幼馴染みは攻略対象1
「やっぱ、お前の作るご飯が一番美味ぇ…」
いや、何勝手に人のおかず食べてご満悦だよ!
あんたの好物なのは知ってるけど、私も好物よ?
肉好き女子の私の肉を奪うとか幼馴染みムカつく!
皆様グーテンモーゲン。
大学のカフェテラスで、1人まったりお弁当食べてる伏見百々果です。
今日はガッツリ行きたくて、お昼ご飯にテニスボール大の肉巻きおにぎり1つにハンバーグ、アスパラベーコン巻き、ハムと鳥ささみのポテトサラダ、鶏皮餃子にミートボール入りナポリタン、という、茶色くて赤くて女子にドン引きされること間違いなしな手作り弁当(因みに三段重ね弁当)を食べてたら、バレー部の練習を終えた幼馴染みがひょっこり顔を出して、1つしかないハンバーグをパクりと食べてしまいましてね。
食べようと箸を伸ばしてた私は激おこです!
「ちょっと、何勝手に食べてるのよ?!私の肉を盗らないで!!」
「悪ぃ、腹ペコで我慢できんかった」
「自分のがあるのに、何で人のモノに手出すかな?!お行儀悪いって何回言わすの」
「だって、モカの作るハンバーグが一番好きなんだもん」
「二十歳過ぎた男が“だって”とか“もん”とか使うなバカ〜!」
全然悪びれた風もなく、指についたデミグラスソースをペロッと舐めとる動きが小動物ぽくて、あざとい。
近くにいた女子三人組が“かわいい〜”なんて、黄色い声をあげながら足をジタバタしてる。
因みに、彼とその兄もゲームでは主人公の攻略対象でして。
私達兄弟の右隣のお家に住んでいて、幼稚園の頃からの幼馴染み。
朝参櫂也くん、私とは同い年で爽やかわんこ系スポーツ男子、少し赤みがかった茶髪で目がくりくりしててタレ目、大学もバレーボールのスポーツ推薦で入学していて、u‐18で日本代表選手にも選ばれたスポーツエリートなのだ。
身長は170センチとバレーボール選手にしては大分小さめだけど、櫂也くんは生まれ持ったバネの強さ、ジャンプ力が半端ない。
それに加え、腕のリーチが長めでボールコントロールがめっちゃ上手くて、高校時代はアタッカー兼セッターとして活躍してたんだ。
コミュニケーション能力がずば抜けていて、人懐っこい天然甘え上手な櫂也くんはそりゃ人気があって、幼馴染みってだけで懐かれる私に、女子の当たりはすこぶるキツい。
好きで幼馴染みに生まれたわけでもないのに、妬み嫉みで結構なめにあったし、大学に入ってからも所謂攻略対象のイケメンの皆様と交流があるのも相まって、身に覚えがない噂がSNSなんかで出回ってたりするので、私的にはゲームで攻略対象だった人達とは顔見知り位の距離感でいたいんだけどね。
「モーカ、折角の可愛い顔が台無しだぞ?ほーら、笑顔笑顔」
ぷにっ、と右の頬が突っつかれ、突如重くなった自分の肩と背中に一瞬気が遠くなる。
背中から私に抱き付いている、もう1人の幼馴染み。
五十鈴幹比古、少し長めの黒髪にキリッとしたつり目、縁なしのシルバーの眼鏡がよく似合う、同い年の彼は小さな頃からスキンシップが激しく未だに櫂也くんや私、私の姉や兄にもよく抱き付いてくる。
別に昔からの事で今さら抱き付き魔なとこを気にしたりしないけど、時と場所は選んで欲しいぞ、こら。
彼は高校時代に趣味で書き始めたネット小説が人気をはくし現在はイケメン大学生小説家として、度々メディアにも取り上げられる存在なのだ。
高校時代に書き始めたその異世界ファンタジー小説は、現在某大手出版社により八巻まで刊行され、一昨年アニメ化もされてそりゃもう色々大変な事になったのは言うまでもない。
「…ミキ、人前で抱きつくなと何度言えば学習するのかな?ん?」
「あはは、モカったら冷たいな〜…僕とモカの仲でしょ?」
「頬を顔に擦り付けるな、ったく…何でこう私の幼馴染みは空気よまない奴ばっかなの…」
「あー、なんだよ!俺はミキと違って、ちゃんと空気読んでるもん!」
「だから“もん”とか言うなし、そして鶏皮餃子に手を出すなっ」
空気読めない天然のくせに、櫂也くんは自分は空気が読めると右の拳を握り息巻いているけど、そう話しながら左手はまたしても私の大事な肉に手を伸ばしてくるから、迷わず手の甲をパシリと叩き落とした。
肉と甘いものが大好きなちょっと控えめに見ても大食いな私の食料に手を出す奴は許さない、食べ物の恨みは忘れないからね。
「ふはっ…本当にモカは食い意地はってるよね、でも何時も美味しそうに食べるから僕は見てるの好きだよ?」
「俺も、俺も!モカはモリモリ気持ちいいくらい美味しそうに食うから好き!」
「…だから空気よめよ、天然コンビ…」
なんでミキは頭をなでなでしながらそれを言うかな?
なんで櫂也くんは私の両手を握って満面の笑顔なの??
周りの空気が5度は下がった感あるからね、二人とも?!
ああ、本当マジで、私にあまり構わないで下さい!
私をただのモブで居させてよ、神様勘弁して下さい!!




