涙の理由を
二葉くんに教えてもらったのは、本当に小さな図書館で、着いてびっくりした。
受付には眠り込んでいるおじいちゃん。
大丈夫なんだろうか…
思わず起こして、息を確認したくなる。
静かなその空間。
少し湿っぽい図書館特有の匂いに、何だか懐かしい気持ちになる。
昔はよく、中学校や高校の図書室に行って本を読んだものだ。
でも一葉くんは多分、
本を読むよりかは勉強しているんじゃないかと、奥の勉強スペースまで進む。
窓際の席、夕陽に照らされて一葉くんは座っていた。
…驚いたことに、居眠りをして。
「…一葉くん?」
すー、すー、と規則正しい息の音。
そっと伏せられた瞼が、時折小さく震えて眉間にしわが寄る。
起こそうと、手を伸ばして止める。
目尻に、泣いたような涙の流れた跡を見つけたから。
泣いてた、のだろうか。
どうして?
昨日は二葉くんに、怒ったらしい。理由は二葉くんが勉強をサボったから?
本当に?
表情が乏しいからか、冷たい印象を持たれがちだけど本当はとても優しい一葉くん。
弟に対して許せない程の怒りなど、抱くような子じゃないと思う。
泣いていた理由はどうして?
伸ばして止めた手を、机に流れた黒髪にそっと滑らせる。
ゆっくり数回撫でた所で起きたようで、一葉くんが何が起きているのか理解出来ない表情を浮かべて、こちらを見やる。
少し、考えてから慌てたように身体をむくりと起こすとガタンと椅子から立ち上がった。
「あ、なっ!なんで…あの、え?」
寝るために外していた眼鏡をかけることも忘れて、しどろもどろに状況を確認する一葉くんの顔は真っ赤で。必死に平静を装おうとする姿に思わず笑う。
「おはよう、一葉くん。こんな所で寝たら風邪ひくよ?」
本当は、真っ赤になったその顔が予想外に可愛くて。もう一度撫でたい衝動に駆られたけれど。
そんな動揺を隠して、あくまでも穏やかに微笑んで見せる。
「そんなこと、解ってます!そうじゃなくて、なんで…先生、二葉の勉強は終わったんですか。…僕は帰ります。」
さっきの驚いた表情はどこへやら。すぐに冷静さを取り戻したらしい一葉くんは、淡々と告げて帰る準備を始める。




