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黒歴史ノートが生んだラスボスは、加減というものを知らない  作者: 小宮めだか
そのラスボス。現実を変えさせて頂きます。
21/22

因果応報

3章が始まりました。物語は折り返し視点となります。


 異質な空気をはらむ部屋に、俺と圭人、彩音。そしてレイカが座っている。

 それは新校舎の3階の一角に位置する部屋。扉の横には『生徒会室』と小さな札が下がっている。


「大変な事態になっていますよ。事の重大性を分かっているんですか」


 俺達の目の前に座っている長身の男子生徒。整った顔立ちに人の良さそうな笑みを滲ませながら、さながら好感度抜群のアイドル然とした態度。しかしその華やかな瞳の奥に潜む奥深い影に、その場に居る皆はとっくに気づいていた。


(何を今更……蜷局淘汰)


「なにか言いましたか? 立花圭人君」


「いやいや、何も。生徒会長のお前、失礼。蜷局君は結局どうしたいんだ」


 圭人の皮肉たっぷりな視線を物ともせずに、一見すれ違う誰もが振り返るような吸い込まれるような瞳を俺達に向ける蜷局。俺はその視線に晒されると、あの日の出来事が脳裏を過る。


 レイカは全く意に介さない様子で、持って来ていたのり塩チップスを美味しそうに齧っている。それを見ながら鼻に深いしわを寄せるようにして、不快な表情を見せる蜷局。


「嗔木静香さんから告発によると、リトアニアからの転入生レイカ君によって性的暴行を受けそうになったと。しかし見かねて助けに入った男子生徒5名は、不思議な幻覚を見て全員病院送り。その時、事の次第を録画していたようなのですが、なぜか該当の箇所はきれいにさっぱり切り取られてしまって、口頭証拠のみという困った事態なんですよ」


 蜷局の演技めいた大きな溜息。


「ではその場での決定的な証拠は無いって事ね」


 彩音が安心したように胸に手を置く。俺もほっとした一瞬表情が緩む。

 しかしそれを蜷局は許さなかった。


「確かに明確な暴力といった証拠は何もありません。しかし静香さんたちの証言がありますからね。無罪放免という訳にもいきませんよ!」


「ちょっと待って。そうよ……あたしが撮った動画があるわ! 男子生徒5人があたし達に向かって襲い掛かってきていた時のものよ」


 彩音がスマホを蜷局に向け、その場で動画を再生する。確かに襲い掛かられてから、取り上げられるまでの一連の流れは撮れている。だが、たぶんこれだけでは……


「ふむ。確かに……男子生徒の過剰防衛に対して大門君たちが反応した、獅子奮迅の動画ですね。特に立花君達が暴力的な訴えをしていない証拠にはなります。しかし肝心のレイカさんの性的暴力の有無については、この動画から何も分かりませんね」


 ついこの間までの俺だったら、蜷局の理論的な言葉に怖れをなして何も言えなくなっていたんだと思う。

 中学時代もこうだった。何もできずに震えていた。

 でも、もう違うんだ。


(もう遅いのは分かっている。でもあの時のアイツに、少しでも届くならって)


 大きく息を吸い込む。

 俺は変わるんだ。

 あの時の無力な自分をここで乗り越えるんだ!

 もう今までの情けない俺ではいたくない。

 昨日圭人が必至でレイカに対して勇気を示した。レイカもそれを受け止めた。

 自分が主体的に動く事でなにか……世界が変わるのかもしれないと教えてくれた。


「お前は変わらないな、蜷局淘汰」


 俺がそう切り出すことは予想外だったんだろう。蜷局の意外そうな表情。

 こいつはいつもそうだ。自分が安全な位置から相手を煙に巻くような言動で振り回し、事を優位に運ぶ。俺の中に沸々と湧き上がる怒り。今までそんな気持ちをいつも必死に押さえ込んでいた。


「俺がレイカに代わって告発する。俺はレイカを信じている。アイツはやっていない。逆に静香達に嵌められたんじゃないのか。どっちにしろ証拠はお互いの証言しかないんだろ」


 信じているもなにもレイカはやってないんだが、そこは言葉も方便。

 蜷局の目がどす黒い、なにかこちらが吐きたくなるような色に染まっていく。それは猫に嚙みついた鼠に対する怒りなのか。


「ほう……大門君からそういった挑戦的な言葉が紡ぎ出されるとは思っていませんでした。これはわたしの中に認識を変えないといけないのかもしれませんね」


 ぱちぱちぱち。

 振り向くとレイカが扇子を持ち直し、嬉しそうに手を打ち合わせている。


「ふふふ。逸平よくぞ言った。ボクがこの小悪党になにか言わねばならぬかなと思っていたが、予想外だった。その心意気しっかりと受け取ったぞ」


「小悪党とは……! 日本語を言い間違えているだけと思っておきますぞ。あまり目立った振る舞いをなさるとわたしも黙っていません……よ」


 その蜷局の言葉が言い終わるか終わらないか。

 レイカはおもむろに立ち上がると、その端正な顔に華麗な笑みを浮かべ、扇子を翻す。扇子が一瞬で鮮やかな色を放つ包丁へと変化する。


「……なっ!」


 レイカの口から発せられる面妖な言葉の羅列。瞳が怪しく輝き、その場に居る全ての者たちの意識を惹きつけるかのようだ。


因果応報(パセーヤ・ピュティス)


 いつもと一緒だ。一瞬歪んだような空間と包丁で切り裂くような動き。その後に背中から突風が吹いてくるような感覚が突き抜ける。

 生徒会室の扉が勢いよく開き、大慌ての遠藤先生が駆け込んでくる。


「蜷局君! 君のお父様が! 今、議会から追及されているぞ!」


 なに! どういうことだ!

 俺達はスマホを取り出し、ネットニュースのページを開く。ほぼ速報という形で、衆議院議員の汚職の件が何件もヒットする!

 蜷局の顔が赤から黄色、そして真っ青になるさまを俺は初めて見た。やつもスマホの画面に齧りつくように凝視したまま動かない。ワナワナと肩を震わし、せっかくのアイドル然とした顔が歪み台無しになってしまっている。


「お父様から先ほど学校に連絡があった! しばらく家に居てくれとのことだ!」


 遠藤先生の切羽詰まった声に歯ぎしりする蜷局。


「こんな……こんなタイミングで!? レイカ、貴様一体何をしたんだ!! いや、今はそれどころではない!!」


 先生に囲まれるようにして生徒会室から出ていったしまった蜷局淘汰。その場には大笑いしているレイカと、キョトンした俺達3人が取り残されたのであった。



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