第八章「白い部屋での会話」
★第八章「白い部屋での会話」★
エリックは絶句とともに身体全体を見回した。服が着替えてあった。
紺色のベストから青いパーカーに変えてある。ズボンもベストと同色の
紺から、白に着替えてあった。エリックはすぐにパーカーとズボンのポケットを調べたが碇はない。
彼の顔は序々に青褪めてきた。エリックから碇を取るということは、潔癖症
の人からハンカチと手袋をとると等しいことだ。エリックはゆっくり立ち上がった。
身体が重い…。いや、軽いのか?自分の身体の状態がわからないのだ。
具合が悪く、吐き気がするが休んではいられない。
エリックはベッドの近くの白い鉄製の机を調べた。しかしみつからない。エリックが絶望に浸された時、
もうひとつの紛失物に気づいた。もう一つのanchr…。父からもらった本。
エリックは完璧に蒼褪め、重病人の様な顔になった。彼はふらふらした
身体で部屋中を探したがみつからなかった。探し始めてから十五分後。
あまりのだるさにベッドに腰を下ろしたとき、この白い部屋の、ベッドの右側にある
ドアから足音が聞こえるのがわかった。それも大勢の。彼は咄嗟に隠れようと
したが、この白い部屋ではその場所もない。エリックは仕方なくそのままベッドに
上に座っていた。碇のない彼にはもう何も考えられない。
ドアの前で一回躊躇するような態度をみせてから、ソノ人達はノックもなく
入ってきた。エリックはすぐに数を数えた。一、二、三─、男が四人だ。
先頭は五十後半と思える男。四人の中では一番年上の者だ。
そのすぐ右には二十中間の若者。濃い緑色の眼が鋭く光っている。
とても若者とは思えないほどの余裕がある。
その後ろには短い黒髪とそれと同じ黒い瞳の背の高い若者。前の緑色の眼の
男と同じく二十中間の男だ。整った顔と黒髪からエリックはアランの顔を思い浮かべたが
雰囲気がどことなく違う。その男はエリックと眼が合うと二重の瞼でウインクをしてきた。
エリックはウインクを返す余裕もなく彼と眼を逸らし、彼のとなりのさっきの二人と
同じ二十中間の男に眼をやった。茶色の瞳で二重の瞼、髪は肩にギリギリつかないくらい、
つまり、丁度エリックと同じくらいの長さだ。エリックと眼が合うと、ウインクまでは流石に
しなかったが、恥ずかしそうに微笑んできた。これも微笑み返す余裕がなく眼を逸らした。
先頭の五十中間の男にもう一度目をやった。エリックの眼が自分のほうに来たこと
がわかると、ソノ厳しそうな顔をもう少しあげ、エリックをみつめてから
口を開いた。「エリック=マックガフィン、君がこの病院にきてから二日間が経った。」
男は唐突に言った。エリックは返答に困り、黙った。「君の家に火事が起きてから、
ということになる。」男は、エリックがなにも言わないので続けた。「君の持ち物は極僅かで
二つしかない、偶然にも二つとも碇だ。」男は口元を歪めて嘲笑うように笑いながら
エリックの碇の首飾りと、父がくれた【ANCHOR】の本を取り出し、具合が悪く、
蒼褪めた顔で困惑しているエリックの顔の前で掲げた──。