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ゴブリン退治

 冒険者に登録したあの日、心が折れかかった俺は宿屋にそそくさと帰った。

 そして今、一日経って心を持ち直した俺は、とあるクエストを受けていた。

「ゴブリン、ゴブリン、ゴブリン・・・、あ、居た。」

 そう今回受けたのはゴブリンと言う魔物の討伐。

 本来俺が受けたかったクエストと大分違うのだが、ダビデさんの鶴の一声でこれに決まった。

 あの時のダビデさん、怖かったな。

 俺は、武器の扱い方とか獲得したスキルの練習とかもしたかったから、

 最初は薬草の採取とかを受けようと思っていたんだ。

 けど言われたのが「あんたはムカつくからコレ。」だものなぁ。

 本気で凄まれ、否応無しに俺はこのゴブリン討伐を受けざる得なかった。

「ぶっつけ本番か。」

 遠目でも分かる人型の魔物、何だか猿に見えない事も無い。

 それを今から殺せって言うんだから中々にきつい。

 だってさ、俺が生き物を武器で殺す何て地球のそれも日本じゃ考えられないってこれ。

 俺は今、自分の中で最高に一番カッコいいと思う本物のライフルを持ってるんだけど、

 そいつで今からあの生物を俺が殺そうってんだから。

「当たるかなぁ?」

 五十メートルは離れてないけどけどそこそこに遠いな。

 当たらなかったらあいつ等が気付いて、そんで近寄って来て手に持ってる剣や槍でめった刺しか。

 それも嫌だね。

(遮断。)

 そう頭の中でスキルの発動を促す。

 この遮断と言うスキル、中々に使える能力だった。

 ギルドカードには基礎的な能力の他に、手に入れたスキルとその説明が書かれていた。

『遮断』・・・自分や自分が身に着けている物から発する音を消す。

 要は相手は俺が出す音が聞こえませんよってことだろう。

 しゃがみ込みライフルを構え、トリガーに指を掛ける。

 ゴブリンは計三匹。

 凹凸の照準を今から殺す相手に合わせ、引き金を引いた。

 発砲音が響き渡る。

 あれ、諸に音が出てんだけどこれ。

 発射された弾は偶然だろうがゴブリンに当たり先ず一匹が死んだっぽい。

(死んだ、殺したんだよな。)

 何だろうか、この、やっちまった感は。

 罪悪感とかでは無い、ただ自分が人間として色々持っていた大事な物を、今無くしたような気がした。

 どうやら音が聞こえるのは自分だけの様で、奴等は未だ俺を探している。

 すぐさまボルトを操作し、排莢して次弾を装填する。

 次の標的に狙いを定め再び引き金を引いた。

 今度は、相手にしてみれば当たり所が良かったらしく、未だ生きている。

 再びボルトを操作し狙いを付けようとすると撃たれていない方がこちらに指をさした。

「あ、見つかった。」

 そいつは真っ直ぐに俺の方に向かって来る様だ。

 今度はそいつに狙いを付け引き金を引いた。

 当たった。

 そのままそいつは前のめりに転げ、動かなくなった。

(よし、最後。)

 肩を撃たれた方も、そいつが死ぬ前には走り出している。

 急いで引き金を引く、外れる。

 ボルトの操作、引き金を引く、外れる。

 再び操作、引く、外れる。

 違う、避けられている。

 何なんだあいつは、やばいやばいやばい。

 そして次の弾を撃ち出そう頃にはそいつが目の前に居た。

 右手にはナイフが握られており、顔は悪鬼羅刹の如く、怒りの形相を呈している。

 俺は急に怖さが現れ、手や足が震える。

 何とか腰に付けた銃剣を抜き、そいつを握りしめたのが精一杯の動きだった。

 そいつ、ゴブリンは、肩に酷い怪我をしている筈なのだが、素早い動きで俺に組み付いてくる。

 俺の左肩と右肩に酷い痛みが生まれた。

 奴のナイフは俺の左肩に突き刺さり、鋭い牙を持つ顎が、俺の右肩に噛付いていた。

「うっ、あぐぁ、あああああ!!」

 死ぬ、これは普通に死ぬ。

 反射的に振り解こうと、右手に握られた銃剣が奴の腹部を突き刺す。

「いっづ!!」

 その間も奴は離れず、俺の左肩にはナイフが食い込んで行く。

「う゛ぁあ゛あああああ!!」

 俺も負けじと組み付かれながらも相手の腹部に何度も刃を突き立てた。

 そして我武者羅に突き立てていた一突きが、偶然相手の首に刺さった。

「・・グァ、カッ・・・。」

 そんな声を発しながらそいつは動かなくなった。

 余りにもあっけない幕引きだったのだが、俺自身は満身創痍だ。

「いでぇ・・・。」

 痛みで顔が歪み、恐怖からの解放で涙が溢れる。

 生きれた、恐い、生死の駆け引きはこんなにも痛い。

 未だ震える手でポーチを漁り、回復薬だと思われる液体が入った瓶を取り出す。

「飲むのか・・・、掛けるのか・・・。」

 もうどちらでも良い痛いから少しでも治って欲しい。

 蓋を開け、それを噛まれた方に掛ける。

「あ゛ぐぁ、いっでぇ・・・・・・・・・。」

 傷口は泡立ちながらジューと音を発てている。

 その間にも酷い痛みが俺を襲い、その場で蹲って痛みに耐える。

「・・・・・。」

 痛みが治まってきた頃、噛まれた方に目をやると、傷は殆ど塞がっていた。

 次はこっちだ、俺の左肩にはナイフが堂々と突き刺さっている。

 俺は柄を握り、なるべく傷口が広がらないよう、素早く、そっと抜いた。

「っ・・・・。」

 ヤバい、痛過ぎる、声が出ない。

 痛みを堪えるのが今はやっとだ、動けない。

 傷口からは血が溢れ出て来る。

「くっ・・・。」

 俺は焦り回復薬を傷口に思い切り掛けた。

「っ・・・ぁっ・・・・・・・・・・。」

 余りの痛さに意識が飛びそうになる。

「ふーっ、ふーっ・・・・。」

 痛みが引き、呆然とする俺は、全身が汗だくになっていた。

 辛い、辛過ぎるぞ異世界。

 立ち上がり両肩を回してみる。

 痛みはもう無いみたいだ。

 依頼達成の証にゴブリンの右耳を銃剣で切り取る。

 帰ろう。

(遮断解除)

 スキルの解除を脳内で促し、トボトボとその足で冒険者ギルドへ向かった。

「生きてたの、良かったわね。」

 ギルドへ着くなりダビデさんが声を掛けてくる。

 今はこの人とは話したくない。

 ダビデさんを無視して、俺はゴリアテさんの所へ向かう。

「坊主、どうした、酷い顔色だぞ。」

「・・・。」

 無言でゴブリンの耳を差し出す。

「おう、三匹分丁度だな、依頼達成だ、これは報酬な。」

「・・・どうも。」

 銀貨を五枚受け取り、俺はギルドを後にした。

 宿屋へ戻ると、女将さんは驚きながらも心配してくれた。

「酷い血じゃないですか、大丈夫ですか!?」

 あぁ、そう言えば傷は治っても血は服にべっとりだったか。

「はは、大丈夫です、傷は塞がっていますし。」

 多分俺の顔は笑顔では無いのだろうけど、今は誤魔化せたかどうかよりも眠りたい。

「すみません、今日はご飯いらないです、それじゃあ。」

「あ、待って下さい、それ洗っておきますから、それとお風呂入りません?」

「入ります。」

 眠気何て吹っ飛んだぜ。

 何何?これは一緒に入って御背中流しますよ的な?

「その間に洗濯とか夕飯の支度しちゃいますから、ちゃんと食べなきゃ駄目ですよ?」

 知ってた、そんな事が起こるわけ無いよね。

 けれど、今ので何か力が抜けた。

「女将さん、ありがとうございます。」

 お礼を言うと女将さんは何がと言う顔をしている。

 あぁ、俺この人に出会えて本当に良かった。

「トバリ様、女将なんて大それた呼び方をしないで下さい、私の事はアリアと御呼び下さい。」

 アリアさんって言うのかこの人。

「はい、アリアさん。」

「そうだ、暫くこの宿に泊まりたいのですが大丈夫ですか?」

 確か三日停泊の予定だから明日が最終だった筈だ。

 願わくばこの安らげる場所に暫く居たい。

「はい大丈夫ですよ。」

 やった、普通に嬉しい、これで明日も頑張れる。

「それでは明日、カウンターで手続きしますので宜しく御願い致します。」

「はい、了解です、それじゃあ、お風呂借ります。」

 お風呂は一階の奥に在るようで、アリアさんが先導してくれた。

「しっかりと浸かって下さいね。」

 案内されたお風呂は、小さいながらも高級感溢れるお風呂で、檜風呂なのに驚いた。

「おぉ・・・。」

 思わず驚きの声が漏れる。

「ふふっ、家の宿はお風呂も自慢なんですよ~。」

 俺はその言葉に同意する様に、無言で頷くしかなかった。

「それじゃあ遠慮なく入らせて頂きます。」

「はい、服は適当な場所に置いといて下さい。」

「分かりました。」

 そう返すとアリアさんは脱衣所から出て行った。

 さて、入ろう。

 まさか異世界でお風呂に檜風呂に入れるとは思わなかった。

 服を脱ぎ、準備が完了し、俺は少しワクワクしながら風呂に向かった。



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