第九章「対立、そして対立」
第九章「対立、そして対立」
エリックは不愉快な気分になった。
誰だって自分の大切なモノを気安く触られるのは嫌なものだ。「それ、返してください。」
エリックは顔を上げて言った。「駄目だ。君の所有物でコレだけが燃えなかった。まぁ、
君の所有物以外なら他にも燃えなかったものが一つあったが─、とにかく、
コレは一応調べてから改めて君に返す。」男はエリックの声が物凄く掠れていることに
驚いた顔をしてから言った。ソノ男の態度にエリックは苛立ってきた。
ただでさえ具合が悪いというのに碇を返してくれないなんて…。「お願いします、僕それが
ないと困ります。その碇は─あ、首飾りのほうです。ソレは僕にとって大切なものなんです。
それがないとパニックを起こしかねません。」エリックは困ったような顔で言った。
凄く子供っぽい言い訳で、騙されるわけがないことくらいエリックにはわかっていたが、
他にいいようがない。案の定、男はエリックを見下すような顔で言った。「ほう、
パニック…例えばどういうふうにだね?」エリックはソノ言葉を聴くと不審に思った。
声の調子が、「どういうふうに」、というより、「これくらいで」、という感じだった。
まるでもっと悪いことがあるみたいに…。エリックはしょうがなく答えた。
「本当です、僕にとってソレはただの首飾りじゃないんです。それに、僕小さいころ…。」
?エリックは言葉に詰まった。というより自分が何を言おうとしたのか忘れてしまった。
「小さいころ、なんだね?」男はエリックが言葉に詰まると挑発するように訊いてきた。
なんで忘れたんだ?小さいころ確かナニかがあったはず…。エリックは返答に困った。
その少しあと、腕時計を見てから、男の隣の緑色の眼の若者が男に耳打ちをした。
「ストゥービング警部、そろそろ行かなくては…例の件を調べないと…。」
エリックと話をしていたストゥービング警部と呼ばれた男は、
もっとエリックを甚振れなかった事を残念そうに思いながら「そうだな、だが…、
バティック、アレは少し調べたいことがあるから後日回すと言っておいてくれ。」
ストゥービング警部は急に何かを閃いたかのように言った。
それからもったいぶるような仕草をしてからエリックが座っているベッドに、一冊の
本を投げ、置いた。一同が驚いたように顔を歪め、蒼褪めた。バティックと呼ばれた
緑色の眼の男は少し驚いたような顔になったが、すぐに何事もなかったかのように
また無表情になった。「警部…!ソレは総監に渡して調べてもらわなくてはなりません!」
エリックに微笑んできた茶色の瞳の若者が少し躊躇ってから言った。「レザック!
今は彼に見せるほうが賢明だ!何時までも黙っていられると思っているのかね!?」
ストゥービング警部がまるでコレを待っていたかのように怒鳴った。その眼には
憎悪が浮かんでいた。「しかし警部、総監はすぐに調べるから持って来いと…、
それに、まだ彼に見せるには、意識もハッキリしてはいないみたいですし…。」
レザックは反対したが声はじょじょに小さくなっていった。「レザック、君は一警官の
分際で私に反対するというのかね…、それとも総監の甘い意見の方が、
私の意見より賢明だと言うのか?」ストゥービング警部が「甘い意見」という言葉を
強調し、レザックを睨んだ。レザックは尚も反対していたが、警部は耳をかさずに、
エリックを睨んでから、ベッドにエリックと本を残したまま部屋を後にした。