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01

 男はまだ納得できていない表情を浮かべていた。眉間に皺を寄せ端正な顔を歪ませている。


 背が高く無造作な黒髪の合間から鋭い眼光を覗かせ、それだけで他者を圧倒させる力がある。


 部屋には男ふたりと女ひとり、机の上に置かれた見慣れた町の地図を三者三様に見つめ、共に同じ制服を身に纏っていた。


 闇と気高さを表す黒を基調とし、光と礼節を示す赤がラインと裏地に取り入れられている。


 襟元から左側に漆黒のマントがかけられ、さらに肩章、飾緒、フロント部分にシメントリーに並ぶ釦はすべて金で装飾されていた。


 この国の、ひいては近隣諸国の人間が見ればすぐに彼らが何者なのか理解できる。アルノー夜警団の団服だ。


 難しい顔をしていた男、スヴェンは視線を動かし、ついに口火を切った。


「セリシア、お前どう見る?」


 話を振られた女、セシリアは口に手を添えしばし考える素振りを見せた。うしろでまとめ上げきれず、サイドに落ちた柔らかい金の髪がかすかに揺れる。


「なんとも言えませんね、ただ陛下直々の命であり、双璧元帥(アードラー)のおふたりが揃って動くということはそれなりの事案なんだとは思いますが」


「そう深く考えるなよ、スヴェン。我々は命じられたまま動くだけだ。とくに今回は我が夜警団の総長(グランドマスター)であり、アルント王国国王クラウス陛下の勅令だ。余計な詮索は無用だろ」


 慎重に言葉を選んだセシリアとは対照的に、もうひとりの男ルディガーが楽観的な口調で告げた。さらさらと色素の薄い短めの茶色い髪と同じ、ダークブラウンの瞳が細められる。


「今回の件、私もご一緒してかまわないんでしょうか」


「自分の副官を連れて行ってなにが悪い? それにいざというとき誰が俺の骨を拾うんだよ」


 不安げに尋ねたセシリアにルディガーがあっさりと答える。ちなみに彼女が質問した相手はスヴェンだったのだが。


「また、あなたはすぐにそういうことを……」


 セシリアは呆れた面持ちでため息をついた。自分の直属の上官であるルディガーはいつもこの調子だ。


 どこまで本気でどこまで冗談なのか、長い付き合いになる彼女自身もいまだによく掴めない。


 石畳が剥き出しで、城の内部だというのに特別な装飾もなく無機質な部屋にはひんやりとした空気が淀む。三人の地位を鑑みれば分不相応ともとれるが、密談をするにはぴったりだ。


 この部屋を知る人間は限られている。蝋燭の明かりがふっと揺れた。ただひとつ換気や外部の様子を見るために設置された小さな窓の外では夜の帳が下りてきている。


 スヴェンは視線を外にやり、重々しく口を開く。


「日も落ちた、動くぞ」


「では、捕らわれのお姫様を助けに行くとしますか」


 仰々しく言い放つルディガーにスヴェンが皮肉めいた笑みを向ける。


「……どうだろうな、魔女かもしれない」

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