はろうぃーん!
当日の九時半からハロウィンSS書き始めるとかまじか?
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秋も深まり、夜風が冷たくなってきた頃の夜。
「はっぴーはろうぃーん!」
なんて声を上げながら、三角帽子を頭にのっけたアリシアが俺に両手を広げた。自室で月末の報告を纏めている俺は、突然開いたドアにゆっくりと視線を向ける。
巷では妙なことに仮装をした子供へ菓子を配る祭りが流行っているらしく、それにアリシアも乗じたらしい。しかし三角帽子を被っただけで仮装とはいかがなものかと思ったが、本人はそれでけっこう満足しているようだ。
「とっくりおわとーとり?」
「……トリックオアトリート、じゃないのか」
菓子かいたずらか、だった気がする。生憎と世間に疎いのをどうにかしなくては。
「そうそれ! クレア、お菓子くれないとイタズラしちゃうよ?」
「そうか。それは嫌だな」
と、アリシアに返事をしながら上着のポケットから小さいチョコレートを差し出された手のひらへ落としてやる。
アリシアはぽかんとした様子で自分の手の上の菓子を見つめた後、それはそれは不思議そうな顔をして俺の方へと視線を向けた。
「なんで持ってるの?」
「お前が言うと思って……と、前科があったから、だな」
昼のうちに嫌なほど学んだので、それくらいは準備しておいた。自衛のため、と言い換えてもいい。
しかしアリシアは不満だったらしく、頬を膨らませながら訝し気な目でこちらをじろじろと見つめてきた。
「むぅ……クレアにイタズラしようと思ってたのに……」
「それが嫌だから言ってるんだろう。お前の悪戯なんて考えられん」
「……口移しでチョコレート食べるとか?」
「尚更だろう」
悪戯というよりもただ惚気たいだけらしい。というより疑問形ということはまた無計画に行動に移したのか。
向こう見ずというか行き当たりばったりというか、目の前で困ったままのアリシアにため息を一つついて手を伸ばす。三角帽子の上から小さな頭を引き寄せると、その青い瞳を覗く。
「ほら、ちょっとその菓子開けてみろ」
「ん、わかった」
小さな包装紙をぱりぱりと捲って、アリシアが小さなチョコレートをこちらへ渡してくる。甘いその塊を指でつまむと、その反対の手をアリシアの額へ。
「目、閉じてろ」
「え? もしかして……!」
「いいから」
少し興奮気味になりながら、アリシアが目をつむってんー、と顔をこちらへ向ける。なんとも無防備なその姿に、いつもの仕返しとばかりに悪戯心を働かせながら、俺はつまんだチョコレートを自らの口元へと持っていく。
口移しなどしたことがないから知らないが、まあそれは流れで問題ないだろう。
唇と唇を近づけながら、その間にチョコレートを持っていく。その距離は鼻息が当たる距離まで。なにやら期待しているらしいアリシアは、頬を紅くしたまま目を閉じて何かを待っている。
そして、アリシアの唇にチョコレートを触れさせて、
「アリシア、あー」
「あー?」
ぽかんと空いたアリシアの口へチョコレートを放り込む。
なにが何だか分からないように目を見開いたアリシアは、とりあえず口の中のチョコレートをもぐもぐと味わいながらこちらを見上げたまま固まっている。俺はそのまま椅子を元に戻し、机の上に置かれた書類へと手をつける。
そしてごくん、とチョコレートを飲み込んだ後不意に俺へと口を開いた。
「なんでしてくれないのっ!」
「そういう悪戯だ」
言い放ってやるとアリシアは妙に納得したのか、それでも不満そうな顔は崩さずに唇を尖らせる。
「むぅー……なんかちがうよぉ……」
「違うも何も、悪戯は悪戯だろ。今日はそれで我慢しとけ」
「……けちんぼ」
「そこまでか」
そこまでらしい。アリシアは何も返さず、つん、と三角帽子のつばを掴んでそっぽを向いてしまった。
「いや、悪かった。だから機嫌直してくれ」
「…………いたずら」
「……ああもう、好きにしろ、ほら」
再びアリシアの方へと振り向いて両腕を広げると、そこにちょうど入るようにアリシアが抱きついてきた。そのまま三角帽子を気にせずにアリシアは俺の膝の上へまたがり、向かい合う形ですとん、と座る。
そして、突然広がるチョコの香り。やわらかい感触が唇から離れる。これが彼女の言う悪戯らしい。
「……ん」
「……お前はこれしか知らんのか」
「でも、びっくりしたでしょ?」
「そうだな」
精神的というよりは、肉体的な話だが。
「満足したか?」
「……まだ、ちょっと」
「そうか」
崩れるように俺の体へなだれ込むアリシアに、ため息を一つ吐いて小さな背中へ手を回す。
「好きにしてろ。そろそろ仕事も終わるから」
「うん、わかった」
秋の夜長。冷たい夜は、こうして二人でいる方が暖かい。
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ちなみに前科というと。
「トリート! トリートですトリート! 先輩、トリート下さい! 菓子じゃなくても大丈夫です!」
「お前は祭りの趣旨からして違うな!」
子供でもないのに菓子をねだるラウラだった。
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