第二十二章「争い」
第二十二章「争い」
コツコツ……。エリックの病室の真っ白の部屋に
響く音は、幻聴でも霊の仕業でもなく、数人の足音だった。
エリックがその音を聞くと、誰が来たのかはすぐにわかった。
看護師は大抵二人だし、こんな荒い歩き方はしない。
恐らく数日前の男達だろう。
エリックは眠いし、今は誰とも話したくなかったので、寝たふりをする事にした。
コンコン……。二回ノックの音。
エリックは布団に潜り続けようとしたが、そのノックの音を聞いたとき、
気が変わった。潜っていても何ればれるだろう。
「…はい。」静かに返事。
男達は名乗りもせずに入り、そのままエリックの寝ている
ベッドの前まで来た。
…やはり。見覚えがある。
数日前の男達だ。
当然、ソノ中には、昨日のレザックという男も居る。
エリックは絶対目を合わせぬよう、ずっと白い床を見詰めた。
数秒後、真ん中のストゥービング警部が咳をし、エリックに作り上げたような声で語る。
「ウウン!えー、彼から聞いたと思うが、四日前、君の家には火事がおき、
…両親も残念ながら亡くなってしまった。」
…亡くなった?エリックは耳を疑った。嘘をつくな。父さんは亡くなったんじゃなく、
逃げたんだ。そして、母さんはアイツに殺されたんだ…。
「単刀直入に言う。今の君には両親もいない。君の叔母も、
君の祖母の面倒に追われ、君の面倒まで看れない、という。
そこで君を施設に入れることにしよう。ロンドンの……。」
施設だって…?エリックの背に、絶望が圧し掛かってきた。
それ…じゃあ、アイツに復讐をすることができない。
恐らくもう、アランや、ケヴィンにも会えないだろう。
それから数分、重い空気が流れた……。
「あの…警部。私が、彼を引き取ります。昨日、市からも了解を得ました。
彼の叔母からも。」
おずおずと、レザックが前に出る。
なんだって?エリックは驚き、つい顔を上げてしまった。
「なんだって?」ソノ声はエリックじゃなく、赤い顔をした、
ストゥービング警部だ。彼の顔でわかる。恐らくレザックさんは警部に言って
いないのだろう。
「君は勝手に決めたのかね?…第一、彼の教育費はどうするんだね?君の
今の給料ではとても……。」
「ソレは大丈夫です、市から援助も来ますから。彼の叔母からも来ます。」
レザックはストゥービング警部の言葉を遮った。
エリックに心配を掛けたくないためだ。
「だが…彼の了解が…、エリック君本人の。」
ストゥービング警部は尚も食い下がらない。
そんなに僕を施設へ送りたいか……。しかし、そうしていると
復讐なんてできるもんじゃない。
エリックは俯くレザックのほうを見、口を開いた。
「僕、大丈夫です。彼と…レザックさんと暮らします。」
今度はレザックが驚き、エリックのほうを見る。警部の舌打ちが部屋に響く。
レザックの後ろにいるラルフが、エリックに親指を立て、ガッツポーズをする。
エリックは流石に、心の中に怒りを溜め込んでいるストゥービング警部のまえでは
ガッツポーズを返せず、そのままラルフを見詰めた。
アストアスが一人、そんな彼ら五人の様子を冷静に見詰めている。
はい、更新です。
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