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第5話 泣くな!笑え!次に行くぞ!

 私の心臓は、まるで壊れかけた機械のようになっている。


 不規則に脈打ち、望遠鏡を持つ掌には、

 冷たい汗がにじむ。


 戦闘前はいつもこうだ。


 だが今回の目の前に迫る圧倒的な暴力に、

 なかなか腹がくくれない、重い空気がのしかかっていた。


 張り詰め、身動きすれば、

 そのたびに緊張感の電気が背筋を駆け上がる。


 奥歯を強くかみ締めていたらしい。


「くぉぉ〜......8隻のガレオン船団かよ......

怖いな......なかなか見れるもんじゃねぇ!

武者震いがすごいぜ......。 」


 船員に聞こえないよう呟く。


「 ん?......また、やってしまったか......」


 じわりと口の中に広がる血の味......


 つんと鉄の匂いを感じ、

 恐怖と興奮の間で揺れ動く自分に気付く。


 ―――その瞬間


 前方で火柱が上がった!


 しばらくして爆音が響き渡り、

 そして黒煙が立ち昇る。


「なっ!? ……」


 《 ヤン 》たちの高速運搬船の周辺で、

 次々と火柱が......!?


「な、なにが!? ……」


 望遠鏡に再び集中すると、

 高速運搬船の左右から待ち伏せしていた敵の

 小型高速艇がワラワラと群がっていた......


「やばい!【マラッカ】の別動隊か……?」


 奴らは鉤爪の付いたロープで、

 ヤンたち別動隊を捕まえようとしている。


 あれに足止めされたら、囮船団は全滅だ!


 おちつけ!


「全速前進だ、援護に入るぞ!」


 焦るな......俺......


「 武器を取れ! 全門大砲準備〜〜!!!」

 

 くそっ!やられた......


 作戦を崩された......


 指先から冷たい海水が、

 血管を逆流していくような節操感が、

 全身を駆け抜ける......


 ふと、奴の顔が脳裏に浮かぶ。


 ―――《 ハンス 》か?......


 奴だ!奴しかいない!


「くそっ〜〜〜!!! ハーーンスぅぅう〜〜!!!」


 あの違和感を感じたときに作戦を止めれば?......


 それとも今から島の水路の向こうで待つ部隊に

合流すべきか......?


 いや、それじゃ間に合わない!


 少なくともヤンと、コルネリスを、

 囮なんて危険な任務に就かせるべきじゃなかった......


 万が一にも2人が死んだら、【ジパング】への

最速の道が閉ざされる......


 生き残った仲間と共に、世界最強の会社にするんだろ?......


 雑念が頭の中を何度も何度も駆け巡る。


 戦いの前の、悪い癖だ......


 そして、いつも思う。


 なんて弱い人間なんだ......


 小型高速艇を弾き飛ばし、

 囮の高速運搬船2隻とすれ違う。


 1隻はもう既にダメだ......


 近くを通った味方船の操舵手と目が合った。


 奴だ......生きていた!


 あれは......間違いない、ヤンだ!


「ヤ......ヤン〜〜!!!生きろ〜〜〜!」


 奴も必死に何かを叫んでいる。


 我々は敵の小型高速艇を蹴散らしながら、

 敵ガレオン船団とヤンたちの間に割り込み、

 ありったけの砲弾を《 アンドレ 》に向かって

ぶち込む!


「ゴゴゴゴ〜〜〜ン!!!」


 だが、これを境に激しく敵ガレオンと激突し、

 白兵戦へと突入する。


 甲板は一瞬で血と硝煙の匂いに満たされた。


 剣戟の甲高い金属音が鳴り響く。


 銃声の腹に響く破裂音と硝煙の匂いにむせ返える。


 そして、あちこちで、

 誰かの断末魔の絶叫が耳をつんざく。


 肌を焼くような火薬の熱と、

 飛び散る返り血の生温かい飛沫。


 視界は赤と黒の混沌に塗りつぶされ、

 意識は警告音を上げながら、

 真っ白に飛んでいく。


 そしていつしか記憶は曖昧になっていった。


 いつも......こうだ......


「 次があるなら......こんな戦いなんて......

 無い世界が、いいよな......

 平和な世界が......」


 しばらくして、夢の中で

 ヤンやコル兄 、シモン 、

 ナガマサが、ずっと遠くで叫んでいる。


 でも、私は目を開けなかった。


 いや……開けられなかったのか?


 代わりに、そこに立っていたのは―――


 ニヤけた顔の《 ゴート 》だった。


 何故......親父が......?


 ハゲ頭のくせに「箔をつける」と言い出し被りだした、

 お気に入りの変なカツラ付けて、

 真剣な顔 になる。


 そして。いつものカッコつけた決めポーズを取る。


「 おう、早かったな!」


 ああ......そうか......


 しかし、それにしても懐かしい顔だ......


 温かい何かが、私を包み始める......


「 死んじまったなぁ......親父......

 ふぅ〜......そうか......やっちまったんだなぁ......」


 ゴートはいつもの私の背中を強く叩き励ます時の

顔をしている。


 私は精一杯の笑顔を作ろうとした。


『 おう! そうだ! チビ泣くな! 

 笑え! www

 次に行くぞ!』

見ていただきありがとうございました。

この後、ピークアブー編に移りますので、

見ていただけたらとてもうれしいです。


全速前進だ!の所からは

The Phoenix ~Fall Out Boy~が個人的に好きなのでを1.2倍ぐらいの速さで聴きながら見てくれると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
Xから来ました。 全体として、「海洋冒険もの」と「会社の成り立ち」を組み合わせた、かなり珍しい作品ですね! 読んでいて一番印象に残ったのは、主人公個人の成功よりも、ゴートから始まった仲間たちの想い…
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