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不死の男と短命少女  作者: ネコパンチ三世
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四話 「過去」

 「完璧だ! 朽ちず年を取らない体! 私たちはここに人類の夢である『不老不死』を完成させたのだ!!」


「素晴らしい! どれだけ傷付いても再生する!」


 --痛い……痛い……誰か……助けて。


「ほらほらぁ! 綺麗でしょ!」


 どいつもこいつも同じ事をいう中で一人だけ全然違う言葉をかけてきた人がいた。


 「どうしたの? ボーっとして」


 アイリスに声をかけられ我にかえる、『奴』の事を思い出そうとすると決まって心がどこかに行ってしまうような感覚に陥るのだ。そのくせ思い出せない上にろくでもない記憶ばかり掘り返してしまう。


「わりぃわりぃちょっとな、で感想は?」


「すっっっっっごい!!」


「単純な奴だな……」


 『世界が見たい』といったアイリスを連れて今日は山の頂上に来ていた。頂上から見る景色は絶景にほかならない。眼下に広がる景色は普段いる場所とは違う所に来たという事実を強烈に叩きつけてくる。


 アイリスを連れての旅ももうじき二週間になる。その間に見せれる場所は可能な限り見せた、荒廃したビル群、火によって焼き払われた森や大地、人々の暮らし……等々である。今日は山が見たいと言われたのでまだ焼かれていないかつ緑が残る山を選んで訪れている。


「さて、次はどこが見たい?」


「うーんとね……」


 そう言って、背中のリュックから古ぼけた一冊の本を取り出す。『絶景百選』というおよそこの年の少女が読むようなものではない雑誌はニゲラが拾ってアイリスに手渡しだものだ。それを見ていつもどこへ行きたいか選ばせていた。


「海!」


「海かぁ……遠いけど大丈夫か?」


「最近は調子いいから大丈夫!」


 この二週間で一番苦労したのは食事だ、アイリスは『残り火』に対する耐性がないためその辺で売っている食材や水は口にすることが出来ない上に残り火の影響を受けていない食材は中々手に入らない。


 それでも何とか手に入れ節約しながら与えていたが。十分な量とはいえず最近は体調を崩しがちだった。だがアイリスは不平不満や弱音を吐くことは一度も無かった。


 アイリスは、少し抜けていて気遣いができて、我慢強くて朝に弱い。二週間程度の付き合いだが分かってくることは多い。単純に裏表がなく隠し事ができないだけなのかもしれない、悪く言えば底が浅いといえるのだろうか。


「ねえねえ、昨日の続き! 早く教えてよ!」


「わーったよ」


 最近はもっぱら『文字』の勉強に勤しんでいる、理由としては雑誌を読んでいる時に読めない文字があったかららしいがどうやら他にも理由があるらしいが理由を聞いても決まって、


「内緒!」


 と言われるので未だに真意は掴みかねる。


 勉強を終え、朽ちた廃屋で食事を取っている時にニゲラは唐突にアイリスの過去の話を聞いてみたくなった。今までの生活の中で何度か聞くタイミングはあったが何となく聞かないでいた、それはきっと面白く名もなんともない話だろうし本人も話したくないだろうと考えたからだ。


 いつもなら、聞かないでその好奇心に似た感情を押し殺すのだが今日はだめだ。どうしても聞きたい。そんな感情に飲まれてしまう。


「お前さぁ、今までどうやって生きてきたんだ?」


 真っ暗な部屋にはランプの明かりが一つ、その光に照らされながらパンをかじっていたアイリスは口の動きを止め、ゆっくり話し始めた。


「……気付いたら私はもう檻の中にいた。売られちゃったかもしれないし攫われたのかもしれない、もしかしたら私は檻の中で生まれたのかもしれない。とにかくそこで見る景色はみんな一緒だったよ」


 遠くを見つめ過去の事を話すアイリスはまるで別人のように感じられる。それほどまでに辛い過去だったという事は分かっていたがそれは想像以上だった。


 景色を見るのは冷たい鉄格子の隙間からだけ、食事はまともに取れなかったためいつもお腹を減らしていて何度も餓死しそうになった事。寒さに震え暑さに渇く日々を過ごしてきた事。そのどれもが一生に一度だって味わいたくない事のオンパレードだった。


「でもね、悪い事ばかりじゃなかったよ。檻の中にいた私に優しくしてくれた人もいたし、檻を開けて逃がしてくれた人もいたし……私にいろんな世界を見せてくれる人にも会えたからね」


 そう言ってアイリスはニコニコしながらニゲラを見ている、その顔があまりにも嬉しそうだった

のでつい彼もにやけてしまっていた。


「ったく……そんな気の利いたセリフどこで覚えてきたんだか」


「じゃあ次はニゲラの番だよ」


「は?」


「私も知りたいな、ニゲラの事」


 アイリスがそう思うのも無理はない。ニゲラもアイリスに今日まで過去の話を聞かない代わりに自身の事も全く話していなかった。彼は大きなため息を吐くと諦めたように話し始めた。


「最初に言っておくけどな、楽しい話じゃねえし長くなるからな」


「うん」


「さて……どっから話すかな。俺が生まれた時からかな」


「ニゲラが生まれた時? お父さんとかお母さんの話?」


「アホ言え、そんな上品な物なんておれにゃあ無かったよ……俺もお前に少し似てるかな」


「似てる? 何が?」


「お前さぁ、さっき『檻の中で生まれたかもしれない』って言ってたろ? 俺もなんだよ、ただ『かもしれない』じゃなくて俺は『檻の中で生まれた』んだよ」


 --あのやたらでかくて孤独な檻の中で。

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