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黒歴史ノートが生んだラスボスは、加減というものを知らない  作者: 小宮めだか
そのラスボス。現実を変えさせて頂きます。
22/22

変化

「かなり大変なことになってるわね……でもいい気味よ! レイカさんのお陰っていうのも変なんだろうけど」


 俺は圭人と目を見合わせる。確かに結果、俺達の問題どころでは無くなった蜷局は、早々に高校を早退していったそうだ。これだけネットで有名になってしまうと明日からしばらく登校も難しいのではないかと。


「これで良かったのか? いや、良かったのかと聞くのも何か変な気がするな。だめだ! どう感情を整理したらいいのかわからない」


 そう言いながら圭人は自分のクラスへ。

 論理的な圭人からすれば、さっきの状態は異常事態な訳だ。彩音も複雑な表情をしながら「逸平君またね」と言って戻っていく。

 レイカだけはニヤニヤと今度は別の袋菓子に手を出し、口の中にこれでもかと詰め込んでいる。口の周りにポテトチップスの欠片がついて、美少年ぶりが台無し。


 俺とレイカが『2年1組』と書かれた札の教室の扉を開ける。それと同時に、ざわざわと不協和音が流れる教室内の雰囲気を感じる。やはりな……という俺のうんざりとした顔。レイカが艶やかに扇子を広げる。


 そこには昨日体育館裏で出会った女子たちが腕を組み、胸を弾ませるようにして仁王立ちしていた。


「嗔木静香だったな? 昨日は世話になった。元気そうでなりよりだ」


 にこやかに、さも何事も無かったのかのような声掛け。

 レイカも性格が悪いな。それは今に始まったことじゃないか。


 昨日のどこか上から目線の女王のような眼差しはどこへやら。レイカが笑顔を振りまき近づこうとするだけで、一瞬怯えるような視線になる。


「嗔木さん。君のクラスはここじゃないだろう。もうそろそろ授業も始まる。出ていってくれないか」


 そんな自分の言った言葉に自分でびっくりする。

 いや、俺はこんなキャラではなかったはずだ。

 それは教室内の他の生徒も同じことを思ったんだろう。ざわめきが一層大きくなる。


「はぁ!? ふざけんな! レイカ! 大門! あんたら何をやったの?」


 声が不自然に震えている。静香の側に控えている女子二人は、既に瞳に涙を滲ませている。昨日の今日だ。あの出来事は流石に強烈だっただろう。


 それでもレイカの前に出てきただけでも強い心臓だなと感心する。


「蜷局も使えないしさ……こっち、どんだけ協力してきたと思ってんの?」


 俺は無視を決め込むことにして教室の自分の席に座る。

 その隣にレイカが座り、扇子を口に当てて窓から見える校庭をのんびりと眺めている。


 静香達は俺達の反応が気に食わないのか、席を3人で取り囲み恨み節を連呼する。


「まったく。どうせならもっと俺をアイドルのように慕う女子に囲まれたかったよ」


 嫌気が差す様に言ったその言葉。

 言った瞬間になにか強い力を横に感じる!


「……しまった。いや、待てレイカ! これは俺の願いじゃない!」


 窓から強い突風が吹き抜けた様な気がした。俺は一瞬目を瞑る。

 風が収まったような気がして眼をゆっくりと開ける。教室内には季節外れの桜の花びらが飛び散り、教室内がその幻想的な雰囲気に息を呑む。


 その時、俺の腕に柔らかい感触が感じられ、死ぬほど驚く。


「この筋肉、ずっと前からすごいと思っていたんだ。大門さん……」


「し、静香様……どうされたんですか!? えっ……」


 俺の腕の上腕二頭筋に頬を埋めるようにして囁いたのは嗔木静香。そのうっとりとしている視線と腕にかかる熱い吐息。


 そのまま腕にしがみ付くように抱きついてくるので、嫌でも大きな胸の感触が伝わってくる。やばい、俺の男としての感情が……


「レイカ! またお前なんかやったんだな!」


 腹を抱えるようにして教室中に響き渡るレイカの笑い声。

 突然の静香の変容に戸惑いを隠せない側近の女子たち。そらそうだ。あれだけイキり散らかしてた自分たちの中心女子が、いきなり俺に、いや俺の筋肉に惚れ込むように頬ずりし始めたんだぞ。


 そのまま静香は俺の隣にぺたりと寄り添うと、服の上から鍛え上げられた胸筋を撫で上げる。その仕草に全身の毛が逆立つような拒否感を覚える。好きでもない女子に触られるのがこんなに嫌なものだったとは。


 いつも体育館で、色々な女子に囲まれて少し戸惑った表情をしている圭人が思い浮かぶ。そうか、ちょっとアイツの気持が分かった気がするぞ。


「やめてくれ。俺には好きな子がいるんだ……レイカ、いい加減にしろ」


 パン! という小気味いい音を立てて扇子を閉じるレイカ。その顔からは笑顔が消え、どこか俺を確かめるような眼差しを向けてくる。


「ふふふ。悪かったよ逸平。ちょっと悪ふざけが過ぎた」


 そう言うとレイカの瞳の赤みが深い色を帯び始める。校庭からどこか涼し気な秋の気配ただよう軽やかな風が教室内を吹き抜ける。


 その風に煽られ、先ほど散らばった桜の花びらが宙を舞い……一気に消失する!

 教室中がその様子に息を呑む。


「な……なんであたし、あんたに抱きついて! え、ちょっとどういう事よ!」


 静香の我に返ったような声。彼女は腕を振り上げると、俺の頬を思いっきり叩いた。『パシーン!』という乾いた音が教室内にこだまする。


「気が済んだろ。もう授業が始まる。もう一度言う……出ていってくれないか。そして二度と俺達に近づかないでくれ」


 ビクッと体を震わせる静香達。レイカは手の中に残っていた桜の花びらを扇子で仰ぐと静香達に向けてゆっくりと送り出す。


「もう……なんなの! 一体あんたたちはなんなの!」


 そんな捨て台詞しか吐けないのか、逃げるように教室から出ていく静香達。


 彼女たちが去ったあと、何人かの生徒がゆっくりを手を叩く音がした……それは段々と大きくなり、すぐに教室全体が大きな拍手の音に包まれたのだった。




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