表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒歴史ノートが生んだラスボスは、加減というものを知らない  作者: 小宮めだか
2章 そのラスボス。いきなり絡まれる。
17/22

検証

「レイカさんは日本食が気に入ったのね.おばちゃん嬉しいわ」


 場所は俺の自宅。1階で俺とレイカ、そして母のさくらがはにかんだ表情で奴を見つめている。母親のまるで推しアイドルを愛でてでもいるような視線がこんなに嫌なものだとは。俺は出された料理の味が全く分からなくなり、ただ機械的に胃の中にソレを放り込んでいる。


「さくらさん。この天ぷらはとても美味しいですね! 特にこの海老の風味がたまらない……あ、マヨネーズをもっと貰っても良いですか?」


「どうぞどうぞ。外国の方だからやっぱり味は濃い目が良いのかしらね。わたしなんかは天ぷらというと塩が一番いいんだけど。まだあるからもっと揚げるわね」


 夕食は豪華な海鮮天丼だった訳で。

 ぷりっとした海老と、食べ応えのあるイカ。俺の大好きなホタテ。それにスナップエンドウ、れんこん、さつまいもがついたもの。それにマヨネーズを山盛りにして掻き込むようにして食べているレイカ。あの細い体でどんだけ胃の中に入るんだよ。底なしかい。

 その時俺のスマホからロッキーのテーマ音が流れる。画面に示されたのは圭人の名前。思ったより早いな。もうすぐ着くらしい。


「すぐ圭人も来るからさ。3人で二階にしばらくいるからお茶とかいらないからな」


 ぶっきらぼうに告げる。なんだか顔を赤らめる母親は見ていられないな。俺は早々に食べ終わるとレイカの首元を掴み、二階に促す。奴は名残惜しそうにマヨネーズまみれの海老を眺めていたが、「ごちそうさまでした」というと俺の後に続いた。

 その後すぐに圭人がうちに現れる。「さすがに眠い」と言いながらも、そんな様子は微塵も感じさせない。

 靴を揃えてうちの母親ににこやかに挨拶。コンビニで買ってきた最新スイーツを渡す。「こういうの好きでしょ? 」と言っている声が聞こえて、そういう事が卒なく出来るからモテるんだろうな。


「さて。圭人はボクの力をどう解析してくれるのかな」


 消えていてくれないかなという淡い期待を持って扉を開けたが、やはりまだありました豪華なふりっふりのかわいい系天蓋ベッド。それを見るだけで心がぶち折れる。ベッドに優雅に腰掛けたレイカがせめてかわいい女子系キャラだったら少しは救われたかもしれないと、どうでもいい事で思考を逃避させる。

 その時また着信音。今度は彩音からだ。

『やっぱりいけない』という短い言葉と、ごめんねというホラー調のスタンプ。こんなのどこから仕入れるんだ……その後に短い動画。彩音と妹の李里奈が仲良く手を振っている。


「彩音なんだって?」


「来れないってさ。まぁ、流石にな……」


 圭人が背負っていたスクールバックから、体重計を取り出す。お前、それ自分のうちからわざわざ持ってきたのか! よく売ってる体脂肪も測れるやつだ。更にメジャーを取り出すと俺の腕や太ももの筋肉の幅を図り始めている。メジャーが触れる度にくすぐったくて笑いをこらえるのに必死になる。


「じっとしてろ逸平。上手く図れないだろ」


 友人が筋肉の大きさをメジャーで隅から隅まで図っている光景はなんともシュールだ。ベッドに座っていたレイカはそんな様子に飽きてきたのか、机の上のゲーミングパソコンに手を伸ばす。『エリュハルト・オンラインXIV』と示されたアプリを起動。おい待て。ログインってお前、どうやって今セキュリティパスを突破した……! 俺のキャラが画面に現れ、にこやかに手を振っている。勝手に始めるなレイカ!


「ちょっと立ってくれ逸平。なによそ見してんだ。普通に立て、普通に!」


 圭人はレイカそっちのけで今度は俺の写真を何枚も撮っている。俺はレイカの動きが気になってしょうがない。チャットをするな! 勝手にチームメンバーに挨拶するな! 


「よし、これくらいでいいだろう。逸平、ものすごくどうでもいい願いでいいから言ってみろ。レイカ、聞いてるのか!」


 レイカはゲーム画面に魅入りながらも、「もちろんだとも、さぁ言い給え」と楽しそうに目を輝かせている。それはゲームに興味を持ちだしたのか、こっちのやろうとしていることに反応しているのかよく分からない。圭人はそんな事はどうでもいいようで、検証すること自体を楽しむかのようにほくそ笑む。いや、なんか俺の立場は? 実験動物のような扱いに露骨に嫌な表情になる。


「そういきなり言われてもさ。急に願いなんて思いつかないぞ」


「じゃあ、こういうのはどうだ。レイカ、隣の彩音の部屋からなんでもいいのでこっちの部屋に送りこんでみてくれ」


 言われたレイカはキーボードに指を載せ、器用にWASDキーを使いこなしている。


「あれ? いつの間にパーティー募集場面に!」


 よろしくお願いしますと言う文字がチャット欄に並ぶ……待て待て待て! お前の飛び込んだ場所は最新レイドの最終層だぞ! 俺はそこでもう一週間くらい足止めをくらっているんだ。お前タンクなんてやったことないだろ!


「そうだな。今ちょうど彩音が作っているものをこちらに取り寄せてみようか……」


 低い呪文の詠唱。何語か全くわからない。

 目線はゲーム画面にそのまま。手はキーボードの上を緩やかに流れる。


物質移動(ペルナシャ)


 その瞬間、俺達の目の前に現れたもの。それと同時に隣のカーテンの向こう側から大きな悲鳴が聞こえた。

 出現したそれ。30センチくらいの大きさの見事な出来栄えの藁人形。その顔のところにはいつの間に撮ったのやらレイカの写真がアップで張られている。

 藁人形に無数に差してあるマチ針。色とりどりで綺麗だ……とか言ってる場合じゃない。その時俺のスマホに着信音。


『レイカがなにかしたの?』


 とだけ見えて、俺と圭人が一瞬絶句する。

 やばい。既読にする勇気がない。

 レイカが大笑いをしながら、ゲームの手を止めない。パソコンから「レディー……GO!」という機械音が鳴り響いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ