ふたりきり
ドアを開けるその姿が、ちょうどさっきまで思い出していた出会いの時と重なる。
「いらっしゃいませ。…すいません、まだ弟帰ってなくて。…入りますか?」
こんな声だったっけ。
初対面の時より更に上ずって緊張した声が問いかける。ちらりともこちらを見ない一葉君に、どうしようかと迷う。いや、家庭教師に呼ばれているのは毎日のことなんだから、迷う必要なんかないけど。
怖がられてる?
いや、嫌われてる?
難しいな、子供って。
って、彼は高校生だし子供なんて言ったら失礼か。
ぐるぐる考える頭とは逆に俺の口はあっさりと答えを出していた。
「帰ってくるまで、中で待っててもいいかな?お邪魔します。」
その俺の言葉に、一葉君の肩が揺れる。
はい、
と慌ててドアを大きく開けるとあの日のようにきちんと並べてスリッパを出してくれて部屋まで案内される。
もう部屋の場所は知ってるんだけどなぁ。
こういう所が微笑ましい。
しっかりしたその外見とは違う、少し抜けている…というかズレてる所。
マニュアルみたいに、部屋まで行って座布団出されて、
今は冬だからだろう、温かいお茶を置くと一礼する。
そんな一葉君の腕を、思わず引き止めてしまったのは多分暇だったからだと思う。
驚いたみたいに振り返る顔は、全く似ていないはずなのに思いがけず問題を正解してびっくりした二葉君の顔に似ていた。
「ちょっと、話し相手してくれない?」