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黒歴史ノートが生んだラスボスは、加減というものを知らない  作者: 小宮めだか
2章 そのラスボス。いきなり絡まれる。
16/21

代償

逸平視点に話は戻る。

 俺は静かに目を開ける。

 はじめ目に飛び込んできたのは彩音の心配そうな顔。そしてすぐに涙を流しているのが分かった。

 ここは……? 見慣れたよく分からない彩音の趣味の数々。描かれた魔法陣。そうか、俺はあのまま気を失ってオカルト部の部室に運ばれたのか。


「あぁ……膝枕あったかいな」


 俺がぼそっと言った言葉に、瞬時に反応する彩音。俺の頭を叩き自分の顔を真っ赤にする。


「それが心配している女子に言う言葉? 今度ずっと起きてる間、耳の中が痒くてたまらなくなるっておまじないをしてあげようかな? 」


「え、いや、それはちょっと……勘弁してください」


 彩音がそのまま俺の頬をつまみ上げ、強引に起こす。

 ……痛い、ものすごく痛い。

 頬が真っ赤になり、その場に正座するとぷいっと横を向かれてしまう。

 なんとか場を取り繕わねば。


「昨日の夜は、ごめん。あれはその、いきなりだったと言うか、どうにもならなかったと言うか……」


「なんで今それを言うのよ、逸平君! 」


 彩音が右手を振りかぶり、ペシーンという大きな音が部室内に響き渡った。


「お前ら、なにやってんだよ。緊張感まるで無しかよ」


 呆れかえる様に右手で額を押さえて頭を左右に振る圭人。レイカはどこかから出現させたのか、この場に全くそぐわない年代物の木製のソファーに深く腰掛け、圭人の方を振り返ると、扇子でパタパタと自分を扇ぐ。


「うむ。昨日も思ったのだがこの部屋はすこぶる空気が悪いな。あの『えあこん』なるものがあまり良い働きをしていないように思えるのだが」


 レイカが力を込めるような仕草。しかしそれを圭人が制止する。


「レイカ。ちょっと待ってくれ。もしかしてそうやって力を使うたびに、逸平の中で何かが失われていくのなら……むやみやたらに使うのはやめて欲しいな」


「ふふふ。圭人は逸平が心配なんだね。確かにボクは力を使うたびに逸平から『何か大事なもの』受け取っている様な気がしているよ。それは何なんだろう……ボクは消費するだけだから、メカニズムの解明は圭人に任せようかな。疲れるのは嫌いだしね」


 力を込めるのを止め、扇子を下ろすと椅子に座り直して、足を組むレイカ。圭人は俺に振り返ると真剣な表情で訪ねてくる。


「逸平。さっきと今とで何か体に変化が無いか? どんな些細な違和感でもいいんだ。彩音も一緒に考えてくれ。逸平にどんな変化が起こったか」


 俺は自分の身体を隅から隅まで観察する。


「そんな事言われたってねぇ……逸平君は逸平君よね。実は髪が抜け始めているとか! 」


 話が脱線していくような気がする。確かに親父は段々と髪が薄くなってきていて困り果てているらしいが……心労とか凄そうだしな。


「逸平の大事なものって言っていたよな」


 圭人も唸る。

 そうだよ。大事なものと言えば俺のノートを圭人に渡したままじゃないか。

 あれが無くても小説の続きは書けるけど……言いながらもこのところ先を書けていないのが現状だけどな。


「逸平君と言えばやっぱり筋肉よね。」


 腕の筋肉を盛り上げ、腕を組みビルダーポーズ。むんと力を入れる。

 上腕二頭筋が美しい。


「あれ? 抓った時にも思ったんだけど、なんだか顔が少しすっきりした? 」


 顔がすっきりした? 俺は両手で自分の顔を何度も触る。ちょっとりりしい眉毛、あまり高くない鼻。頬も引き締まっているがちょっと自分では分からない。


「なるほど、そういうことか。わからないかい? 逸平から何が失われたか……そうだな。少し体が絞られた様なそんな気がしないか」


 俺達が悩んで答えが出せないことを逆に楽しむようなレイカの言葉。


「実は筋肉がだんだん減ってきているとか! そんなギャグ漫画みたいな制約って無いか。筋肉が命なんてまさかね」


 その彩音の言葉を聞いた圭人がパチンと指を鳴らす。表情は真剣そのもの。


「それだ彩音! 」


 その大きな声にパタパタと自分を扇いでいたレイカの手が止まる。俺と彩音の目線が圭人を見つめる。


「え? そんなまさか……ホントに!? 」


「見た感じそんなに変わっていないように思えるんだけど……あ、そんなにマジマジと見たことがある訳じゃないし! 」


 顔を赤くして頭の中に浮かんだ何かを打ち消すように、彩音は両手を体の目の前で何度も交差する。


「検討の余地は充分にあると思うぜ。よし、バスケ部が終わったら逸平の部屋に直行するから検証だな! 彩音は来られたら来るくらいの気持ちでいいと思う」


「分かった……でも昨日の今日だとお母さん許してくれないかも」


 済まなそうに頭を下げる彩音。レイカは楽しそうに俺達3人の会話を聞いている。その視線は何を考えているのか全く分からない。


「帰るのかい逸平。家に帰ったらマヨネーズで丼を作ってくれないか。出来れば昨日この部屋で食べたポテトチップスとかいう食べ物をまぶしてくれると嬉しいな」


 まさかのレイカが、ポテトチップス風味のマヨネーズ丼を欲しがるとは! カップラーメンを美味しいと言ったり、レイカの食の好みはジャンクフード系かよ。


「今日の体育館での出来事が今後どう影響してくるかは分からないが、とりあえずは目の前のことから解決していこうか。じゃあ、後で! 」


 圭人がスクールバックを担ぐと、急ぎ足で部室から出ていく。

 圭人はバスケ部へ。俺と彩音、そしてレイカはそのまま帰路に着いたのだった。


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