表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

ホラー小説集

リバイバル上映された特撮映画の音声トラック

作者: 大浜 英彰
掲載日:2026/08/08

挿絵の画像を作成する際には、「AIイラストくん」と「Gemini AI」を使用させて頂きました。

 私こと園樟葉(そのくずは)があの不思議な出来事に遭遇したそもそものキッカケは、ボーイフレンドでもある大学の映研の先輩からのお誘いだったの。

挿絵(By みてみん)

「やあ、樟葉君。前に一緒に一緒に行ったミナト映画劇場で、ちょっと珍しいフィルムがかかるみたいなんだよ。もしスケジュールに都合がついたらで構わないんだけど…」

 映画を口実にしたデートのお誘いは、枚方先輩の常套手段。

 私も先輩も映画は観るのも撮るのも大好きだし、ましてやそれが「珍しいフィルム」ともならば否応なしに好奇心が刺激されるというものよ。

挿絵(By みてみん)

「成る程、珍しいフィルムですか…それは面白いですね。」

 それで二つ返事でOKしたのだけど、その時はまさかあのような事が起きるだなんて思いもしなかったの。


 阪堺電車の東湊停留所から程近いミナト映画劇場は開館当初こそ封切館だったものの、やがて二番館を経て三番館へと格を落とし、この頃になると邦画中心の名画座に鞍替えしていたの。

 しかし特撮怪獣映画や任侠映画といった熱心なファンを擁するジャンルを積極的に上映する尖った営業方針が功を奏し、単なる三番館だった頃よりも営業成績は向上しているのだとか。

 もっとも、その尖った営業方針の恩恵に浴している映画ファンには、私と枚方先輩も含まれているのだけれど。

 何しろ国策映画として製作された戦争ものの「樺太にかかる虹」も特撮時代劇の「SF国定忠治・赤城山の大怪獣」も、どちらもこのミナト映画劇場で鑑賞したのだから。

 この日に私達が鑑賞した「猛獣雪男」もモノクロフィルム時代の映画だったけど、日本の雪深い山中に潜む雪男を追う生物学者の冒険と平家の落人を起源とする因習村のサスペンスが一体化した特撮娯楽作で実に面白かったわ。

 ただ因習村の描写に人道的に難のある点が多々見られた為、来月発売予定である関係各所を説得して学者や弁護士から「差別的意図はない」ってお墨付きを貰ったDVD版を除けば国内で長らくソフト化されなかった幻の映画なのだけど。

 そうした事情でVHSやレーザーディスクのような映像ソフト化はおろか地上波や衛星放送等での再放送の機会に恵まれなかった為、ろくに点検や確認のされてなかったフィルムは経年劣化で何とも無残な有り様だったわ。

 白黒の画面には定期的にノイズが走るし、音声トラックにも「バチッ!」っていう異音は混ざるし。

 あの分だと、きっとビネガーシンドロームも起こしているだろうな。

挿絵(By みてみん)

『流石にDVDはニュープリントの上でデジタルリマスターとノイズ除去が行われているから、もっと見やすいと思うけど…でも逆に考えたら、このノイズや異音こそがデジタルリマスターには無い本物のフィルムの質感ならではと言えるわね。』

 そうした経年劣化にさえも偏愛的な魅力を見出す鑑賞スタイルは、枚方先輩と一緒に映画鑑賞をするようになってから改めて意識するようになった見方なのよ。


 だけど私が今回の「猛獣雪男」のリバイバル上映で目の当たりにしたのは、そんな私の生易しい偏愛を軽く凌駕する衝撃的な映画体験だったの。

 因習村を脱した主人公の生物学者が雪男と決着をつけるため、空に向けた猟銃で空砲をぶっ放して雪崩を誘発したクライマックスシーンで、それは起こったわ。

 当初は全て特撮で処理するはずだった雪崩を偶然にもフィルムに収められたので、資料映像と特撮フィルムとを組み合わせてリアルに表現された圧巻の雪崩シーン。

「えっ…!?」

 その実写パートが特撮フィルムに切り替わるか切り替わらないかのギリギリの一瞬、小さく「雪崩だ、助けて!」って声が聞こえたのよ。

 経年劣化によるノイズで、聞き取るのには集中力が要ったけど。

 そして奇妙な声を耳にしたのは、私だけじゃなかったみたい。

「ねえ、あれ何?」

「ノイズじゃないよね…」

 上映終了後に明るくなった劇場内のアチコチで、そうしたヒソヒソ声が聞こえてきたのだから。

「あ、あの…枚方先輩…」

 そうして恐る恐る訊ねた私を、先輩は更に驚かせてきたのよ。

「そうか、樟葉君も聞いたのか。どうやら例の声は、子供の頃の僕の聞き間違いじゃなかったみたいだ…」

 何と私や他の観客達が耳にした奇妙な声は、今回が初めてじゃなかったみたい。

「実は僕が小学生の時にも『猛獣雪男』のリバイバル上映があって、その時にも『雪崩だ、助けて!』って声が聞こえたんだよ。その時は流石に半信半疑だったけど…」

 そうして映画館を出た足で地元の市立図書館に入館した私達は撮影回顧録と新聞の縮尺版とを照らし合わせたのだけれど、案の定と言うべきかクランクインの数日前に大学の登山部員が雪崩に巻き込まれて亡くなっていたみたいだわ。

挿絵(By みてみん)

「これが亡者の声を偶然拾ったのか、或いは単なる収録ミスなのかは分からない。だけどデジタルリマスターとノイズ除去でDVD版では消えてしまうだろう。その点で言えば、僕達は貴重な瞬間に立ち会えたのかも知れないね。」

 先輩の予想通り、翌月に発売されたDVD版「猛獣雪男」の当該シーンには「雪崩だ、助けて!」という声は入っていなかったわ。

 こうした事も時としてあり得るからこそ、たとえ映像ソフトの発売されている映画もフィルムで見た方が良いのかも知れないわね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
「〇〇という曲には幽霊の声が入っている」という都市伝説も、今ではすっかり聞かなくなりましたね。現代の技術をもってすれば、このような心霊現象も闇に葬られてしまうものなのかもしれません。 何にせよ、奇妙で…
珍しいフィルムがかかるみたいなんだよ、のデートの誘い♪wwなんだか、いいお酒置いてるみたいなんだよ、の映画版という感じですね(*^^*)♪ あと、映画のフィルムが経年劣化で入るノイズって、プリントし…
心霊現象なら確かにホラーだけど、収録ミスで残ってる方が怖いわ…………(・_・;) 後者なら実録された断末魔じゃろ、それ。 ヤベえ…………。 とりあえず手を合わせておこう。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ