無自覚
「レイカ、俺はそんなことを願っていないし。ちょっと田中先生可哀そうだろ! 」
今は昼休みの時間帯。
作戦会議ということで、俺とレイカ、圭人や彩音とせまっ苦しいオカルト部の部室内で、昼食を食べながら話し合いの時間となっている。
「なんか楽しそうね。田中先生はちょっとアレだったけど、今までの恐い感じが無くなって、レイカさんの力でちょっとほっこりできそう」
「彩音。ほっこりはいいけどな……その代償に逸平の筋肉が使われている事を忘れているんじゃないか」
ちょっと小さめの丸いお弁当が二つ。コミカルなミイラ男のプリントが無ければ問題ないんだが……片方には野菜がたっぷり。もう片方にはご飯の上に盛り付けられた小さなミルフィーユとんかつが食欲をそそる。
「あはは、そうね。そのことすっかり忘れていたわ。なんか逸平君の見た目があんまり変わらないし、倒れる事もないからどうもね……」
俺とレイカは同じ弁当だ。母親がレイカの居る間は腕に寄りを掛けているようで、今日はサバの味噌煮が載ったボリューム感のあるもの。どうやらレイカが魚介類が好きらしいという母親さくらの見立てで、魚感満載のものとなっていた。
ちなみに圭人は弁当を毎朝自分で作っている。昨日の夕食の残りだとか言っていたが、豚肉としらたきが甘辛く炒めてある旨そうな弁当だ。
「いつもお前の弁当はうまそうだな。なんでそうなんでもできるんだ」
「別に……母親にあまり迷惑かけたくないだけだ」
そういうと話題を変えるようにして圭人がレイカに向き直る。
「逸平の思った事がそのまま願いに変換されてしまうのは不便だな。逸平もやりにくいだろう。レイカ、悪戯もほどほどにできないか」
「ふふ、圭人。お前の意見を採用しようではないか。逸平がはっきりと願いを口にした際にボクの能力を発動させる流れにすればいいんだね……そうやってボクに逐一注文を付けてくるのはお前が初めてのような気がするな」
その言葉を聞いて俺はホッと胸を撫でおろす。
自分の思考を読まれて、更にそこで思い描いた言葉を願いとして発動されてしまっては、たぶん命がいくつあっても足りなくなる。
圭人はチラッとオカルト部の時計を確認して、昼休みの終了までを逆算している。俺も弁当を一気に掻きこむ。
「二人ともそんなに急いで食べるとお腹壊すよ。そうだ、逸平君、圭人君。放課後ちょっと付き合って欲しいんだよね。旧校舎で変な噂が広がっているっていう、オカルト部として見過ごせないネタを仕入れちゃってさ」
またか。
本当にこのオカルト系のネタは何とかならないものか。彩音は小さい頃からそんなに超常現状とか、霊的な話とか好きだったっけ……俺は首を傾げながら、幼い彩音との思い出を頭の中に思い浮かべる。
「逸平、彩音悪いな。放課後はバスケ部の練習だ。県大会があるって言ってただろ。そうじゃなくてもこのところレイカ分析でサボり気味だったから、他のメンバーがけっこううるさくてさ。文化祭も近いから周りもピリピリしてるし」
食べ終わった弁当箱をスクールバックに突っ込みながら圭人がバツの悪そうな顔をする。
それとは反対に『変な噂』というキーワードに目を輝かせるレイカ。
「彩音がいつも話題に上らせている『おかると』とは何なのだ逸平」
「そうだな。レイカに分かるように言うならば、現実でも小説の中のように不思議なことが起きるんだ。その現象の追っかけをやっているって訳さ」
レイカは絹のような透明感のある手を、顔の前にかざす様にして笑う。何かを企んでいる様な含みのある響きが混じる。俺の不安感が募る。
「なるほど、それは面白そうだね。ぜひボクも参加させてもらいたい」
俺は箸をポロリと落とす。
彩音は食べようとしていたブロッコリーを危うく噴き出しそうなり、ゴホゴホと咳き込んでいる。圭人が軽く彩音の背中を叩くと治まる。
「レイカさんも来るの? 嫌な予感しかしないんだけど」
彩音の視線が頼りなげに揺れる。
レイカの行くところでは、なにかトラブルが起こる。段々と俺達の中でそういった認識が確立されつつある。
圭人は自分の弁当箱をスクールバックに突っ込みながら、眼鏡の奥から冷静な目で分析を始めているのを俺は気付かない。
(レイカには純粋な悪意はないんだ。ようするに、悪気がないのに魔王スケールで暴れるから面倒なんだよな……世界を滅ぼすような悪しき情熱や間違った使命感に燃えているという事だったなら、ある意味簡単なのかもな)
そんな圭人の思考はこの場の全員には分からない。
俺は彩音と放課後に集まる時間を確認している。
レイカがいつの間にか、『煮干し風青森らーめん』と書かれたカップ麺を啜りながら、俺達3人の様子を綺麗な無垢な瞳で見ている。
俺はアイツを横目で見ながら、だんだんと慣れてきてしまっているこの状況に不思議な感覚を抱く。
(この現実に、いきなり浸食するように割って入ってきたレイカだけど、気づいたらアイツがいる事が当たり前のように思っている自分が居る)
レイカの異常ともいえる力がいつ発動するかもしれない緊張感とは別のもの。うまく言い表すことは難しい。レイカの存在感が圧倒的過ぎて、居ないことが考えられないと表現した方が正しいのか。
そんな俺の視線に全く気付かないのか、レイカはカップ麺を食べ終わると「ごちそうさまでした」と姿勢を正して両手を合わせ、そんな礼儀正しい面を見せた。
「ふむ。誰かに食べ終わったらそうするようにと言われた気がするな。誰だったか……まだハッキリとは思い出せないな」
自分の記憶を辿るように気品のある眉毛を上げ、思考を漂わせるレイカ。しかしそれもまたすぐに飽きてしまったようで、「ま、いいかな」と軽く頷く。
この時の日常的な場面を後から振り返ると、そんな安直な事を考えていた自分が恥ずかしくなる。無自覚な魔王レベルの力というものの存在を、どこか甘く捉えてしまっていた自分が、まだこの時はいたんだ。




