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『お誕生日おめでとう』
母の陽気な声がする。
『お前ももう十八歳か。早いものだなあ』
父がしんみりした呟きをこぼす。
三人で囲む食卓には誕生日を祝うご馳走が並んでいる。どれも母が作ってくれた好物ばかりだ。
窓の外の雪景色とは反対に、暖炉には赤々と火が燃えていて、室内は暖かかった。時折思い出したように薪が爆ぜて小さな音をたてる。
『そうよ、もう立派な大人なんですから』
目の前の母は誇らしげに笑う。笑うと目尻に皺が寄るその笑顔が大好きだった。
『昔はこーんなに小さかったのになあ。大きくなったらお父さんのお嫁さんになるって言ってくれたんだぞ』
お祝いのシャンパンで酔っているのか、父は少し涙ぐんでいるようで、目元を赤くしている。
『はいはい、あなたは酔うといつもその話なんだから』
しょうがないわね、と母は苦笑を浮かべた。
母はおもむろに立ち上がると、チェストの引き出しから何かを取り出して食卓に戻って来る。テーブルの上に置かれた箱は、ピンク色の包装紙と赤いリボンできれいにラッピングされていた。
『お父さんとお母さんからプレゼントよ。開けてみて』
そう言った母本人がわくわくとした表情を浮かべて待っている。反対に父は心配そうな表情でこちらを見つめている。気に入ってもらえるかどうかを気にしているのだろう。
慎重に包装紙をはがして箱を開けると、中に入っていたのはネックレスだった。鍵をモチーフとしたチャームに、ころんとひと粒赤い石が揺れている。
――ガーネットね? きれい。
そう言った途端、両親は嬉しそうに顔を見合わせて笑った。
『気に入ってくれたなら嬉しいわ』
『さあ、つけて見せておくれ』
そっと取り出して首に手を回すと、母が背後に回って留め具を止めてくれる。
鎖骨の真ん中あたりでガーネットが揺れてきらりと輝いた。
『素敵』
『よく似合うよ』
両親の贔屓目の入った賛辞に、嬉しいような恥ずかしいような気持ちで頬が熱くなる。
とても幸せだった。
ああ、これは夢だとおぼろげに思う。
幸せだったあの頃の夢。
夢でないのなら。
『あなたの幸せを祈っているわ』
そんなことを言わないで。
一緒に幸せになってほしかったのに。




