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黒歴史ノートが生んだラスボスは、加減というものを知らない  作者: 小宮めだか
4章 そのラスボス。作者と対峙する。

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対峙

「逸平。どうしようというんだい。ボクを追いかけてきたのはいいけど、ここから先はもう、ボクの領域になりつつあるんだよ」


 せせら笑うように、レイカは屋上から更に上へ。少しずつ高い場所を目指すようにして更に上昇し始める。

 アイツの持つ『黒歴史ノート』から伸びる鎖が、更に引っ張られてギシギシと軋むような音を響かせる。

 さながらレイカが、繋がれた鎖を自分で無理に引きちぎろうとするかのように。


「どこに行こうというんだレイカ! 俺はお前に話があると言っただろう!」


 俺よりも遥かに高い位置。

 夕日が落ち、空に現れ出した月に重なるかのような高さまでアイツは昇っていく。

 いったいどこまで行くつもりなんだ。


「もうボクとキミとの対話の時間は、残念ながら過ぎ去ってしまったと思っているんだけど。それともそれでもまだ何かあるとでも言うのかい?」


 そう告げると上昇を止め、本を片手に持ったまま優雅に扇子を顔の前に広げる。


「そうなんだね。キミに残された願いをボクに届けに来てくれたのか。それは嬉しいな……やっとボクに全てを捧げるつもりになってくれたんだね」


 そう俺に告げるレイカ。

 鮮やかな紫色の髪が月明かりに照らし出されて、妖しいほどの美しさが全身から溢れ出てくる。

 魔王軍のカリスマ。絶大なる魔力とその手に抱かれる神の包丁。

 奴の赤い眼に見つめられれば、誰しもが偽りの安堵感と高揚感に包まれ、己が使命を忘れさせる。

 まさに俺が、自分で書き記した通りだ。


「なるほど。李里奈をそんなに助けたいんだね。彩音の為に、そして自分の存在価値を認めて欲しいが為に。いいよいいよ……何とかなるかもしれないよ。ボクのこの包丁『絶対模倣』の力を使えば不可能なんてないんだから」


 レイカの言葉にのまれてはいけない。

 わかってはいるんだ。でもアイツの一言一言に、俺の心は揺さぶられる。

 レイカが力を少しだけ込める。

 左手に握られた扇子が、淡い光を放つ包丁の姿に変わり果てる。七色の光を放ちながら、まるでアイツの左手の中に全ての希望が詰っているかのようだ。

 キーン……という静寂を奏でるかのような高い周波数の音が耳に届く。

 俺は何日も与えられなかった水が目の前に出されたかのように、自分自身でも決して発してはいけない言葉が口をついて出てしまう。


「……なんでもする。俺に出来る事ならなんでも。俺はもう、彩音の泣いているところなんて見たくないんだ」


「なんでも? へぇ……本当になんでもするのかい?」


 レイカはこの世に存在するとはとても思えないほどの整った唇を、妙に引きゆがめるようにして笑う。それはまるでこの世界全てを嘲笑しているかのようだった。


「触媒は逸平、キミの生命そのものだ。」


 俺の全身の筋肉がか細い悲鳴を上げた気がした。それはこれから導き出される答えに対する微かな抵抗なのか。それとも同意なのか。


「それぐらい李里奈の病は重い。キミにその覚悟はあるのかい? どうせ無いだろう。ボクにはよく分かる」


 左手に持った七色に輝く包丁。その切っ先を俺に向けるレイカ。

 それは書けないからと、その世界を表現する事を断念し筆を折った創造主に対する断罪を、喉元に突きつけられているかのようだ。

 俺の額にあぶら汗が滲む。

 喉がカラカラに乾いて、どれだけ唾を飲み込んでも乾きは癒されない。

 握りしめた拳、喰いこんだ爪の先は掌の皮膚を切り裂き血が滲んでいる。

 自分が次の言葉を発するまで、とてつもなく長い、永劫の時間のように感じた。


「いいよ。レイカ、俺の命くれてやる」


 俺は肺の中の空気をすべて吐き出す様に、どこか落ち着いた気持ちでレイカに告げる。


「俺は彩音が好きだ。李里奈のことを本当の妹のように思っている。だったら答えは簡単だ……俺の物語の続きは李里奈が描いてくれる」


 俺がレイカに向ける真っ直ぐな揺るぎない意志。それを叩きつけるかのようにぶつける。

 レイカは表面上、表情は変わらない。

 だがアイツの持つ包丁が一瞬揺らぎ、黒歴史ノートから伸びる鎖が大きく身動ぎしたのを俺は見逃さなかった。


「レイカ。俺の最後の願いだ。俺の筋力が全部無くなっても構わない! 彩音の願いを、いや、俺と彩音の願いを叶えてくれ!」


 俺は全身の筋肉を震わせ、そう叫ぶ。

 その時だった!

 黒歴史ノートから溢れる鎖は赤く凄まじい光を唸るように発して、俺に絡みつくようにして自由を奪う!

 レイカが声を震わせ、両手を広げ恍惚とした声を上げた。


「素晴らしいと思わないかい。逸平のノートと現実が爆ぜ合い、溶け合い、侵食する最終形態だ! まさか僕もこんな事になるなんて思いもよらなかったさ。現実と小説が融合し始めるなんてね!」


 そんな馬鹿な!

 今までの小さな因果の揺らぎ、全てこの時のために連動していたっていうのか!

 旧校舎の怪現象。

 李里奈の上に不自然に落ちてきた照明。

 そして病のあまりにも早い進行速度。

 俺達の願いの積み重ねが様々な歪みを生んで、耐え切れなくなった因果は弱い場所に向けて一気に流れ込み、決壊する事となった。


 その時、屋上の扉が開かれ、圭人と彩音も屋上になだれ込んでくる!

 なんでだ!待っていてくれって言ったじゃないか!


「さぁ、逸平。役者は揃った。もう一度問おう。お前が望むのは理か命か! 選択せよ!」

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