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黒歴史ノートが生んだラスボスは、加減というものを知らない  作者: 小宮めだか
そのラスボス。現実を変えさせて頂きます。

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28/41

改変

 その日の夜。レイカは相変わらずゲームをやりながら、俺のことなどどこかそっちのけな印象。


「昼間、彩音と何を話していたんだ?」


 俺がスクワットをしながらレイカに問い掛ける。レイカの能力が使われる度に俺の筋肉が減少していくのならば、鍛えないとしょうがない。あれ? でも筋トレって一時的に筋組織を壊して、そこから再生する過程で大きくなるんじゃなかったっけ……まさかこれって意味ないとか。


「ふむ。彩音はボクのことをトモダチと表現していたな。どこかくすぐったいような、しかし悪くはない感情に戸惑ってしまった」


 レイカの動かしているゲーム内のキャラが彼の無感動な瞳に映し出される。隣にはコーンポタージュ味のポテチが置いてあり、それをバリバリと口の中に放り込みながらというスタイル。


「お前を友達と言ったのか、彩音らしいな。でも、確かに俺の中でも、どこかお前のいるこの空間が当たり前になってきているのがとても不思議なんだ」


 次は腕立て伏せ。

 20……30……50……100

 俺の上腕二頭筋が悲鳴を上げ始め、息が荒くなり、そのまま倒れ込むようにして床に体を突っ伏す。その時俺の頬を涼し気な風が撫でた。窓から冷気を含んだ秋風が流れ込んでいる。もう秋の気配が感じられるな。


「そういえば圭人から返してもらったあのノートはどこにやったっけ」


 体を動かす合間にふとそんな事を思い出す。圭人の真剣な表情とその時の言葉が思い出される。


(圭人は俺にしか気づけない事って言ってたな。それが何なのか、ちょっと見てみるか)


 久しぶりに自分の創作ノート――つまりは『黒歴史ノート』を改めて開いてみる。表紙の自分で書いたドラゴンの拙い絵がかなり痛々しい厨二病の象徴だ。


「そうか、この時はまだこの設定が活かされ切れていないんだな。うぉ! まだこのキャラのセリフの一定感の無い事。 モノローグ説明が長いなぁ……この時は一人称視点だからって『俺』を多用していたな。懐かしい」


 ふと後ろに気配を感じて、ビクッとして振り向く。

 そこにはいつのまにかゲームを終わらせていたレイカが真顔で座っていた。

 しかしいつものような、どこかふざけている様子が感じられない。


「逸平、今の箇所。そうだ、そのページだ。違和感を感じないか」


 その開いていたページ。まだ小説の初めの方の展開場面だ。

 勇者が初めの村で魔王の存在を感じるようなシーン。レイカの部下が現れ、勇者がまだ力が出しきれていないうちに倒してしまおうという場面で、レイカがそれを止める。


「この場面……それほど危険性のある箇所じゃないところだよな! おかしいぞ。明らかに勇者パーティの被害がでかい」


 ちょっと待ってくれ。どうなっている!

 俺はノートを捲り、先を一気に読み進む。

 さっきまでかいていた小気味よい汗の感覚はあっという間に通り過ぎ、心臓の鼓動が跳ね上がっている。

 この場面も……こっちもだ! 

 そうだよ。小説の中の文章やエピソードが少しずつ改変されているんだ。


 レイカにとっても予想外のことなのだろう。それは奴の赤い瞳の色が濃く深くなっている事で手に取るように分かる。

 俺の手から黒歴史ノートを引きはがす様にして、自分の手元に持ってくるレイカ。

 その瞬間、ノートから赤い光を帯びた鎖のようなものが一瞬飛び出してきたように見えて目を何度も擦る。

 レイカがノートに向かって片手を突き出すようにして集中する。

 ノートの赤い光が急速に減少していく。


「まさか……パソコンの中はどうなっている」


 俺は自分の作品が保存されているフォルダをクリック連打。

 開かれるフォルダ。

 ノートの続き、二巻部分を開く。


「…………っ」


 そのあからさまな異変に俺とレイカの目が驚きに見開かれる。

 そこには全く見たことが無いような不思議な文字の羅列が並んでいた。アルファベットとかそういうものではない。明らかに文字形態自体が、自分たちの知っているものとは違う印象。


「この文字は!? これは何語だ!」


「……逸平、お前が書いていた小説の中の言語だ」


 そのレイカのどこか冷静な言葉に、そら恐ろしい感覚を覚える。もちろんそんな空想の言語を自分で設定した覚えは全くない。


「そういえば旧校舎での鏡の事件の時、ガラスが割れたり、女の悲鳴が響いたりしていたのよな。あの時は、またレイカの力でちょっとしたバグが起こっているんだな……くらいにしか捉えていなかったけど! これってひょっとするとかなり良くない前兆なんじゃないか?」


 レイカはその疑問には答えない。

 扇子を強く握りしめて、思いつめたような表情の先には何が視えているのか。

 その時、スマホからロッキーのテーマが大音量で流れ、俺は心底ビクつく。


「圭人からだ」


『ちょっと明日の昼にでも時間を作れないか。文化祭の件で演劇部と揉めそうなんだ。逸平の意見も聞きたいから、頼む』


 その短いLINEに返信しようとした時だ。被さるようにして画面に彩音からのLINEが表示される。


『逸平君。実は演劇部に助っ人を頼まれているんだ。その事でちょっと相談したいの……明日でいいから話を聞いてくれる?』


 ドラキュラが頭を下げる様なスタンプと共にそんな言葉が見えた。

 黒歴史ノートの改変とパソコン内部の小説文章の異常。更に何か重大な問題が起きそうな予感。レイカは押し黙り、思考モードに突入。


 おいおい。これってどうなるんだよ。

 俺は頭を抱えて布団の中に倒れ込んだ。

こちらで3章は終了となります。明日から4章、最後の章となります。

最後までお楽しみ頂ければ幸いです。

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