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黒歴史ノートが生んだラスボスは、加減というものを知らない  作者: 小宮めだか
4章 そのラスボス。作者と対峙する。

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彩音の想い

 その日の帰り道。久しぶりに彩音と二人だけで帰っている。

 傍にレイカがいないのは何か不思議な感じがする。アイツめ、今日一日学校をサボって何をしているんだ。まぁ静かでいいんだけどさ。


「ごめんね逸平君。なんだか時間を使わせてしまってばっかりで」


「いいよ別に。気にすんな。その……友達じゃないか。そんな彩音からの相談だったら俺は嬉しいさ」


 俺のなんとも歯切れの悪い言い方。

「ごめんね」と呟きながらも、なかなか本題の話には入らない彩音。

 二人の間になんともぎこちない雰囲気が漂っている。

 もう今の時期は時間的な事もあってか、だいぶ熱気が収まり涼し気な風が心地よく通学路に吹いてきている。日が短くなってきているから、夕日の美しい赤色のコントラストが、坂道の下から見える高校の校舎に映えるように写り込んでいる。

 そんな水道道路と冠された道をゆっくりと下っていく。

 隣を歩きながら、どう言おうかと悩んでいる彩音の表情を見ていると、何とかしてあげたくなってしまう。俺はうつむき加減で切り出した。


「昨日のLINEだけど、演劇部の件だっけか。実は圭人からもう話だけは聞いていたんだ。だから大体の流れはつかめていると思う」


 立ち止まり、まっすぐに向き直る彩音。

 後ろで団子に結ばれた黒髪が夕日に照らされてとても綺麗だ。

 真っ黒な瞳の中に俺の顔が映り込んでいる。その真剣な表情を直視することができなくてすぐに目を逸らしてしまう。


「そうならそうと早く言ってよ。どう言おうかなって悩んでたあたしがバカみたいじゃない」


 両手を合わせて俺は祈る様に謝る。

 少し頬を膨らませ気味に、ぷいっと横を向く彩音。しかし大人げないと思ったのか、すぐに表情を元に戻して、話を続ける。


「助っ人を頼まれている演劇部なんだけど、バスケ部と体育館の使い方で揉めてるみたいなの。関係ないって言うのもなんか嫌じゃない?」


 そういう考え方は俺も賛成だ。少しでも関わったんならやっぱり無関係なんて言葉は出てこない。熱く語る彩音から、彼女の優しい心が伝わってくるようだ。


「圭人も同じような事を言っていたな。どうすればいいのかと言われても正直俺も分からないな。先生には相談したのか」


 自分が何の答えも彩音に示せないのが情けない。

 俺の頭の中で圭人の申し訳なさそうな顔と彩音の板挟みになり悩んでいる表情が交差する。二人の為に何ができるのだろうか。


「したらしいんだけどね。バスケ部が県大会にでちゃった……なんて言っちゃいけないか。出たからか、先生もそっちに本気にならないといけないみたい。それを聞いて渚が怒っちゃって。この間圭人と渚が校舎裏で揉めていたのを見ちゃったんだよね」


 彩音の大きな溜息。

 恋愛関係で揉めるなんて人生で一度くらい経験したいと思っていたけど、いざそういう事態に間接的にでも遭遇すると、これほど面倒くさいものもないな。

 俺も彩音に合わせるようにして、深いため息を漏らした。


「渚とは友達だから、何とかしてあげたいんだ。でも圭人君が絡んでいるから、あたしでもどうにもならないじゃない……逸平君なら圭人君にうまく言ってくれるかなって思ったんだけど、そっちはそっちで大変そうだし。どうしよう」


 信号機が赤になり、宵闇に浮かび上がるコンビニやハンバーグチェーン店の灯りが俺の目に入る。

 この時間は水道道路を通る車も多く、この先の信号まで渋滞をしている事が多い。

 信号待ちの間、なんとなく俺と彩音は無言になり、気まずい間が流れる。


「なんだか、その……面倒くさい流れになってきているな」


「もう! 面倒くさいって言わないの。逸平君にそんなこと言われたら、あたしはどうすればいいのか更に分からなくなるじゃない」


 俺は頭上を見あげて頭をかく。目の中に入ってきた三日月。もちろんそれを見つめても事態の答えなんて書いてあるわけでは無い。


「こんなこと、たぶん言っちゃいけないのかもしれないけど」


 信号が青になり、横断歩道を渡りきった彩音。コンビニ前をゆっくりと通過しながら俺の顔を見上げるようにして呟く。


「ちょっとだけ。レイカさんに……聞いてみて欲しいんだ」


 レイカに、聞いてみて欲しい?

 一瞬、彩音の発した言葉の意味が掴み切れなくて、俺の目が宙を踊る。

 その場に立ち止まり、前を歩いている彩音の背中を無感動に見据える。

 彩音が振り返る。


「彩音。それって意味が分かって言っているんだよな」


 レイカに願いを叶えて貰えば、その分だけ俺の命が脅かされる。

 それは彩音も知っているはずだ。


「ごめん。そういう意味で言ったんじゃないの。その、力を使って欲しいって訳じゃなくて。レイカさんってほら、あたし達とは根本的な価値観が違うじゃない? それで何かまた別の視点でこの問題を見れたらなって。ダメかな」


 俺の戸惑いが予想よりも強かったので、早口のまくし立てる様な彩音の口調。

 ずり落ちてきているスクールバックを俺はもう一度背負い直す。


「分かった。聞いてみるだけだぞ」


 俺は気乗りしない返事をした。


「ありがとう。でも……逸平君が一緒に考えてくれるなら大丈夫な気がするんだ」


 そう言いながら振り向きざまに静かに笑った。

 俺はその時の彩音の顔を最後まで忘れることができなかった。


 そしてレイカの答えが、常識を根底から揺るがすものだったとは、この時の俺には想像の外にあること。

 奴はやはり魔王で、ラスボスだったんだという事実を突きつけられることとになる。

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