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 父のお気に入りだったワイン、母の大好きだったお店のパン。それに加えて、昨夜下ごしらえをしておいた食材の数々をバスケットに詰めて、エルザはふうと息をついた。


「もうこんな時間」


 時計を確認して慌てた声を上げる。もう迎えが来る時間だ。

 あわててクローゼットからワンピースを取り出して着替える。いつかティナに買ってもらったワインレッドのワンピースだ。

 あの時は着こなせるか自信がなかったが、姿見に映してみると、心配していた程悪くないように思えた。喉もとのガーネットが肯定するようにきらりと光る。

 履きなれた編上げブーツを脇によけて、白い箱を取り出した。箱の中には黒いハイヒールが入っている。


 きらりと光るエナメルの大人っぽいハイヒールもまた、ティナからの贈り物だった。 ある日自宅に届けられたその贈り物には、『怖い思いをさせたお詫び☆』とメッセージがついていた。

 後で聞いた話だが、ティナは事態をおおよそ予測していた上でユリウスを泳がせて、現場を特定させて事件を一気に解決しようと考えたらしいのだ。つまり、あの日ふたりきりになりたいと言うユリウスの要求をティナはわかっていて飲み、あえてエルザを囮にして拉致をさせた、ということになる。もちろん、エルザを傷つけるつもりはなかったし、助け出す勝算があってのことだ。

 ティナの独断で行われたこの作戦を、後で知ったレオンハルトは烈火のごとく怒ったらしい。彼女は今までに見たこともない程しゅんとしてエルザに謝った。

 自分には怪我もないし、事件が早く解決したことは喜ばしいことだったので、エルザは怒ってはいなかった。ただ、内心で一番怖いのはこの人だわ、と思ったのは内緒だ。


 その後まもなく届けられた、これまた値段の張りそうな贈り物にエルザは一瞬慌てたが、怖い思いをしたのは確かだなあと思いなおして、ありがたく受け取ることにした。いろいろあってなんだか少し図太くなったのかもしれない。

 足を入れてみると、サイズはぴったりだった。高いヒールのせいで、いつもより視界が高い。


 ――そういえば、足のサイズの話なんてしたかしら?


 不思議に思ったが、ティナに関してはなんだかいろいろ規格外な気がするので考えるのをやめた。

 身支度を終えると、バスケットを持って部屋を出た。鍵をかけ、階段を駆け下りる。


 事件の後、エルザは自宅を出て小さいアパートに暮らし始めた。

 一軒家の家は思い出が詰まっている大切な場所だったが、ひとりで住むには大きすぎるし、自分には分不相応だと思った。思い出を偲ぶいくつかの大切なものだけ持って、家は売ることにした。

 寂しかったけれど、写真もあるし、形見の宝石箱も戻ってきた。それで十分な気がしたし、寂しくなったらお墓参りをしようと心に決めて、エルザは家を出たのだ。

 アパートの階段を下りて外に出ると、迎えに来たフランクが車を止めて待っていた。


「こんにちは」


 彼に会うのも久しぶりだった。ぴょこりと頭を下げて挨拶をするエルザを、フランクは一瞬目を見開いて眺め、すぐに破顔した。


「はい、こんにちは。……なんだか随分感じが変わったと思ったら、その服と靴のせいですね。とてもお似合いです」


 率直な賛辞の言葉にエルザは頬を染めた。慣れない高いヒールはすぐにバランスを崩してしまいそうで不安だったが、そう言われて少し自信がついた。


「じゃあ行きましょうか。お二人ともお待ちですよ」


 はい、と返事をして、フランクの開けた後部座席のドアからするりと車内に乗り込む。

 滑るように車が走り出し、やがて懐かしい邸宅の前で止まった。恭しくドアを開けてくれたフランクに恐縮しながら車を降りる。


「それじゃあ僕はまた後でお迎えに来ますから」


 フランクの言葉に、えっとエルザが驚いて声を上げる。


「フランクさんはご一緒できないんですか」


 そう聞くと、彼は残念そうに眉尻を下げて苦笑を浮かべた。


「まだ事後処理が片付いていないんです。あなたの料理はとてもおいしいですから、ご相伴にあずかれないのはとても残念ですが、仕方ありません」


 今日はエルザのまったくの私用であるにもかかわらず、忙しい仕事の合間にわざわざこうして迎えに来てくれたのかと思うと申し訳なくなった。


「お忙しいのに、お手数をかけてしまって……すみませんでした」


 しゅんと肩を落とすエルザに、フランクはにっこりと笑ってつけたした。


「僕としてはまた次回があると期待しているのですが」


 考えてもいなかったことだが、機会はまた作ればいいのだ。そう考えるとなんだか嬉しくなって、エルザは勢いよく返事を返した。


「はい!」


 去って行く車を見送って、エルザはベルを鳴らす。

 そのまましばらく待っていると、中から勢いよくばたんとドアが開いた。勢いにひるんだ隙に、ふわりといい香りが漂ってきて、直後に何かが飛びついてきた。


「わ……っ」


「エルザ!」


 耳元でティナのハスキーな声が聞こえて、抱きしめられていると理解した。もう何度目だろうか。この人のスキンシップ過剰には若干耐性がついたような気がする。


「こ、こんにちは。お久しぶりです」


 状況が見えないが、とりあえず挨拶をしてみた。背中にまわされた腕の力が少し緩み、ティナの綺麗な指が顎を捉えて上を向かせる。


「元気にしてたかしら? あなたに会えなくてとっても寂しかったわ」


「あ、えっと、はい。おかげさまで」


「あら、その服着てくれたのね。思った通りとっても良く似合ってるわ」


 ティナが相好を崩す。それを見て、靴のお礼をまだ言っていないことを思い出した。


「あ、そうだ。あの、この靴もありがとうございました。ありがたく頂きます」


「ああ、靴も履いてくれているの。……だから今日はこんなに目線が近いのね」


 ほっそりとした指が頬に添えられる。空色の瞳がいつもより近い。

 自覚すると、なんだか恥ずかしくなって顔が赤くなった。


「あ、の、そろそろ離して……」


 女の人相手になんでこんなにどきどきしているんだろうと思いながら、限界を感じてみじろぎをする。

 なかなか解放してくれない彼女の腕の中でじたばたしていると、つかつかと近寄って来る靴音が聞こえ、ぱこんとティナの後頭部が音をたてる。腕の力が緩んだ隙に腕をつかまれ、引き離された。バランスを崩したエルザの足がたたらを踏んで、肩が何かにぶつかった。


「いい加減にしろと何度言ったらわかるんだ、お前は」


 頭上から心地いい低音が降って来て、レオンハルトに抱き寄せられていると気付いた。久しぶりに聞く声に、胸の奥で何かが動いた。つかまれた左腕が緊張する。

 あの日も、こうやって腕をつかまれて引き寄せられた。あの時から、エルザの生活は変わったのだ。


「レオンの乱暴者。ひどいわ」


 口をとがらせて抗議するティナを軽く無視してエルザを見下ろすと、慌てたように体を離した。


「ああ、すまない。つい」


 紳士的な距離をとったレオンハルトの体温が遠ざかる。それをなぜか少し残念に思いながら、エルザは首を振った。


「いえ。少佐も、お久しぶりです」


 ぺこりと頭を下げると、レオンハルトが表情を緩め、エルザの持っていたバスケットを取り上げた。


「君も、こんな気を使わなくていいのに」


 ちらりとバスケットの中身を見て眉根を寄せる。


「いえ、今日はお世話になったお礼をしに来たので。今用意しますから、お台所お借りしますね」


 そう言って台所へ直行する。運んでもらったバスケットを台の上に置いて、エプロンを装着すると下ごしらえの済んだ材料を取り出した。

 他人の家だが、勝手知ったる台所だ。鼻歌交じりでよどみなく行われる作業を、レオンハルトとティナは戸口で眺めて笑いあった。

 用意ができたらお呼びしますから、と言われてふたりは居間へ移動する。


「ねえ、レオンは知ってるんでしょ。結局エルザの実の父親はあの男なの?」


 ティナの問いにレオンハルトはにやりと口の端を釣り上げた。


「さあな。もう今となっては証明する手立てもないだろうから、真偽の程はわからないが」


「なあに、エルザのためにこそこそひとりで調べてたくせに」


 納得のいかない様子でティナが鼻を鳴らす。


「実の父親の可能性がある、程度でよかったんだ。どうせ証明できないんだから。彼女が望むなら、慰謝料でもなんでも名目をつけて貯めこんだ財産を巻き上げてやろうかと思っていたんだが、そんな必要もなかったな」


 さらりと黒いことを言いながらもこぼした笑みは驚く程優しいもので、ティナは呆れて口をつぐんだ。

 レオンハルトは目を閉じて、台所から聞こえてくる音に耳をすませる。普段は静かなこの家で聞きなれないその音は、不思議と心地よいものだった。

 ティナが物言いたげにこちらを見ているのに気がついて、口をへの字に曲げる。


「なんだ」


「馬鹿だなあと思って」


「お前程じゃない」


 顔を見合わせて笑う。

 そのタイミングで、エルザが戸口にひょこっと姿を現した。


「用意できましたよ」


 食堂には手を尽くした料理が並べられ、食欲をそそる香りが室内に満たされている。


「まあ、おいしそう」


 ティナが手を合わせて喜んだ。ティナが教えてくれた少佐の好物と、ティナの好物を用意した食卓は溢れそうになっている。

 ティナが手際よくワインのコルクを抜き、グラスに注いでいく。エルザは自分のグラスに水差しから水を注いだ。乾杯をして、わいわいと食べ始める。

 エルザは水を一口飲み、ふたりが食事をする様子を見つめた。

 少し前までは、エルザが作った夕食を両親と三人で食べた。再現のようでいてそうではないこの光景に、感慨深いものを覚える。

 両親を失った時は泣いてばかりいて、本当に立ち直れるのか自分でも不安だった。周囲に心配をかけるだけなので、早く立ち直らなければならないと思えば思う程、心はしぼんでいって、ひとりぼっちの孤独に苛まれた。

 今は、こうしてちゃんと生きている実感が持てる。ちゃんと料理をして、誰かと一緒にご飯を食べて。困った時に助けてくれる人がいて、一緒に笑ってくれる人がいて、孤独じゃない。

 少し前までは全然知らない人だった彼らと、こんなに穏やかな気持ちで食卓を囲んでいることが不思議に思えてくすっと笑った。


「なあに?」


 ティナがこてんと首をかしげる。


「いえ。……父の好きだったワインを飲んでくださる方がいてくれてうれしいんです。私は飲めないので」


 そう答えると、ティナはうふんと微笑んだ。


「あたしでよければいくらでも飲むわよ」


「お前はもう少し加減を考えて飲め」


 横からレオンハルトの冷やかな指摘が入る。むう、と口をとがらせたティナだったが、肉の欠片を口に放り込むとすぐにとろけそうな表情になった。


「フランクさんがご一緒できなかったのが残念です」


 残念そうにそう言うと、レオンハルトがワインを一口飲み下して答えた。


「あいつには事後処理を押し付けてやったからな」


「えっ」


 思いもよらない言葉に驚きの声を上げると、レオンハルトはちらりとティナに視線を投げて、ふんと鼻を鳴らした。


「こいつの口車に乗せられてあんな無謀なことに加担したんだ。当然の報いだ」


 あの日、ユリウスを不審に思って尾行していたフランクは、エルザの自宅でティナと落ちあい、相談……というか、ほぼティナに押し切られた形で協力する羽目になってしまったのだと語った。本意ではなかったし、反対はしたんですよ、と何度も何度も繰り返すフランクは、何かに怯えているようだった。彼が何に怯えていたのかは聞けるはずもなかった。


「フランクったらかわいそうよねえ」


「お前が言うな」


 レオンハルトの鋭い声を聞き流して、ティナは優雅な手つきでスープをすすっている。


「こいつにも書類仕事を大量に回したはずなんだが」


「あたしって困っちゃうくらい有能なの」


 得意げな彼女の表情に、レオンハルトはげんなりと肩を落とした。ティナへの制裁は諦めるしかないようだ。


「さて、君に説明をする約束だったな」


「あ、はい」


 レオンハルトがワインで口を湿らせて切り出した。エルザが姿勢を正す。


「事件は、オリバー・ラングが共同研究者だったヒンメル氏を裏切ったことから始まる。毒物の管理は厳正になされなければならないというヒンメル氏に黙って、ラングは毒物の情報をアドルフ・ベッカー准将に大金と引き換えに売ったんだ」


 エルザはノートの切れ端を手に入れた時の、ラング氏のうきうきとした表情を思い出した。日々不平不満に満ち満ちていた彼にとって、金銭は何よりもわかりやすい成功の指標だったのだろう。価値観は人それぞれで当然で、それを責めるつもりはないが、そのために何をしてもいいという法はない。彼がしたことは許せないことだ。


「准将はこの情報に飛びついた。彼は軍国主義を引きずった大戦の遺物でね。国益のために他国を駆逐すべしと公言してはばからない人物だった。国力の回復しきっていない今、奴の思想に傾く者は少なかったが、毒ガスを兵器として使用出来ればこの現状を変えられると思ったんだろう」


 物憂げなため息が漏れる。軍人である彼らにとっては、軍内部で思想の相違があるのは仕方がないこととはいえ、頭の痛い問題に違いない。


「ヒンメル氏にも相当額の報酬を提示して、毒ガスの製造を迫ったが、ヒンメル氏はこれを断った。そして相手が軍人であることを突き止め、告発をすると宣言したんだ」


 レオンハルトの瞳に影が差す。仕方のないこととはいえ、事情を知っていた自分が両親を助けられなかったことを悔やんでいるようだった。


「後に引けなくなった准将は自殺に見せかけてふたりを殺害して実験資料を奪い、共同研究者だったラングに、更に金を積んで製造までを指示した。さっそく仕事にとりかかったラングはそこで気付いたんだ。実験ノートが一部破られていて、情報が足りないことに」


 宝石箱に入っていたあの紙片のことだ。両親は万が一の時の事を考えて、書斎ではなく寝室に置いてあった母の持ち物であるあの宝石箱に隠したのだ。そしてその鍵をエルザに託した。エルザが気付くことを期待して。


「准将はヒンメル夫妻と個人的な付き合いのあったユリウス・ライヒに目をつけた。君の幼馴染であり、ヒンメル夫妻の生前から自宅に出入りしていた彼なら周辺をうろついていても不審には思われないからな。彼は指示されるまま自宅、研究室の中を調べたが、有効な情報は得られなかった」


 葬儀の日、エルザを送ってくれたユリウスは基地に帰った。彼はそこで准将に声をかけられたと証言している。言われるがままエルザの自宅まで戻ってきたところ、折よく無人だったため侵入したが、レオンハルトの銃撃により負傷して逃走。その際に手の甲に傷を負っている。エルザが研究室に来た時に、ユリウスがそこにいたのも、彼がその日研究室を調べていたからなのだ。

 ユリウスがレオンハルトを疑う素振りを見せていたのも、情報がレオンハルトに渡ってしまうことを恐れるが故だった。ユリウスはエルザをレオンハルトから引き離すよう、指示を受けていたのだ。


「思うように進まない中で、君が情報の隠し場所に気がついたことで事態が変わった。君が隠し場所に気付いた以上、その情報が俺に流れるのは必然だ。だから焦ったんだろう、泳がされているとも思わずに彼は君を拉致した。……あとは君も知っての通りだ」


 語り終えて、レオンハルトはワインに口をつけた。一口飲み下すと食事を再開する。

 ティナがワインのお代りを注ぎながら尋ねた。


「幼馴染くんの様子はどう?」


「肩の傷がふさがれば退院できるそうです。幸いにも神経などの損傷もなくて、元通りの生活ができるだろうってお医者様が」


 エルザは前日見舞いに行ったユリウスの様子を思い出した。


『馬鹿って言われたのは二度目だな』


 突然そう言われて、記憶を手繰りよせる。

 一度目はユリウスが士官学校に入学を決めた時の大げんかの時だ。あの時は確かに馬鹿と大きな声でわめいてユリウスを困らせた覚えがある。

 二度目については忘れかけていたが、そういえば銃を突きつけられて、混乱のさなか馬鹿と罵ったような気がする。


『ああ……、言ったわね、そういえば』


 反射的に謝りそうになって、言葉を飲み込む。その代わりに笑顔を浮かべた。


『謝らないわよ。あの時は本当に馬鹿って思ったんだから』


 そう言ってふふっと笑うと、ユリウスは口元をゆがめるように笑って手のひらで目を覆った。


『……ああ』


 大きな背中が小刻みに揺れる。焦げ茶の髪にそっと手を這わせると、押し殺した嗚咽が漏れた。


『たとえ救いようのない大馬鹿でもユリウスの事が好きよ』


 今回の件でふたりが何を背負ったとしても、ふたりの関係が変わってしまうことだけは嫌だったし、変えるつもりもなかった。それだけは分かってほしくて、髪を撫で続けた。


「ユリウスの処分はどうなりますか」


 エルザがずっと気になっていたことを思い切って訪ねてみると、レオンハルトはふむ、と考え込んだ。


「彼への本格的な聴取は回復を待って行われることになるが……。彼は准将に、小娘ひとりさらってきて拷問にかけるのはたやすいことだと脅されていたようだ。その上で自分が協力することで君の命を助けるという約束だったらしい。まあ結果、あんなことになったわけだが」


 面白くなさそうに鼻を鳴らす。そういえばユリウスは、病室へ聴取に訪れたレオンハルトに叱責を受けたと言っていた。

 ひとりで抱え込まず、どうして相談をすることをしなかったとこってりと怒られ、ユリウスはしぼんだ風船のようになっていた。自分が間違っていたことをよくわかっているから、なおさらだ。


「彼が行ったのは、ヒンメル家の空き巣、研究室の空き巣、君の拉致監禁だ。処分なしというわけにはいかないだろうが、脅迫を受けていた事実を鑑みれば情状酌量の余地はあるだろう」


 その言葉にエルザはほっと胸をなでおろした。

 ユリウスは間違ったことをしたかもしれないけれど、彼は巻き込まれただけなのだ。こんな事件がなければ真面目な彼はきっと忠実に職務に励み、軍に貢献しただろうと思う。自分のせいでユリウスの人生を狂わせたと思うといたたまれなかった。


「ユリウスには迷惑をかけてばかりなんです。……あげく、私のせいでこんなことに巻き込まれて」


 言葉とともにため息がこぼれ出た。伏せた緑の瞳が灯に揺れる。


「彼は」


 レオンハルトがナイフとフォークから静かに手を離し、膝の上で手を組んで椅子の背もたれにもたれた。


「彼は、君の事を守りたかったと言っていた。他の誰でもなく自分が君を守りたかったのだと。そのために誰も頼りたくなかった。そうするのが自分の役目だと思っていて、当たり前の事だと思っていたと」


 いつも手を引いてくれた年上の幼馴染は、昔からちっとも変わらないのだ。両親に恩を感じて、彼らの娘であるエルザを守ることでその恩に報いようとしているのだろう。彼のどこか思いつめたような気持ちには気付いていたが、エルザにはどうすることもできなかった。


「後悔はしているかもしれないが、迷惑だなんて思っちゃいないだろう、彼は」


 その気持ちは俺にもわかるからな、と呟いたレオンハルトの声が優しかったから、エルザはすんなりとその言葉を受け入れた。

 謝罪ではなく感謝を。

 ごめんなさいじゃなくありがとうと、彼には言おう。

 そう決めると、心がいくばくか軽くなったような気がした。


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