最終話 「夢で逢えたなら」
空は青く晴れ、雲一つない。大地には草が生えさわさわと波打っている。草の海を突っ切るような一本道を一組の親子が歩いてる、
「今日はいい天気ですねーお父さん」
「そうだなぁ……よし! 今日は海まで行ってみるか!」
「うん!」
それはどこにでもいる普通の親子だ、何の変哲もない普通の。
娘は父の宝だ。生まれてすぐは体が弱くひやひやする事が何度もあったが妻と協力してここまで育て上げた。今では外で走り回れるほど元気になった。
父のそのまた父の更に父の時代では空から『天の火』と呼ばれるものが降ってきたと言われている。作物は枯れ水は汚れてまともに人が住める状態ではなかったらしい。もっともそんな事を言われても実感が湧かないが。
だがある日、天の火はぱったりと見かけなくなった。人々は文明を立て直し数を増やしていった。
「お父さーん! 遅いよ~!」
「はいよー」
元気に駆け回る娘を見る事が彼の幸せなのだ。
「海だー!」
砂浜を駆けまわり、波打ち際で遊ぶ。楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。
「よし、じゃあお母さんに花でも摘んでいこうか?」
「うん! 摘む!」
この海岸には一か所だけ花が集中して咲いている場所がある、海の見える眺めのいい場所だ。
「さて……摘むか」
「うん」
二人で青や白、紫の花を集める。色とりどりの花は見ているだけで心が安らぐものだ。
「ねえ、お父さん。この紫の花はなんていう名前なの?」
「ん? ああシオンって言うんだ」
「シオンかぁ……花言葉は?」
「ん~確か……『君を忘れない』だったかな?」
「じゃあこっちのは?」
「アイリスだな。花言葉は『希望』だ」
「じゃあじゃあ……」
「そいつは歩きながら教えてやるからとりあえず帰ろう」
「分かった!」
二人は元来た道を歩き出した。彼方に太陽が沈んでいく。
「帰ったら畑で野菜を取ろうか、採れたてだから新鮮だぞ」
「やったぁ!」
帰りながらそんな他愛ない話をした。
「そうだお父さん、あの青い花はなんていうの?」
「ああそうだったな、え~と確か……そう! ニゲラ! ニゲラだ」
「変わった名前だねぇ」
「そうだね、名前は変わってるけど父さんは好きなんだ……花言葉がね」
「どんな花言葉なの?」
彼は笑った、昔からニゲラの花言葉が好きだったのだ。何というか……語感が良いからかもしれない。
「もう会えない人にね、自由に会える場所がどこか知ってるかい?」
「ん~わかんない」
「それは夢の中だよ、夢の中なら会いたい人に会うことも出来るしやり直したいことだってやり直せるし」
娘は黒い髪をたなびかせている髪だけは父に似て黒くなってしまったが気に入っているようなので父としては嬉しいものだ。
「ニゲラの花言葉はね……」
--夢で逢えたなら。