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黒歴史ノートが生んだラスボスは、加減というものを知らない  作者: 小宮めだか
4章 そのラスボス。作者と対峙する。

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予兆

 それから何日かは怒涛のように過ぎ去っていく。

 桜岸西高校内は文化祭前という独特の高揚感に包まれ、そわそわしたような浮足立った雰囲気が漂っている。


 それは俺達も例外ではない。

 演劇部の助っ人として彩音も奔走していた。それほど台詞が多い役では無いが、割と重要なキーキャラなので、生半可な気持ちでは挑めなかったようだ。

 実は俺も渚さんに誘われて急遽演劇部に協力をしていた。もちろん俺の役割は演劇ではなく裏方。大道具係というある意味俺の筋肉をフル稼働できる恰好の舞台。


 そんな時、ちょっとした事件が起こる。

 今回の演劇部の題目は『改変~白雪姫』

 元々ある有名な童話をかなりギャグ現代目線で振り切った作品にしたようだ。

 その王子役の荒巻君が練習中に突如足の骨を折ってしまい、敢え無く入院。どうしようかと白羽の矢が立ったのがレイカだった。


「ほうほう、演劇か。王子役とはボクにピッタリでは無いか」


 面白そうにレイカが笑う。

 台本を渡されると、一読しただけで台詞を覚えてしまい周囲が驚愕。そのまま演技に入ると魔王感溢れる所作が、逆にこのギャグ現代目線よりの脚本と妙にマッチしてしまう。

 渚さんが涙を流して喜んでいたのは言うまでもない。荒巻君可哀そうに。


 たまに圭人が差し入れのケーキを持って来てくれた。どうやら渚さんとは寄りが戻ったようで仲良さげに話しているのを見て、俺や彩音も笑顔になる。


「これってシェルシェのケーキ? 圭人君奮発したね! あそこの美味しいんだよ」


 シェルシェは佐倉市で有名な美味しいケーキ屋さんだ。

 やはり女子には好評。流石、圭人だ。

 彩音も渚さんも甘い物には目が無いようで、練習の合間にぺろりと平らげてしまう。


「そうそう。ゲネプロの日に李里奈を呼ぼうと思っているんだ。いいかな渚」


 そんな話をしているのが俺の耳に聞こえた。ちなみにゲネプロとは本番前に行う前日リハーサルのことだ。


「なによ、全然いいよー。本番に呼べばいいのに」


「あはは、そうなんだけどさ。ちょっと集中させて見せてあげたいんだよね」


 俺は何となく彩音の気持が分かり、小さく笑う。圭人が俺の肩を叩く。


 そして文化祭前日。演劇部の公開ゲネプロの日だ。

 このゲネプロは本番とほぼ同じように全て動かしてみる最後の通し稽古。音響や照明、大道具も本番さながら、当日観に来られない生徒もいるから、逆に公開ゲネプロの独特の緊張感を楽しむって通な人もいるくらいだ。


「おねぇちゃん! なんだかすごいね。あたし見直しちゃったよ」


 杖をつきながら体育館に入ってきた李里奈が、一番に姉を見つけて嬉しそうに大きな声をあげる。

 ばっちりと化粧をして、中世風のお姫様然とした彩音はキラキラしてすごく可愛い。

 そんな彩音を贔屓(ひいき)目で眺めている俺の横腹をかなり強く叩く圭人。

 逆に王子様そのものといった風情のレイカ。彩音とはどこか対照的でこれもまた似合っていて悔しいぐらいだ。でもなぜだろう。どこか笑えてしまう。


「レイカ。扇子は置いていけよ」


「さすがに時代考証的にまずいね。仕方ない」


 時代考証って問題じゃない気もするが……俺はアイツのどこか場違いな余裕とでも言えばいいのか、そういう感覚を羨ましいとさえ思っていた。


 いよいよ幕が開く直前。

 舞台に全員が集まり、輪になり全員で手を合わせて最後の声を掛け合う。


「今回あたしはいつも以上に友達の力を感じた。走り回ってくれた逸平君。協力してくれた彩音。そしてレイカさん。本当にありがとう。何度感謝しても足りないくらいよ」


 渚さんのよく通る声。俺達全員に心地良い緊張が走る。一気に声を張り上げて気を引き締める。

 俺は大道具係の定位置に向かう。その時、袖で出番を待つレイカが椅子に座り台本らしき冊子を広げたのが見えた。

 演劇部に協力し始めてからは淡々と、相変わらずの異常ぶりが目立った面はあったが、それでも高校生活に溶け込むように日々を過ごしていたアイツ。


「レイカ。台本はもう覚えたんだろ。今更確認か? 」


「あぁ、もちろん覚えているさ……あっちはね」


 なんとなく意味深な言い方に、少しだけ違和感を覚える。


「そうか? なんだか今日は変だなレイカ。なにが変かって言われるとうまく言えないんだけど」


「ふむ……ボクも柄にもなく緊張しているのかもしれないな。これから起こる事に」


 レイカは、さっと台本を閉じる。


「もう本番が始まる。お互いに気合入れていこうぜ」


 俺は右手を差し出し、レイカに激励の意味を込めて握手を求める。アイツは俺の手を取ると無感動に握り返す。

 そのまま大道具の定位置に向かう。そんな俺を燃えるような赤い瞳が見つめる。


 ――その時に俺は気付くべきだったのかもしれない。

 レイカの広げていたこの舞台の台本と思っていたもの。それがいつの間にか、この物語自体のはじまりの本……『黒歴史ノート』だったということに。


 ノートから静寂が広がるように、赤い光が立ち昇り始める。

 その光に導かれるように……黒き鎖のようなものが本から湧き上がるさまは、その場の誰にも気づかれてはいなかったんだ。


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