ぼくときみの涙
「…おい、二葉。」
お風呂上がり、自分の部屋に入ろうとする弟に声をかけて引き止める。
「なぁに、兄ちゃん。今から電話するんだから、邪魔しないでよー?」
湯上りのふわふわな髪の毛
桃色に染まった頬
ふふふ、と笑った横顔は兄弟の僕から見てもくらっと来る程に魅力的で。
電話って?
この前電話していた、恋人?
高遠さんの気持ちも知らないで
あんな風に困らせて、あんなに一生懸命考えてくれる先生のことを邪険にして…
「…っ、かげんに…」
「え…」
我慢出来なかった。
拳を握りしめて、俯く。
喉の奥が震える。
目頭が熱くなって
…僕の気持ちも、知らないで。
「っ、いい加減にしろよお前!!毎日、毎日高遠さんがどんな思いで来てくれて!どんな気持ちで、お前に教えてると思ってるんだ!!真面目にしろよ!」
溢れる、
言葉と…涙が。
「あ、ごめんなさ…兄ちゃん、ごめん、ごめんね。ごめんなさい!」
珍しく叫んだ僕の声に、二葉が一瞬身体を震わせてじわり、と目に涙を浮かべる。
泣きたいのはこっちだよ、畜生。
可愛いからって何でも許されて
甘やかされると思うな。
いつもいつも我慢するのは兄の僕だった。お前は、両親にも先生にも友達にも大切に大切にされるんだ。
いつも。
「泣けば、いいと思うなよ。」
ポロポロと、
その綺麗な頬に涙を流す姿を見ていられなくて目を逸らす。泣きそうになった自分の涙は必死に堪えて。
もう、嫌だ。
こんな嫉妬と憎しみの気持ちしか残らないのなら、恋なんてしなけりゃ良かった。
高遠さんが、二葉を大切に思っているのは二人で話すようになって良く解った。
(素直で表情がコロコロ変わって、見ているだけで飽きないんだ。飽きっぽいかと思ったら、問題に対しては集中力があって絶対に解けるまで諦めない。何より、優しいよね。俺がちょっと調子悪いと、すぐに気付いて心配してくれるんだよ。)
良い弟を持ったね、一葉君は。
高遠さんは一人っ子で、何かと慕ってくれる二葉は本当に可愛いって、そんな弟がいる僕を、羨ましいと言った。
「全部、お前のせいだ。」
僕の言葉に、二葉が目を見開く。
「お前なんか、大嫌いだ!」
言い放った言葉は
何故か僕自身の心に突き刺さった。
泣きたいけど、
人前で泣けないのが悩み。