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黒歴史ノートが生んだラスボスは、加減というものを知らない  作者: 小宮めだか
4章 そのラスボス。作者と対峙する。

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圭人と逸平

「悪かったな逸平。なんだか呼びつける格好になっちまったな」


 圭人が申し訳なさそうな顔で頭を下げている。俺は手を顔の前で振り、問題ない事を伝える。

 時間は昼休み。場所は因縁めいた桜岸高校体育館の中。

 中には圭人の他には誰も居ない。圭人のバスケットシューズが鳴る音が響く。


「そう言えばレイカは? 今日は一緒じゃないのか?」


 大門逸平と言えばレイカ。レイカと言えば大門逸平。

 最近はそういった感じで言われてしまうのがちょっと癪に触っていた。


「レイカ? 知らないよ。今日の朝起きたら、『ちょっと観光でもしてくるよ』と言って窓から飛ぶようにして出て行ったぞ。あれは大丈夫なのか。段々と現実世界への浸食が大きくなっている様な気がして怖くなる」


 突然、『バン!』というバスケットボールを床に打ち付ける大きな音。

 それが俺の言葉を遮った。


「どうだ。逸平、ちょっと遊ばないか。1対1だ」


 挑戦するような圭人の茶色の瞳。それが俺を茶化す様にして見ている。圭人だって180センチ近いので、俺とは身長だけならいい勝負。だが、そんな筋肉と身長だけの優位性でバスケ部のエースとどこまでやりあえるかというと、自信は全くない。


「右手は使わないでおいてやるよ。せめてものハンデだ」


「言ったな。取り消すのは無しだ」


 俺は制服の上着を脱ぎ、ネクタイを床に放り投げる。圭人もネクタイを緩めながらシャツのボタンを一つ外す。

 俺はそのまま大声を上げながら圭人に突っ込んでいく。リーチを生かしてボールに手を伸ばそうとする。しかしあっという間の早いドリブルからボールはリングへ。


「他愛もないな。やはりレイカがいないとダメか!」


「ふざけんなよ……まだまだ!」


 ちょっと前ならそんな事言わなかったんじゃないかな。自分の中にある新しい意識にこのところ戸惑ってしょうがない。

 キュッキュ!

 軽快にシューズの音が鳴り、二人だけしかいない体育館に響き渡る。

 圭人の緩急あるドリブルと、周辺視野の確かさ。

 俺の動きが手に取る様に分かるのか、余裕で点差が開いていく。

 五分もしないうちに汗だくになる俺。

 圭人は涼しい顔をしてこちらを見ている。


「逸平。最近のお前はちょっと変わったな」


「なんだよ急に! そういえば彩音にも言われたな!」


 ボールを取ろうと手を伸ばすが、くるりと圭人は俺に背を向けその場で遊ぶようにドリブルを左手で繰り返す。


「いや、明らかに変わった! いつの間にやら身長や筋肉だけじゃなくて一回りデカくなったようなそんな気がする」


 一瞬で俺の横を抜く圭人。くそっ……なんだその速さ。

 バスケもうまい癖に、女子にもモテて成績もいい。更に料理も出来て人気者だと。そんな完璧なお前が俺に向かって変わっただと。


「いつもどこか上から目線でイライラするんだ。圭人!」


「いいぞ! 逸平。そうだ。お前の本音が聞きたかったんだ」


 俺のタックルにボールは圭人の手を離れる。無我夢中で俺はしがみ付く。

 その場から高く高くジャンプ。ボールをリング目がけて放る。

 ダン!

 そんな大きな音を立てて、ボールはリングの中にすっぽりと収まり、床を跳ねていく音が遠ざかっていく。


「おらぁ見たか圭人! 何でもやればできるんだ!」


 眼鏡のブリッジを上に押し上げ位置を直す圭人。

 俺は得意げに親指を立ててサムズアップ。そのままどーんと後ろに倒れるようにして体育館の床に寝転がる。床の冷たさが火照った体に心地いい。

 その場に圭人も座り込む。体育館の開いた窓から流れ込む秋風が頬に当たる。


「お前が羨ましいんだ。逸平」


「何言ってんだ。圭人の方が何でもできて、昔からずるいとずっと思ってた」


 お互いの気持ち。それは近いからこそ今まで言えなかった言葉だ。

 一瞬鼻をすすったような音がした気がして、俺は圭人の方を見られずにいる。


「俺は何でも屋にしかなれないんだ」


 圭人は天井を見上げながら、俺から顔を逸らすようにしてそう呟く。

 俺は体を起こし、圭人に背中を向ける。


「俺は何も持っていない。小説だっていつか書くって言って書けない。情けない男なんだ」


「お前のそういうところだ。そういうところだぞ!」


 圭人と俺はお互いを見つめ合う。

 長い時間のように感じられて短い時間。

 俺達はどちらともなく笑いだしていた。


「なんかもっと言うことがあったんだけどな。もうどうでも良くなっちまった。逸平ありがとうな。そして呼び寄せた本題を話してもいいか」


 やっとか。全く回り道させやがって。俺は大きく頷いた。


「頼みというのは他でもない。今度の文化祭のことだ。LINEにも書いたんだが、体育館の時間的な所有権をめぐってちょっと揉めてな」


 なんで揉めるんだ。確かに体育館は演劇部が発表するから使うだろう。でもそれってあんまりバスケ部と関係ないんじゃないか? 俺は不思議そうな眼差しを圭人に向ける。


「最近バスケ部自体の練習時間が多くなっていてさ。それが演劇部の時間と何度か被ってしまって」


 そういう事か。ようやく理解したぞ。


「部の連中は『県大会に出る俺たちが優先されるのは当然だ』って聞かないんだ。俺もそれは違うと思うんだが、キャプテンとして、その意見を無視することもできなくてな」


 圭人の表情に苦悩の色が濃く刻まれる。


「それは分かったんだが、どうしてそこで俺なんだ?」


 圭人が何度か顎を掻きながら、気まずそうな表情をする。


「演劇部の部長を知っているか? 脇差(わきざし)(なぎさ)ってショートカットの可愛い感じの子だ」


 今の言い方……お前ひょっとして。

 降参と圭人は両手を挙げる。


「やはり逸平は勘がいいな。渚とはちょっと前まで付き合っていたんだけど、別れたばかりでさ。どうにもそれがこの問題を更に難しくしているみたいなんだ」


 をいをい。

 お前の恋の後始末を俺にしろってか。

 そういえば彩音のLINEにも演劇部のことが書いてあったな。

 俺は両手を顔の前で合わせて、頼み込む圭人をジト目で見送ると、体育館を後にした。

4章が始まりました。

ラストに向けて、一気に話が展開します。

レイカの目的と逸平の成長にご期待ください。

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