ミルの心配と新しい仲間(1)
ミルが語ります。
カタンコトン…馬車の音が、揺れがミルの心をブルーにするの…。
ため息をつきながら馬車の窓から外を眺める。
「うふふ、ミルはまたコータさんのことを考えているのね。」
隣に座った母…王女メリッサが言葉をかけてきた。お母様も私と同じオレンジ色の髪と猫耳をしているのでよく似ていると言われる…猫耳は女神アンノルファイに愛でられた者の証なの。
今は神殿のお勤めを終えた帰り道。
今日のように2人してアンノルファイ教団の神殿に赴いて神官としてお務めするのはしばらく間があいていた…ミルはここ1年は聖なる槍を召喚する特訓のために神殿に泊まり込んで修行をしていた…なので久しぶりのお母様との仕事に幸せを感じていたの。
でも終わった途端、早く帰りたくて仕方が無い衝動に駆られたの…コータの近くにいないと…不安で不安で…。
「まだ、この間のことを気にしているのね。あれは彼を1人にしたこちらのミスよ…コータさんを責めるべきでは…。」
「わかってるの!でも…。」
先日、王女ミルフィーユこと私の生還パーティーが催されたとき、コータも皆に紹介されたの。
コータは「私の帰還のために力を貸してくれた写しの世界の無力な少年」ということにした。そして褒美として私の父の従兄にあたるグレン叔父様の非保護者になった。つまり事実上の養子…グレン叔父様には今子供がいない…になることになったの。これによりコータの身分は保証されたものになるはずだったのに…。
「いっぺんに20人も婚約するなんて…、コータのバカ。」
「まともに会話もできない10歳の男の子に婚約の話を振る大人が悪いのよ。お父様もその件は無効だと正式に公表してくれたからいいじゃない。」
実は「触話」の魔法カードが使い過ぎて破れてしまい会話がうまくできなくなっているの!
なんとかなるとコータがいうので出席させたけど、叔父様の養子ってことは公爵の爵位を譲られる可能性もあるから…。
まだこちらのしきたりを知らないコータは宴席で多くの人と会う約束をしたみたい。
そのときに相手が娘を紹介すると言ったのをコータはそれほどたいしたことではないと思ったみたい…親が自分の娘を紹介し、コータが会う事を承諾した時点で婚約が成立することに全く気付いていなかったの!知らないからしょうがないかもしれないけれど!!
後でそれに気がついたグレン叔父様は頭を抱えてしまった…この国の法律上では違法ではなかったの。
コータはみんなの前では強がって笑っていたけど自室ででかなり凹んでいた。
さらにその後のウワサが最悪なの!コータは頭がユルくて誰にでも結婚してくれっていう男の子というウワサが流れたの!!お陰で下働きのメイドなどもことあるごとに言質を取ろうとしてコータに迫るって目にもあっているの、もう!!!
「そう言えば、お父様がコータさんの希望した人物に丁度いい人を手配できたって言ってたわ。今日あたり来ているかもしれないわね。どんな人か聞いてる?」
話題を変えるためか、お母様がことさら明るい声で話を降って来た。
「知らないわ?ずーっと歳上のメイドと、教養があって言葉や歴史やマナーと一緒に出来れば魔法も教えられる人でしょ?」
誰かしら?お父様がまっかせなさい!と言っていたからチョット不安…お茶目なのよね、特にこういう話には。
そんな話をしているうちにお城に着いたのでコータの部屋に早足で向かう。
「コータ!私よ!入るね。」
扉を開けて中に入ると…女の子がコータに手を回していて、今にも…
「ダメー!」
「なんどうわーーーーーー!」
バシャーン!
コータを突き飛ばしたら空いていた窓から落ちて…下の池に盛大な水しぶきがあがった。
…ふう、救助成功なの!!