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 大陸中央よりやや西、大国ハクワマの王都からさらに西へ 迷宮(ダンジョン)により栄えた冒険者の街、マヒャットがある。

 太古の昔から存在する迷宮(ダンジョン)の奥から発生する瘴気は魔物を多く発生させる。とはいえ、その瘴気自体は迷宮(ダンジョン)の外には漏れ出す事無く直接的に影響しない。たまに迷宮(ダンジョン)内から魔物が出てくる程度のことである。魔物から取れる多くの素材は職人に加工されて商人の手で世界に拡散していく。危険が伴う仕事だけあって腕のある冒険者は身の安定のほか、貴族に匹敵するほどの財を持つものさえいる。そんな一攫千金を夢見て冒険者は迷宮(ダンジョン)へと足を向ける。マヒャットはそんな背景を持つ数ある街の一つである。


 王都からマヒャットまでの長い街道を一攫千金を狙った冒険者ではなく、珍しく豪華な馬車が駆けていた。


「……」


 馬車の外窓から見える乗客は質素な修道服を身にまとった少女であった。窓からは表情までは詳しく見えないが、質素倹約を旨とする彼女らの信じる教えからしてこの馬車はあまりに似つかわしくない。なにやら溜息をついているようだ。羽振りのよさそうな服を着た御者が馬を煽ると、馬車はマヒャットへ向けて急ぐのであった。


 この馬車がマヒャットに辿り着く一ヶ月ほど前、マヒャットの門兵は騒がしい二人組みを迎えていた。


 当初門兵の見立てでは、にび色の鎧を纏った男のずっと後ろをローブを着た黒髪の男が歩いているとしていた。にび色の鎧が目の前に来て見れば、なんてことはない。この鎧の男が遠近感を狂わしていたのだと結論が出た。首が痛いほど見上げれば金髪、少し見下げれば黒髪。黒髪から言葉が発せられる。


「ここは王都か?」


「何を言っている。ここはマヒャットだ」


 城壁と規模を考えれば、田舎のものならば王都と見間違えるのは仕方のないことで、門兵もこの問答に経験がないわけではなかった。

 門兵が若干の違和感を持ったのは、この街は冒険者が多く滞在し、それ支える宿町、商店、その他需要のあるものを多く内抱した街なのだ。見るからに冒険者のこの2人が、この街より先の王都を目指していることにある。

 基本的に王都に用があるのは商人か王都出身の者くらいである。


「ケリク、路銀はいくつだ?」


「何を言ってるんですかエイト。路銀がなくなったから僕の剣と盾を売ったんですよ」


「あぁーそうだった。次は俺が売る番かよ」


「エイトの杖は無くなったら死活問題ですよ?売ってはいけません」


 この甲冑を纏った剣と盾を、いや武具を持たないケリクという大男は路銀のために武器を売ったらしい。お前の剣と盾は死活問題じゃないのかと心の中でつぶやく門兵であった。


「宿代も食費もねぇとあっちゃ手詰まりだ」


 門兵は両手を顔の脇まで上げた姿を呆れながらみていたが、己が門兵であることを思い出し、口を開いた。


「冒険者の街、マヒャットへようこそ。お前達に冒険者としての腕があるなら、その日の飯にはこまらねぇだろうよ。この門から先大通りを真っ直ぐ広場を左にギルドが並んでる。後はお前達の好きなように登録しな」


「おおっ!ありがとよ!門兵さん。さっさと行こうぜケリク!」


「好きにしていいとは言ったが、盗賊ギルドにはいくんじゃねぇぞ。後、広場から右に行けば宿町がある。金がないなら【ゴブリンの洞窟亭】がおすs……」


 もはやエイトの姿は目の前から消え去っていた。頼りない後姿にかかる長い杖を遠くに確認して申し訳なさそうに立っているケリクに呆れた顔を向けた。

 ケリクは会釈して門兵の横を通り過ぎ、エイトを追っていった。


「ありゃどんなコンビだ?兄弟か、親子か。それに長い杖……杖?」




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