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小さな楽しみ見いつけて

作者: 長津井

「あー、どうしてこうなったかなぁ」

 俺はひとりごちた。

 まさかここまで友達はおろか、話し相手すらできないとは。


 俺、坂根秀司は××県立日根東高等学校の1年3組の生徒である。入学から早一ヶ月が経とうとしている4月も終わりの今日、机に頭を突っ伏して嘆いていた。


 なぜ、このような事態に陥ってしまったのだろうか。まぁ理由は幾つかあるだろうが……。まず一つ目は同学年に俺と同じ中学出身の奴が一人もいないということだろうか。実は、俺はそれなりに遠距離通学をしている。俺は、ここ日根東高校は県下でも有数の進学校であり、遠距離通学をしてでも行く価値があると思って受験したが、多くの奴はもっと中学に近い高校に進学した。

 あと、俺の出身中学が小規模校であったことも関係しているだろう。それはともかく、俺は単身でここに乗り込んできたとういうわけだ。


 二つ目は……俺の性格かな。元来俺はそこまで人付き合いのいい方じゃないし、初対面の人にどんどん打ち解けていけるような人柄でもない。

 

 あとは、入学式の日に遅刻したことも響いてるのかもしれない。……くそ、J◯め、電車遅らせて「誠に申しわけありません」で済まされると思ってんのか。まぁ怒っても仕方ないか。



 窓際の後ろから2番目の自席から外を見やると、どんよりした灰色の雲が空を覆っている。朝、ということもあって寒い。菜種梅雨、ということなのかここ数日こんな天気であり、さらに気が滅入るのであった。


 ふと、教室の中央を見てみると、数人の男女が何やら盛り上がっている。たわいのない話をしているのだろうがすごく楽しそうだ。彼らはクラスの中でも中心に属する「イケてる系」といったところだろう。なんで、彼らは出会って一月弱しか経っていないというのに、あそこまで親しくワイワイできるのだろうか。俺とは違う人種なのだろうか。


 しかし、俺は先日気づいたのだ。待っていてはこのままだ、と。確かに自分から話しかけるのはエネルギーと勇気がいるし、人から話しかけられる側の方が人気者っぽくて気分がいい。

 けど、もう4月も終わり。そろそろ誰か友人とでも呼べる人を作っとかないとこのまま高校3年間一人ぼっちで過ごさなきゃいけなくなってしまう。


 今日こそは自分から誰かに話しかけるのだ。何も怖気付く必要はない。別に俺だって、中学の頃は(小学校からの付き合いで気心が知れていた相手だとはいえ)友達はいた。それに、クラスの人たちの様子を見る限り、俺は嫌われたり、気持ち悪がられたりしているわけではないようだし。ただ、みんなが俺という存在に無関心なだけだ。


 ……しっかしねぇ。そう決心したはいいが果たして誰に話しかければ良かろうか。辺りを見渡してみる。あいにく自分の席の前方は閑散としている。首を横に回してみると、隣の席の女子が目に入った。名前は、大野さん…だったと思う。さすがの俺も人付き合いはないとはいえ隣の席の人の名前くらいは把握しているぞ、コホン。え、下の名前?いやいやそんなもの知るわけねーだろ。


 彼女もボーッとしている。俺の見た限り彼女は別にぼっちというわけではなく、普通に友達もいると思う。ただ、いまは誰とも話していない。それだけのことだ。


 しかし、何を話せば良いのだろうか。そもそも話というものは用があるからするものなのであって、用もないのに先に『話しかける』ということを決めておいて、後からどんな話をするのかを考えるのは前後関係が逆転しているんじゃないのか。と、自分に突っ込むも、今はそのようなことを考えている暇はない。とにかく話題を……!

 ふとそこで、以前どこかで聞いた、「日本では天気の話題が話の導入に使われていますが、世界では…」という文言を思い出した。そうだ、これは使えるゾ。


 俺は意を決して話しかけることにした。けれど、いきなり話しかけても不自然すぎるなぁ。

 俺は勢いよく机に突っ伏していた頭をあげ、ガタンという音を立てた。そして、さもうたた寝から目覚めた時のように辺りをキョロキョロ見渡してみた。すると、案の定大野さんはこっちを見てきている。

 俺は、さも間違えて目が合ってしまったというように装いながら彼女に目を合わせた。そして、誤魔化すように……

「あ、おはようございます。……何か最近天気悪いですよね」

と、言った。


「・・・」

 大野さんは無言だ。ひどく驚いたような顔でこちらを見てきている。俺はその顔を見返した。ショートカットで元気の良さそうな感じの子である。髪の色も黒く、化粧っ気はない。いわゆる美人というわけではなく、少し幼い顔立ちだが、俺は純粋に可愛いとは思う……

 って、今はそのようなことはどうでもよくて。いや、どうでも良いというわけではないがとりあえず今はなんか反応を返して欲しい。わざとらしすぎたのがいけなかったのか?無言で見つめてこないで……!


「えっと、坂根くんでしたよね?」

「あ、はい」

 よかった。向こうも俺の名前くらいは覚えていたようだ。

「そうですね、この頃天気悪いですよね。まいっちゃいますよ」

「ホントだよ。なんか鬱になるような天気でさー。」

 おい俺よ。もうちょっとマシな受け答えはできないのか、と自分で突っ込むが仕方がない。俺のトークスキルはこんなもんなのだ。


 俺と大野さんはしばらく天気に関する話をした。

「なんかゴメンね。いきなり話しかけて……」

 と、俺が言うと

「いや、私も話し相手が欲しかったから構わないよ。というか時間が潰せて助かりました」

 と、返って来る。あぁよかった。隣に良い子がいてくれて、と俺は話を打ち切ろうとして「じゃあ、……」と言いかけたその時、大野さんが

「でも坂根くんって誰とも話さない謎な人っていう印象があったから、急に話しかけてられてびっくりしちゃいました。なんかみんなも怖そうっていっているし…。でも話してみたら以外と話せて良かったです」

と、言ってきた。

「え!?俺ってそんな風に思われているの?」

 大野さんは軽く首を縦に振った。

 マジか。ショックだ。結構。

「どういうところが怖いってか?」

「なんかよくわかんないけど……雰囲気とか?」

「雰囲気って何だよー。そんな得体の知れないもので俺は敬遠されていたっていうんかい。」

「そうですねぇ。というか坂根くん、誰とも話せていないのを気にしていたんですか?」

「う、はいそうだね」

 それにしてもずいぶんな物言いだな。

「いや、そのような意図で言ったわけじゃなくて。なんか坂根くんって、『俺は一人でも大丈夫だ』的な考えを持っているって思ってたから……」

 あ、声に出ていたか。

「うーん、一人でいたいという時もままあるけど、そんな『一人がいい』なんてことは別にないからね?」

 と俺が言うと、大野さんはにこっと笑った。


 キーン、コーン、カーン、コーン、とここでチャイムが鳴った。俺も大野さんも話を打ち切って前を向く。

 しばらくすると担任の大井先生が入ってきた。生え際の少し後退した40代の男性教師である。担当科目は数学。とくにこれといった特徴はない人である。

 さぁ、今日もがんばるかぁ、と俺は伸びをした。



 この日以来、俺と大野さんは授業の合間などにちょくちょく話すようになった。話題は、まぁ『天気をはじめとする様々なこと』ですかね。特にとりとめもないことばかりであるが、1ヶ月弱学校でほぼ誰とも話さなかった俺にとってはそんなたわいのない会話でも楽しかった。

 はじめの会話こそ大野さんの口調は敬語の混ざったちぐはぐなものだったが、時が経つにつれ自然になってきたと思う。俺の口調にも不自然なところはないはず、である。

 一方互いの呼び名は俺は彼女のことを「大野さん」とよび、彼女は俺のことを「坂根くん」と呼んでいる。そこは最初の会話から変わっていない。まぁ俺たちの関係はこんなもんである。


もしかしたらこれを基礎に連載するかもしれません。

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