第一章 誕生
「さあ!目醒めよ‼新たなる改造人間よっ」
ん?どこだここ?病院かな?
辺り一面緑色・・・いや違うな、足が地面についている感覚がしない。緑色の液体に漬かっているのか、ガラスの色が緑色なのかは分からないがどうやら俺は水槽の中にでもいるらしい。とりあえずガラスを触ってみ・・あれ?おかしい。俺は運動なんて全くしてなかったはずだ、なのに超ムキムキ⁉どこぞのアメコミ映画の"キャプテン"みたいだ。
「おおっ‼成功じゃっ❗それでは早速ポチッとなっ‼」
えっ?何かの実験?俺、実験台にされちゃったの?じゃあこのまま洗脳とかされちゃって…絶対ヤバイっ
ってあれ?液体が抜けてくだけ?ガラスも下にウィーンて下がっていくだけだし、どういうことだ?
「さあ新たなる改造人間|"飛蝗男"《バッタおとこ》よ!歩いてわしのところまで来てみせよ‼」
馬鹿にするな、赤ん坊じゃあるまいし自分で歩くことくらいできる。そおれ見てろ!
ガクッ!ツルッ‼
えっ⁉嘘だろ?歩けねえ!めっちゃ筋肉あるのに❗ ん?
イヤイヤイヤ、マジで嘘だろなんで変な液体もガラスもないのに俺の体が緑なんだよ、一体どんな実験されたんだ俺!家に帰れんのかよ宿題国語以外全然やってねえのに、一体何がどうなって⁉それにバッタ男って?
「ハッハッハッハ!まるで自分の身に起きた事がマッタク分からんっ!どうなっとるんじゃーーーーーーーいっ‼とでも言いたげな顔しとるのう?おぬし、まあまずは鏡を見んしゃい」
鏡?まあ結構遠くの方に鏡あるけど、ってこんなに視力良かったっけ?まあいい、写ってる俺の体は、昆虫図鑑でよく見るバッタの顔をちょっと横に引き伸ばしたような顔をしていて、目・・というか複眼は赤く、人間でいうおでこのあたりに黒い触角がにょきっと生えていて、首から下は腕の筋肉のつき方から予想した通りムキムキかつ緑色で謎の黒い斑点がポツポツとあって、手の爪も黒く、そして魔女の爪のように伸びていた。
「ああクソッ!どうなってんだ!元に戻しやがれ‼」
と言おうとしたんだが、クソッ顎がパカパカ開くだけで何も喋れねえ!
「ハッハッ!どうやらうまく喋れんようじゃな、まあ安心せい、歯と舌はあるから慣れれば普通に喋れるじゃろう。」
「どうやらわしに抗議したいらしいな?その"触角”からビリビリ"伝わって”くるぞう?ハハハハハっ!」
「元には戻れんが、全身の力を抜いてなりたいものをイメージすればイメージしたものに"擬態”できるぞう!」
えっ⁉そうなの?じゃあ力を抜いて、えーっと自分の顔ってどんな感じだったっけ?えーっと………
「お前さんの住んどった世界ではどういうのが男前っちゅうんか知らんが、自分の顔完全再現よりもいっそのことおもいっきり自分を美化して男前にしてもた方がエエぞ。どうせ擬態やしな」
どうやら頭の触角で俺の考えは筒抜けらしい。心を読まれるのは嫌だが、ここはお言葉に甘えて細マッチョなイケメンを想像させてもらおう、別に元からイケメンでもなかったし。
「わしが心を読んどる訳じゃあない、お前さんが勝手に心の中を撒き散らしとるんじゃ。」
うるさい、今集中してるんだから黙っててくれよ爺さん。
日本人らしく黒髪で、清涼飲料のCMに出てそうな爽やかな顔、そしてもちろん細マッチョ。こんなザックリなイメージでいいかな? いや、グチグチ言ってても始まらない!いざ、オープン‼
「おほ!(おお!)おおひおういおあおあ(望み通りの顔だ!)」
やっぱりうまく喋れない。
「まあ慣れじゃよ、お前さんその姿に擬態して大分落ち着いたようじゃし、どうじゃ?わしの昔話でも聞くか?」
「そうぇうぇっひゃひょうひあひあふ!(それめっちゃ興味あります!)」
「はははっ!わざわざ言わんでも触角のテレパシー能力でお前さんの言いたいことは分かるわい。」
「まず、この世界はお前さんの住んどった世界とは違う世界。いわばお前さんらの言う"異世界"じゃ。」
「わしはな、この世界で初めてお前さんらのいう"遺伝子"を見つけて論文を書いて発表したんだが、何せお前さんらの世界とは違って"魔法"っちゅう便利なものがあってな、まあ、想像つくじゃろ?火とか水とか出すやつじゃ。その"魔法"でホムンクルスとかの"意志のない便利な生物"を生み出すこともできちまうわけだから
わしの研究はどうでもいいものとして扱われた。」
「それが何より悔しくてのう、だから人間の遺伝子をベースに様々な動物または植物の遺伝子を組み合わせて最強生物兵器"改造人間"略して
"改人" を造って暴れさせてわしの研究を世界に認めさせてやろうと思ってな。」
「近所の墓の死体掘り返して、その死体に電気ショックを…」
「ひょっとひょっとひょっと!(ちょっとちょっと!)ひぇふぁいひひふふほへふふんほひほへはへふはへひ(世界に自分の研究を認めさせるために)ひゃふほほはははあはひっへ(やることが墓荒らしって)ひっはいはあ⁉(ちっちゃいなあ⁉)」
「やかましいわい‼ともかくわしは死体に電気ショックを与えた後、蜘蛛の遺伝子を与えてみたんだが、肉体はお前さんのように変異したんじゃが意識が目醒めることはなかった。」
「それから何回か蝙蝠や蛇なんかの遺伝子に変えたり、死体の蘇生方法を変えたりして実験を重ねたが、どれも似たような結果じゃった。」
「その結果からわしは変異させた肉体に魂をぶちこむしかこの実験を成功させる方法はないと考えた。」
「はっひふふーひはへほ(さっきスルーしたけど)ほほはははほひはいはんはほは?(この体も死体なんだよな?)」
「そうじゃ、わしは魂について研究していくうちに"平行世界"つまりお前さんが住んどった世界の存在に気づき、さらにその世界で死んだ者たちが"さらに上の次元"へと昇っていくのをみた。」
「その死んだ者たちが"上"へと昇る時の姿、元は脳内にあった微弱な電磁波が炎のような形になったもの。それが"魂"じゃ。」
「ふーふ(うーん)、ふふはひふひへ(難しすぎて)はっはひ(さっぱり)」
「まあ、この考えがわかってもらえるとも思っておらん。わしは"上"へと昇っていく魂を捕まえて冷凍保存していたこれまでの実験台にぶちこんだんじゃが、こんなに壮大な事に気づくととたんにわしの願いがちっぽけなものに思えてな。」
「改人を造る研究の傍ら、食うために育ちやすく増えやすい野菜や豆の研究もしとったから幸い食うには困らんし、毎日畑を耕しとるから介護も必要ない。じゃから改人たちに好きにせい、ただしここに住むなら畑は手伝ってもらう!といったんじゃ。そしたら旅出るに出る者もいればここに残る者もいた。」
「さあ、お前さんはどうする?」
いや、どうしたものか。ここに残るのがベストな判断だろうがそれじゃつまらない。それに、せっかく異世界に来たのだからこの世界を旅してみたい❗
でも、このまま触角から心の中垂れ流しで人里に行く度胸はない。さて、どうしたものk…
「わかった!ならばこうしよう。お前さんは一旦ここに留まって先輩の改人たちから能力の使い方を学び、それから旅に出る‼これでどうじゃ⁉」
俺に迷いは無かった。
「はい!しばらくの間お世話になります。」
こうして俺の異世界生活が始まった。