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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

お父さんのフレンチトースト

作者: 白河真里華

家族とは?親とは?我が子とは?

離婚した家庭は、母親が子供を引き取るのが普通と考えられている世の中、それが当たり前で母親に引き取られたら幸せ、父親に引き取られた子供は可哀想。そんな風潮がある。

また、子供を父親の元に置いてきた母親に対して、子供を捨てた女という重いレッテルを貼る、引き取れば引き取るのが当たり前と思われるだけ。しかし父親に対しては、子供と会えなくて可哀想と同情するか、引き取れば『偉いわ』と絶賛する。

では、父親に引き取られた子供は本当に可哀想なのか?

父親の【主夫業奮闘】は偉いのか?

そんな言葉では言い表せない父と娘の絆の物語。

それは、桜吹雪の舞う青空の美しかった日。

桜並木を歩いていた私の目に、あなたの姿が飛び込んできた。

そう、まるで運命に導かれんとするばかりに、その姿はキラキラと輝いて見えた。

私の視線に気付いたあなたは、そっと悲しく微笑んで、ゆっくりと私に背を向けると、その姿を消した。

『行かないで…』


ージリリリリリリリ

布団から手を伸ばし、目覚まし時計を止める。

今日もいつもと変わらない朝を迎えた。

まだ寝ぼけ眼の私に、『おはよう』と優しく声がかけられた。

そっと布団をめくり、優しくハグをして抱き起こしてくれたのは、私が心から大好きな父だった。

頬におはようのキスをしてベッドから起き上がると、父はまた朝食の準備のためキッチンへと姿を消した。

身支度を終えてダイニングルームに行くと、私の大好きなフレンチトーストとポタージュスープが、色とりどりのサラダと共に私を出迎えてくれた。我が家の朝食、パンとスープとサラダが定番だったのは、父がそれしか作れなかったからなのだが、私はそれが大好きだった。父と楽しい朝食の時間を過ごし、父は会社へ、私は学校へとそれぞれ出掛けた。もう10年くらい、そんな朝を送っていた。


父と2人の生活になる前は、私には母がいたらしい。

だが、私はこの母の記憶が全く無かった。母は、私が3歳の頃には離婚して家を出ていっていた。

母と手を繋いだ記憶も、ハグをされた覚えも本当に無かった。

しかし、それでも私は不思議と淋しさを感じたことは無かった。

学校の行事には父が必ず来てくれていたし、学校から帰宅して宿題を済ませ、公園で友達と遊んでいると、夕方になれば父が必ず迎えに来てくれていたからだ。孤独を感じたことも無かった。

父の全力の愛情が、私に全て注がれていた。

中学を卒業し高校生になる頃には、父の愛情が重く感じられるようになっていた。わざと素っ気なくしたり、無視したり、一言も口を聞かない日すらあった。中学生の頃までは父が学校の行事に来てくれるのが嬉しかったのに、それすらも『来ないで』と冷たく言い放っていた。父は毎年、運動会も文化祭もマラソン大会も、私には内緒で私には見付からないように陰に隠れながら見に来ていた。私が反抗し出してから父は、ずっと淋しそうな背中をしていた。

高校3年生の夏、私は友達に誘われて近場の花火大会に行くことになった。父には『花火大会に行くから』とだけ告げた。

『楽しんでおいで、気を付けてね』父は、淋しそうな笑顔を見せた。それが更に私の反抗心を掻き立てた。

『行ってらっしゃい』玄関まで見送りに来た父を無視して家を出た。数年前まで、当たり前のようにハグしていた幼かった私は、今はもうどこにもいなかった。

この日が、父とハグする最後のチャンスだったことを知るよしもなく、私は父に反抗心を燃やしていた。


花火大会で偶然出会った友達の男友達数人と合流することになったが、私はこの時、友達を信頼していたから、何の疑いもなく笑顔で過ごしていた。

花火大会が終わり、そろそろ帰ろうという時、男友達数人が突然豹変した。友達も私もあまりに突然のことで訳がわからず、ただ恐怖を感じる以外どうすることも出来なかった。

だが、その時だった。

『お前達、私の娘とその友達をどうするつもりだ?』

父が、迎えに来てくれていたのだ。花火大会で大混雑している川原で、どうやって娘の姿を見付け出したのだろう?しかし、父は確実に今目の前に居て、私と友達を体を張って守ってくれている。

そうだ、父はいつだって必ず迎えに来てくれていた。どんなに反抗心を燃やしていても、父にとって私は娘なんだ、宝物なんだ。

ありがとう。と言いかけた瞬間、父が目の前で倒れた。少し離れた場所で警備していた警察官が駆け付けてくる。

男友達数人は、蜘蛛の子のように散って行った。

少し時間を置いて救急車が来た。父が担架に乗せられた。訳も分からず同乗する。救急搬送された父は、すぐに手術室へと運ばれていった。私と友達は、会話をするでもなく、ただ手術室前の椅子に座っていた。

父は、お腹を数ヶ所ナイフで刺された。

出血が酷く、輸血するも間に合わず、父は死んだ。


いつも笑顔だった父。

優しく抱き締めてくれた父。

いつだって必ず傍に居てくれた父。

必ず迎えに来てくれていた父。

ずっとずっと守ってくれていた父。

不器用ながらに一生懸命だった父。

私を宝物のように大切にしてくれた父。

いつだって愛してくれた父。

ずっとずっと、一緒に居られると思っていた父。


なんで、反抗心なんて燃やしていたのだろう?

なんで、もっと沢山甘えなかったのだろう?

なんで、もっと素直にならなかったのだろう?

今年も運動会、文化祭、マラソン大会、こっそり見に来るつもりでいたんじゃないの?

私はバカだ。父を悲しませて死なせて、私は親不孝だ…


父が火葬されている間、父との思い出が次々浮かんできた。父が作ってくれたフレンチトースト、帰宅してから作って食べた。

父がレシピをメモに書いて冷蔵庫に貼っていた。随分古いメモ。

その通り作った。父のと同じ味がした。

『今日も学校頑張れよ!』

『お父さんも仕事頑張ってね!』

ハグして笑顔でバイバイしていたあの頃が、甦ってきた。


父を失って半年後、就職先に選んだ父の会社から採用通知書が送られてきた。会社でも人望が厚かった父、父は私が就職するときも、魂で守ってくれていた。


桜並木を歩いていた私に、父は会いに来てくれた。

悲しげな微笑みは、父の淋しい気持ちの表れ。

傍で私の就職祝いが出来なくてごめんねの気持ち。

初出勤日、父に会えた。『行かないで…』


父が姿を消した場所を見詰めながら、父の優しい笑顔と暖かいハグを思い出した。

いつか、自分が親になったら、お父さんがしてくれたように我が子を全力で愛し、全力で守っていくからね。お父さんのフレンチトースト、食べさせるからね!

ずっとずっと、見守っていてね。


お父さん、大好きだよ。

いかがでしたでしょうか?

父親にとって娘の存在とは、やはり特別なものであり、可愛くてたまらないというのが実際よく聞く話です。

体を張って、命懸けで我が子を守る親の気持ちも、親になって初めて知る気持ちなのかもしれません。

大切な存在のために命を落とす。

最初は、命は助かったけど、介助が必要になったから、娘が高校卒業後に介護師の資格を短期で取って、父親の介護を頑張るという設定にしようと思ってましたが、親の介護をするって綺麗事じゃ無いし、お父さんのフレンチトーストってタイトルだからこそ介護奮闘記じゃダメだと思って、命を落とす方を選びました。

実際、今現在私が老人ホームで介護師をしてるからこそ、介護奮闘記は書けないんですよね…実親の介護をしてるわけじゃないから気持ちが違うし。

そして、私自身が3児のシングルマザーだからこそ、片親の親の気持ちより、子供達の気持ちを考えながら書いた部分もあります。

こんな親だったらいいなって(笑)

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

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