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黒歴史ノートが生んだラスボスは、加減というものを知らない  作者: 小宮めだか
2章 そのラスボス。いきなり絡まれる。
13/21

甘言

逸平たちはレイカたちを追い、体育館裏に走っていく。

そこに待ち受けていたものは……?

 俺達はレイカの後を追い、校舎の中を駆けていく。


 しかしおかしい。本当に高校内を案内するなら、すぐにでも追いつけるはずだ。俺と彩音は周囲を見渡し、視界から完全に消えてしまったレイカたちの姿を探す。圭人が近くですれ違った知り合いを捕まえると、レイカの行方を問いただしている。


「体育館の裏の方に向かったって言っていたぞ」


 圭人がずれた眼鏡の位置を直すようブリッジをずり上げる。


「すっごくベタな場所ね!」


「確かにあそこなら人目に付かないからな。裏手は森になってるから声も響きにくいし」


「そんなところで何をするって言うんだ」


 俺の心の中にどんどんと湧き上がる不安の影。レイカだから全く問題ないとは思っているんだが、それ以上に過去の記憶が呼び覚まされ、まるで今、目の前で起きようとしているかのような錯覚となって意識の水面下から蘇ってくる。


 俺の足は自然と早くなる。太もも前面の大腿四頭筋が大きく躍動するような感覚だ。後から大急ぎでついてくる圭人と彩音。


(……逸平君は見ているだけで助けてはくれなかったじゃないか)


 耳の中に残る過去の声。

 違う。そんなつもりは無かったんだ。


 ……いや、違わない。

 俺は怖かったんだ。


 俺達は校舎の一番端にある、旧校舎と隣にある大きな建物。古びた体育館の裏手に駆けこんでいく。


 その時、目の前に広がった光景。

 五人の桜岸西高校の制服に身を包んだ男子生徒。それがニヤニヤと笑いながらレイカを取り囲んでいる。


 男たちの後ろには先ほどレイカと一緒に出ていったはずの嗔木静香たち三人の女子。腕を組みながら口元を歪ませて、高飛車な態度を(あら)わにしている。そのうちの一人がスマホを取り出して、楽しそうに構えている。俺たちの位置からも画面に映し出されているレイカのアップの映像が見える。


「これは日本流の歓迎スタイルなのかな。それにしてはボクに対する敵意がむき出しな気がするけどね」


 あくまでも特に変わったことが起きていないとでもいうかのように、扇子を広げ口元を隠すレイカ。その瞳には恐怖の色は微塵(みじん)も感じられず、獲物の出方を待つ大型の肉食獣のような印象。


「いきなり体育館の裏手に連れ込まれて、体を触って来たのよ」


「転入生だからって、そういう事していいと思ってんじゃねぇよ」


 静香に追従するような目線で、レイカのありもしない行いを騒ぎ立てている女たち。


「そこまで追求するからには、しっかりとした証拠があるんだろうな」


 横に居た圭人が静香たちに指を突きつけ、静かな怒りを表に出す。彩音も圭人に続くように反論する。


「おかしいじゃない。さっき校舎内を案内するって言って出ていったんじゃないの? それがこんなところに居るってどういう事よ。完全に嵌める気満々じゃない」


「……ちっ。彩音はめんどくさい女だね。あたしの邪魔しないでくれる?」


 彩音に正論を突きつけられて、捨て台詞を吐く静香。瞳を振るわせながら不快感をあらわにする。取り囲んでいた男たちが一斉に媚びるように笑う。


「静香さんは間違っていないぜ。なんせ俺たちが全部見ていたからな」


「そうよ。このレイカとかいう奴が、静香さんの体を触ったのを見たぜ」


 なるほどな。つまりは転入初日にして目立ち過ぎたレイカに対して、見せしめな意味で近づいてきたとそういう訳か。だから言わんこっちゃない。


「あんた達には関係ないでしょ。向こうに行っててくれる? それともこのレイカって奴を助けるのかしら? いいけど、そこのバスケ部のキャプテンが、大事な県大会を控えているのは知ってるんだからね」


 静香の勝ち誇ったような顔に同調するように笑う二人の女子。スマホのカメラがこちらに向けられている。俺達は苦々しい表情を浮かべながらその場に立ち尽くすしかない。


「ふふん。前からそこの立花圭人は目立っていて気にくわなかったんだよ。この際だから潰しとくか。その方が蜷局の奴も喜ぶでしょ」


 どす黒い炎のような感情が静香の瞳の中で急激に高まる。彩音がスクールバックからスマホを取り出し、静香たちにカメラを向ける。


「そっちがその気ならこっちだって!」


「そう、頑張ってね。後でスマホを失くさないようにね。特に水の中に落としたら動画もなにも見れないでしょうから」


 そう静香が言ったか言わないか。五人の男たちに囲まれる俺達。圭人は制服のネクタイを緩めて、眼鏡を外し、バックの中に投げ込む。俺はオドオドしながらも彩音の前に出る。心臓が早鐘を打つようにバクバクと大きな音を立てている。


「レイカ! 逃げるんだ!」


 圭人がそう叫んだのが合図だ。殴りかかってくる一人目の男を華麗なステップでかわすと、俺と彩音に背を向け、腰を低く構えてもう一人と目線を合わせる。俺はつかみかかろうとしたもう一人の男を、両手を挙げて威嚇しながら、彩音にだけは近づかせないように位置取る。

 レイカはその様子をキラキラとした眼差しで、全く逃げる様子が無い。


「レイカ! 聞こえているよな!」


 俺も必死で叫ぶ。今、アイツが逃げてくれれば俺達もこれ以上ここに居る必要がない。下手に手を出してしまえば相手の思うツボだ。


「なにをやっているんだい! そこの筋肉バカはただの見せかけだけだよ! 二人掛かりで早く羽交い絞めにしちゃいな!」


 事がうまく運ばない状況に苛立ちを隠せない様子の嗔木静香。くそっ、運動神経の無さがバレバレだ! 俺は二人に囲まれ案の定、羽交い絞めにされてしまう。彩音も腕を捕まれスマホは男たちに奪われる。圭人はそれを見ると歯向かうのを止め、両手を挙げて動きを止める。


「全く、手間を掛けさせやがって。二度と抵抗する気が起きないように、しっかり教えてやるんだよ」


 高圧的な笑いを響かせる静香。それに追従するように笑う他の二名女子。

 くそ、絶体絶命か……諦めが頭をよぎる。

 その時レイカの口がゆっくりと開く。

 アイツの目が歓喜に見開き、赤い瞳は更に色を濃くしている。


「ボクならキミを助けてあげるよ。逸平……キミがそう願うのならね」


愉しむように逸平に語り掛けてくる魔王レイカ。

それは過去の出来事と重なり、逸平の心を締め付けていた。


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