた。最初は自分の名前を呼ばれて怒っているようだったが、レンの姿を見て驚いたようだった。
「やっと見つけた、探してたんだからね?」
「それはこっちのセリフだ!一体何処に行ってたんだ!早くしないとレイナが……」
レンが呆れた顔をしながら言うと、グラートはそれに反論をして暗い顔をした。
「レイナは私が神器で病気を治したの。だから、グラートが旅をしなくても良いの。」
「それは本当か!?」
グラートはレンの言った事が信じられないといった顔をしていた。
「うん。奇跡的に何とかなったのよ。」
「そうか、それは良かった。このままだったら何も出来ないままレイナが死んじまうんじゃないかと思ってな。諦めかけてたんだが、助かったんなら良いんだ。」
レンの話を聞いたグラートは安堵の表情を浮かべていた。
「それでレイナが助かったのにどうしてレンがここにいるんだ?」
「はあ〜!?あのね、あんたを見つけ出してレイナの事を伝える為に決まってるでしょう!?」
「お、おう。それはありがたいな……」
グラートの言った事にレンが食い込み気味で、眉間に皺を寄せて指をグラートの方に指して怒りを露わにしながら近づけて言うと、それに圧倒されたグラートが体を後ろに少し反らして両手の平をレンに向けながら、困った顔をしていた。
「まったくもう……」
レンはそんなグラートの様子を見てか、呆れた顔をしていた。
「そう怒るなよ……それにレイナが無事に病気が治ったんだったら、俺はエルナ村には帰らずにもう少し旅を続けようと思う。」
「え?どうして?」
レンはグラートの自分が予想していなかった事に鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。
「俺がレンを連れ戻すためとレイナの病を治す方法を探しながら旅をしている時に、とある事件があってな。」
「ある事件?」
真剣な面持ちで話すグラートにレンも真剣な面持ちで聞いた。
「ああ、俺がエルナ村を出てから二週間ぐらい経った頃だった。ノズルと言う少し大きな町でレンの行方やレイナの病を治す手掛かりがないか情報を集める為に立ち寄ったんだが、事件はもう始まっていた。俺がノズルに着いたのは夜だったんだが、町に入って宿を探す為に少し歩いていると、町の外れの方から悲鳴声が聞こえてきてな。何かあったのかと思って悲鳴のした方に行くと、そこには全身を何かで刺された様な無数の穴が空いて血を流して死んでいる人が数十人分はあった。すると、その現実離れした状況に呆然としていた俺の視界に平然と倒れている死体を踏みながら近づいて来る男がいた。俺はその異常な行動に恐怖を感じていると、その男が腰に下げていた剣を抜いて、俺に振り下ろしてきた。その時に躱しそびれてついた傷がこの肩の傷だ。それからその男はどういう訳か何も言わず姿を消した。あいつは普通じゃない……。これがノズルで起きた事件だ。それから俺はレンを探して、レイナの病気も何とかひと段落がついたらあの男の行方を探す為に旅に出ようと思ってたんだ。」
「そんな事が……」
レンはグラートの自分が知らなかった出来事に深刻そうな顔をしていた。
「と言う事で、俺はこのまま旅を続ける。」
「……分かった、気をつけて。」
「ああ。それはそうとレンはこれからどうするんだ?」
「私はシンと一緒に旅をしようかなと思う。」
「シン?」
グラートはシンと言う名を聞いて不思議そうな顔をしていた。
「そういえば、まだ言ってなかったね。今この人と一緒に旅をしているの。」
レンがそう言ってシンの方を見た。
「ふ〜ん。」
「どうも。」
グラートはシンの事をじっと見つめた。シンはそんなグラートに軽く頭を下げながら挨拶をした。
「なんかパッとしねぇな。」
「……」
「ちょっと、シンもあんたを探しにここまで来てくれたんだからお礼の一つぐらい言ったら?」
グラートの発言にシンは目を細め、レンは呆れた顔をしていた。
「そうなのか?悪いな。でも、なんかこいつからは覇気を感じないんだよな……」
「なんとでも言え。」
「もう〜……」
グラートと二人の険悪な雰囲気にレンは困った顔をしていた。
「とりあえず、レンにも会えたし、レイナの病気も治ったんだったら、俺はこれからノズルで会ったあの男の事を調べたいから行くぞ?」
「う〜ん……」
グラートは出発する気満々だったが、レンは不満そうな顔をしていた。
「まあ、何だ、シンとかいうの。レンの事は任せた。」
「ああ、言われなくても分かってる。」
「そうかよ、じゃあな。また、どっかで。」
「あっ、ちょっと!?」
グラートはそう言うと、東の関所に向かった行ってしまった。レンはグラートを止めようとしたが、聞く耳を持たず、止まらずにそのまま行ってしまった。
「前からあんな感じなのか?」
「うん、何かやると決めるとそればっかりに集中しちゃって。昔から大変だったんだけど、多分、今回もそんな感じなんじゃないかな。」
「ふ〜ん。」
「これでよろしかったのですか?」
今までの事を聞いていた兵士がレンに聞いた。
「一応、グラートには伝えたい事は伝えられたので大丈夫です。」
「そうですか。では、このまま王城まで案内します。」
「はい、お願いします。」
こうして、二人はグラートとの会話を早々に済ませて別れた後、王城に戻った。
次回、ガールズトーク
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