この罪は誰のもの?
ミルが語ります。
「なかなかの歓迎ありがとう!危うく土産をふいにするところだったがな!」
磔にされた私をよく見える様にするためか、マーフィーが作ったらしい小さな光の玉が頭の上に浮かんだ。
「ミル!ああっ!生きていたのね!」
王妃…お母様が飛び出しそうになって周りの者に抑えられる。自然と嬉し涙が出てきた。
「お母様ー!」
「改めて名乗ろう!シェリーだ!国王はいるかな?」
「ここだ!大魔王!」
大勢の中から一人の男が歩み出した。見るからに王様という格好ではあるけど…
(あれはグレン叔父様よ。)
(本物はどこ?)
(…よくわからない、見える範囲にいないみたい…。)
(それはないな!マーフィー!いぶり出せ!)
私を戒めるマーフィーのツタの様なものがいばらに変わったの!いったーい!小さく悲鳴をあげてしまった…。
「影武者に用はない。いないなら土産は持ち帰るとするか?それともここで…」
「やめて!娘の代わりに私を!」
「…よせ!娘を離せ!」
前に出ようとするお母様を制し、グレン叔父様の近くにいた若い兵士が叔父様の前に立った。その姿が変わり王の…私の知っているお父様の姿になった。
…ここからコータの考えたみんなに罪の意識を植えつけちゃうよ作戦が始まった。
「娘を人質に、何を要求するつもりだ。」
「人質?聖なる槍の人柱として生贄に捧げられたこの娘に、そんな価値が残っているのか?」
大魔王シェリーの女性ではあるがよく通る力強い声があたりに響くと一斉に静かになったの。誰も声をださない…もしそうしたら自分に罪がのしかかってくるとでも思っているのだろうか?…出せないみたい。
「人柱にしたからこそだ!その子には生きる価値がある。」
「封印に失敗してここに無様な姿を晒しているのだぞ…それでもか?」
「その子には何も罪はない!あるとすれば人柱を命じた私にこそある!」
まるでこの場にお父様と大魔王しかいないかの様に静かだった…。お父様と大魔王の視線が真正面からぶつかり合っている。
(まだだ、もう少し時間を稼げ!)
コータと私は今、ある作業をしている…。この芝居をすることだけでも私はイッパイイッパイなのに、コータは…私のためにさらにあることをしているの。
「王よ、お前に罪があると言ったな?本当にお前だけか?」
そこでシェリーはゆっくりと周りを見回した…多くの者が目をそむける。
「違うであろう…この娘を人柱として生贄に捧げたのはお前たち全員であろう?違うと言える者がいるのか?命がけでこの娘を人柱にすることを阻止しようとした者がいるか?」
静かで、重い空気がこの場を支配している…うん、私の番なの!
「みんな反対してくれました!私は、私は誰にも強要されていません!私が自分で手を上げたの!だから誰も悪くないの!くううっ!」
マーフィーがまた締め付けを強くした、ホントにイタタタタタ!
「健気だな…小娘。自分を見捨てた者達をかばうなど…お前がこの者達を恨んでも誰も文句は言わないぞ…一言くらい言ってやれ…一緒に封印されてくれる人はいませんでしたか?ってな〜!うはははははははは!」
話し方がオヤジっぽいの…偽物ってばれないかな?そんなことをマーフィーがしゃべってる間に私とコータは作業を進めていく。
(よしっ、もういいぞ!フィナーレだ!)
「というわけで…、この娘はお前たちの罪の証明、罪そのものだ!
王よ、一つ試練を与えよう…この娘を私が生きて返せばお前たちはこの娘が生きている限り罪を忘れることがきまい…それに耐えられるか?耐えられなければ今、私が代わりに命を奪ってあげよう…どうだ?」
「人間を舐めるな!娘の命を奪うというなら刺し違えても貴様を倒す!」
一気に場内に戦いの緊張感が膨れ上がったの。私も冷や汗がダクダクなの…。
「…その言葉試してみようぞ。」
マーフィーがゆっくりと私を…お父様の方へ…いばらで宙吊りのまま…お父様の目の前で…はらりと戒めが解かれた。
「ミルー!」
「お母様!うああああああん!」
直ぐにお母様が抱きしめてくれた!人垣が幾重にも巻かれマーフィーの姿はもう見えない。
因みにここからはひたすらなくように言われているの…コータに言われたから…でも、芝居の必要はなかったの!
お母様の香りが、私の知っているお母様の温もりが、二度と触れ合うことのないと思っていた暖かさに…心から泣いたの…。