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ーーーがちゃり。
錆びた鉄と鉄が擦れるような音を発した個室の中で一人の黒髪の少年が立ち上がる。ぼろきれと化した一枚の布と表現した方が正しい服からは、黒髪の少年の痩せこけた体が見え隠れする。
「はぁ…」
深いため息と共に黒髪の少年は、再び冷たい床へと座り込んだ。
この個室には少年が寝るための設備しか備わっていない。まるで日本風に言えば牢屋。米国で言えばプリズンのような場所だ。罪人が入る豚箱によく酷似している。
強ち間違っていないのだが。
つまるところ何が伝えたいかと言うと、この個室には何もないため寝る事以外少年は何もすることがないのだ。
一点を唯ぼぉーと見つめることしかできないのである。
ーーーガシャン!
「おい、飯だ!さっさと食え!」
そしてもう二つほど少年には起こるイベントがある。いつも決まった個室の小さい穴から差し込む日の傾きに、決まった男が少年の食糧を持ってこの個室に一度だけ入ってくる。
パンのような固形物に緑色の得体のしれないスープ。一日の食糧にしては少ない量ではあるが、ないよりかましだと、少年は目の前に置かれる食糧に食いつく。
その様子を遠巻きに眉をひそめて見下すむさ苦しい男が鉄格子越しにこちらを見やるもう一人の男に問いかける。
「いつも何考えてんのか、まったくわかんねぇぜこいつはよ。なぁ?」
「あぁ…。本当きみわりぃぜ…」
ぺッと唾を吐く男の行為に見向きもせずに食糧にしがみつく少年を見てさらに気を悪くしたのか、男はすぐに個室からでていった。
それから数時間後。
「おい、でろ」
冷徹な言葉を向けられた少年はのそりと上体をあげ、鎖でつながれた両足を器用に使い立ち上がった。そして不安な足取りでふらふらと男が立つ入口へと向かう。
「両腕を出せ」
「…」
従うがままに両腕を差し出した少年に男は無骨な手錠つけ、その手錠につながれる鎖を乱暴に引っ張る。
「うっ」
たまらず呻き声を出してしまう少年だがいつものことだと顔をゆがめずに男に引っ張られながらも黙って冷たい床を鎖を引きずり歩く。
その先でもう一つの彼のイベントが始まろうとしている。
「11万メリー!」
「11万5千メリー!」
「いやいや、もう一超え!13万メリー!」
「…他にいませんね?では13万メリー!クリス侯爵お買い上げ!」
ワーワーと聞きなれた声に耳を傾け、少年はようやくその暗い表情を浮かべる顔を上げた。
少年の先に見えるのは薄暗い中に見える一筋の光。
それが段々と近づくにつれ、眩しさを増し少年は目を細め、あまりの眩しさに光を拒絶し、瞼を閉じた。
そして男の乱暴な扱いにより、少年はーーー
壇上に立たされた。
少年の視界に入るものは溢れんばかりの人である。誰しもがその身を自分とは大違いな気品あふれる服装をしており、健康的だ。
むしろ健康のあまり太りすぎだと主張できる人物さえいる。
そんな集団の前に一人のみすぼらしい少年が立たされたのだ。何故に。
この会場とされている場所に設置してある壇上に立つ、一人の男の声が鳴り響いた。
「さぁ次は世にも珍しい闇を象徴したかのような真っ黒な髪を持つ少年だ!6万メリースタートだ!黒の髪をもつ少年が足った6万メリー!どうだ張った張った!」
「…」
会場が途端に無音となる。
男の声が無情にも会場の隅々まで透ったのだ。先ほどまで市場のような盛り上がりを見せていた会場が嘘のように冷めている。
『またか…』
「っち」
結論から述べよう。確かに少年は異世界へと