ミルのためなら(2)
少し長いです。
俺はミルの「祝福」の魔法の邪魔にならないようにこの場から移動した。
カード魔法「聖幕」の一部をスプリングのように使って高速で移動した。
しかし、空の黒い何かもこちらに向きを変えてくる迫って来る…逃げる切れる相手ではないだろうな。
もうかたちもしっかりわかる…竜だ。
半透明だが全身が黒い。
四本の脚に長い首としっぽ、コウモリのような羽…元の世界では空想上の生き物の姿。
この戦い、ミルのためにも絶対に負けられない!
まずは、「聖幕」と「触診」で作った魔法を「センサータッチ」で調べる。
測定対象:黒竜の怨念(特殊タイプカード魔法,呪い)
※現在の測定対象は真音を含みます、つまり呪いの本体です
属性:闇(魔)
効果:対象1人を呪い殺す、そのときその者が願えば約半径200km内の生命力を奪う追加効果を発動する
呪いの解き方:不明
その他:カード使用者の魔力は使わないが、使用者の命を奪うことがある
追加情報:聖幕の防御効果を上回っています
うーん、聖幕でなんとかなるんじゃ無いかと少し期待してたんだが…。
他のカード魔法で仕掛けるか?
でも威力がたりないか?
とか思っていたら目の前にいきなりの来た!
瞬間移動か?
実体が無いからか?
黒竜は口を開けて…うお!…吸い込まれる!
竜に飲み込まれて俺は意識を失った。
目を覚ますと建物の中にいた。
見覚えがある…ここは…祖父の蔵?
間違いない…入り口に近づくと鉄格子の先に外が見えた。
見覚えがある庭と実家が見える。
俺は元の世界に戻って来たのか?
ズキン…不意に頭に痛みを感じた…。
ブルブル…身体に寒気を感じた…。
この感覚は…覚えがある…これは…。
あのとき…そう…10歳の頃、俺が弟から電話がかかってときに嬉しくて長電話した後、祖父に「教育」と言われてここに放り込まれたんだっけ…。
祖父は俺が自分の気に入らない行動を取ると「教育」といってここに朝まで閉じ込め放っておかれたっけ。
ここは、思い出したくない場所…
ここは俺が絶望した場所
いや…
俺が祖父母への説得を諦めた場所
そんなことは…
俺が家族みんなで幸せに暮らすことを諦めた場所
諦めたわけじゃ…
諦めた
いい子を演じることをやめなかったのは、家族のためではなく単に自分のためだ
違う…
違わない
ここはお前が全ての人を怨みはじめた場所
違う…違うんだ…
違わない!
お前の怨みはこのときから蓄積されて来ている…山ほども高く、海よりも深く
うそだ…
うそをついているのはお前だ
もういうな…
この怨みは今も消えていない
言わないでくれ…
全て本当だ…
そう思っているんだ…
怨んでいるのだ…
お前自身が…
そうだ、お前はしなくてもいい苦労をさせられた!
しなくてもいい痛い思いもした!
苦しかっただろう!
悔しかっただろう!
もういい!
耐えることはないのだ!
その思いを!
怨みを!
抑えることはないんだ!
俺が力を貸してやろう!
お前を苦しませた全てを葬る力を貸そう!
そうだ!
全てを始末するんだ!
そうすれば、お前は全ての苦痛から開放される!
全てを怨むがいい!
我を受け入れるがいい!
さあ!
俺は…
俺の答えは…
お言葉ですが…黒竜様はドアホウですか?
…今なんて言った?
怨みの対象は写しの世界にいるんだよ!
お前がそこまでいけるかってんだ!
第一、祖父は死んでしまってるんだよ!
だからド・ア・ホ・ウ!だって言ってんだよ!
この間抜け!
景色が消えた…暗い空間の中で俺の目の前に黒竜がいた。
(愚弄しおって!愚かなヤツめ!)
(へん!俺に世界を怨むことをOKさせるつもりだったんだろ?ムリだぜ!)
(ならばお前を呪い殺すまでだ!)
黒竜が黒い塊になって俺を包み込んだ。
すると全身が冷たくなっていく。
感覚が消えていく。
くっ…こんなヤツにやられてたまるか!
しかし、対処法が全く見つからない!
やばい!
(少年よ!竜の本当の声を聞け!)
(貴様!俺を起こしておいて邪魔する気か!)
本当の声?
なんだ?
誰の声なのか、を気にする余裕はなかった。
ただ、その真意を解くために耳を済ませる…本当の声って…聞こえた!
泣いている!
(どこだ!どこで泣いている!)
(聞こえるの?僕の声が!助けて!)
さっきは漠然と「耳を済ませると」思ったがクレアの授業…「心を真音に集中する感覚」と似てた。
センサータッチも真音がここにあるって言ってた。
ここにある真音は「黒」と「竜」か?
いや、黒は呪いの…念の表現だとして…「竜」か!
そう考えた途端、輝きが見えた!
あった!
(僕も君が見えた!僕を掴んで!)
(させるか!)
身体の感覚がほとんどなくなってきた…視界までも奪われた…。
つらい…が…このくらいなんだ!!!
”聖なる槍”に力を注がれたときほどではないぜ!
それにミルが待ってるんだ!
(「竜」俺のところに来い!面白いコトをしよう!楽しませてやる!きっと楽しいぜ!)
(行く!連れてって!)
闇を討ち払い金色に輝く真音が俺に突っ込んできた!
掴んだぜ!
(うぐ…バカな…こんなガキに…)
「竜」の真音を掴むと俺を包んでいたモノが霧散した…呪いを倒したのか?
よく見ると、近くに竜と老人がいた。
(長い間、闇にとらわれていたんだ…本当にありがとう!)
(そういえば、クレアが高位の真音は自我を持ってるって言ってたっけ。)
(うん!貴方もありがとう。)
(ほっほっほっ気にせんでよい。正直、ここまでうまく出来るとは思わんかったわい。お主は呪いの天才のようじゃ。弟子にほしいのう。)
(スルーパス!爺さん!ここは礼をいうところだが先に答えてもらおう!なぜ俺を狙った!)
(お主を狙っているのは3魔王の副官ブルートじゃ。ヤツは魔法の鏡でお前をいつも見ることができる、注意するんじゃぞ!)
(あんた…)
(ワシの体でヤツの呪いが発動したようじゃ…。猫耳の嬢ちゃんと達者でな。)
老人の姿がふっと消えた。
あっ…礼を言ってないじゃんか、俺!
まあブルートのところなら…あの爺さんにもう一度会えるかもな。
(下に降ろすね。)
おお!いつの間にか竜の背中に乗ってるじゃん!
俺の乗った金竜は軽やかに宙を舞いミルの近くに降りるとミルが飛びついてきた。
「ごおおおおおだあああああ!」
「うわっち!泣くなって!メリッサさんは?」
「だいじょおぶ!ミルがんばづだよ〜。」
せっかくの美少女が台無しだぜ…。
少女の温もりが自分が今生きていることを実感させてくれる…。
よかった…俺はミルがいたから…。
元の世界で精神の限界を迎えていた俺…。
ミルがここで俺を受け入れてくれていなかったらぜった負けていた…。
俺は上を向きながら…抱いたミルの猫耳をいつまでもいつまでも撫で続けた。
俺はミルのためなら…”生きる”ことができそうだ。
明日でこの話しは終了です。
この物語が終わるわけではありませんよ。