僕と勉強
家庭教師として高遠さんが来るようになってからしばらく経つが、意識して僕が彼への想いを自覚したのは、つい最近のことだ。
何でと言われても解らない。
ほとんど話してもないのだから、理由なんて僕が知りたい。
印象としては、あの弟がちゃんと勉強するくらいなのだから、余程頭が良く優しいのだろう…と思ったくらいだ。
可愛くわがままな、弟。
良くあることだが、僕達兄弟は全くもって似ていない。
僕、西條一葉は西條家の兄で父親似。医者である父に見た目も性格も似たためか、小さい頃からわがままを言わない大人しく生真面目な子供だったという。
嫌味な程真っ直ぐな黒髪に度数の高い眼鏡。身長は高いが運動が嫌いなため、細身で色白なのがコンプレックスだ。
対して、弟の西條二葉は紛れもなく母親似。明るくお喋り。飽きっぽく気まぐれで自由奔放なその性格だが、人懐っこい笑顔に僕はいつも許してしまう。
見た目も僕とは似ていない。小学6年生の中でも小さく小柄で、ふわふわのくせ毛に大きく丸い目が更に幼い印象を与える。
西條クリニックに来た患者さんに、未だに低学年扱いをされてはいつも拗ねているのを良く見る。その度に「可愛がられていいじゃないか」と慰めるのだけど、二葉は納得出来ないらしい。
ちなみに、父も母も頭の良い人だけれど、勉強に関しては特に厳しい家庭ではないと思う。
家庭教師をつけたのだって二葉が私立に行きたい、と希望したからであって親の強制ではないし、僕が勉強するのも自分がしたいからだ。
勉強は、楽しいと思う。
どんな教科も好きだ。覚えれば覚えるだけ、知れば知る程、世界が広がっていく。
自分に出来るだけたくさん情報を詰め込んでおくと、この上ない満足感あるのはどうしてだろう。
紙切れに並んだたくさんの丸と
右上に書かれた100という数字。
小学生の時、初めて100点を取ったあの日に僕は言葉に出来ないくらいの安心を感じた。
(一葉、えらいぞ。)
よくやったな、って
滅多に笑わない父がこれ以上ないくらいに優しく微笑んで
いつもは仕事で忙しい手が、ぼくの頭を撫でた。
(ぼくは、えらいんだ。)
もっと、かしこくなりたい。
もっと勉強すれば、大丈夫。
根拠なんで、何処にもないのに
何故かそう思った。
段々と難しくなる問題。
そして、今の二葉と同じ年齢の時、それまでも決して悪い点ではなかったテストへの執着が始まった。
語りのみですいません…
次から、先生のターン