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黒歴史ノートが生んだラスボスは、加減というものを知らない  作者: 小宮めだか
2章 そのラスボス。いきなり絡まれる。
12/22

過去

逸平は中学校時代のことを思い出していた。

それはかなり苦い思い出。


「どうしたんだ逸平。さっきからずっと考えこんでいるみたいだけど」


 放課後になる頃、欠伸をしながら俺のクラスに顔を出してきた圭人。その後ろには彩音の姿も見えた。


「ああ、ちょっとな。昼飯の時に蜷局に絡まれて、レイカのことで釘を刺されたんだ。」


 俺がそう打ち明けると、圭人の表情が険しくなる。


「逸平。蜷局は中学校時代にお前を……」


「圭人、それ以上は言わないでくれ」


 生徒会長の蜷局淘汰。正直いい噂を聞かない。衆議院議員の父親の七光りで大きな顔をしていることで有名だ。

 中学時代から何かと揉め事の影には奴がいて、目を付けられた生徒が退学になったり、別の学校に転校して行ったりという話は後を絶たなかった。

 そんな俺も、蜷局とはちょっとした因縁があった。


 圭人は俺を気遣うように肩を叩くと、話を変えてきた。


「それで。そのレイカの転入生初日はどうだったんだ」


「どうもこうもないさ。まさにレイカ旋風とでもいう感じだよ。頼むから力を抑えてくれと言ったんだけどな」


「そうしたらなんて?」


「なんでだ? 自分の持っている能力をフル活用するのは生きているモノの本能だろう。どうして本能から逆らおうとするのだ。分からん奴だな、だとよ」


 俺は大袈裟に肩を竦めて見せた。彩音がその言葉に続ける。


「5組にも、すごい転入生が居るって話は伝わってきていたよ。このままだと話に尾ひれが付いちゃって伝説レベルになるのは時間の問題だね」


「元はと言えば彩音の変な召喚から始まったんじゃないか。なんとかアイツを強引にでも元に戻ってもらう方法とかないのか」


 そう突っ込まれて、彩音は口を尖らす。

 やばい、そんな表情も可愛いじゃないか。俺は一瞬昨日の夜の突発事件を思い出して彩音から目を逸らす。


「あたしのせいなのかもしれないけど、逸平君の黒歴史ノートが一番の原因だと思うよ! 分からないけどアイツ、この世界でやりたいことがあるんじゃない? だけど記憶喪失になっちゃったから、それすらも愉しもうって事なんじゃないの? ホント迷惑よねぇ」


 パチン、と圭人が軽快に指を鳴らした。

 お、どうした? なにか思いついたのか?


「ナイスだ。彩音。やっぱりオカルトに関してはお前に任せるのが一番なんだな!」


「なに、何なの? 圭人君、わっかんないんだけど」


 黒い髪の毛が揺れて、彩音の形のよい二重の瞳が怪訝そうに中央に寄る。


 「だからさ、今言っただろ。『この世界でやりたいことがあるんじゃないか』って。成仏とはまたちょっと違うんだろうけど、奴が現れたのは呼び出されたからではなくて、なにか目的があってこの世界への召喚に応じたと考えた方が辻褄として合わないか」


「そうか。だから帰れって言っても帰らなかったりしたのか。なるほどな」


 俺も圭人の意見に賛成だ。問題はその『やりたい事』ってやつだ。


「どうしたのかな。ボクに関しての噂が聞こえた様な気がしたんだけど」


 いきなり後ろからのレイカの声にびっくりして振り向く俺達。そんな奴の周囲には何人かの女子が囲むようにして立っている。うちのクラスの女子ではないな。見た目はキレイ目な3人なんだが、目の使い方や手の仕草にどこか嫌悪感を抱かせるものを感じる。


嗔木静香(いかるぎしずか)。レイカさんに何の用? 4組のあなたがこんなところまで珍しいわね」


 彩音の不快感丸出しの言葉。それを鼻で笑うようにして顔を傾け、顎を上げる静香。


「あら吉祥寺じゃない。ホントあんたって面白いわね」


「静香様。そんな変な女相手にしてはいけませんわ。一人しか部員の居ないオカルト部の変わり者ですよ」


 その女子たちの彩音を見る、どこか蔑んだような眼差しが俺の心をささくれ立てる。圭人も露骨に嫌な顔をして横を向く。


「この者達がどうやら桜岸西高校の中を案内してくれるというのでね。ボクはほら、リトアニアから来たばっかりだから、こういう親切な者達は貴重でね」


 そう言って彼女たち3人と教室から出ていくレイカ。


「まったく転入初日からもう女子とお出掛けかよ……」


 特に羨ましいとは思わないが、そんな展開には人生で一回もなったことが無いので、素直にすごいなというのが感想だ。

 そんな事を考えながらレイカを見送っていると、彩音がぽつりと呟いた。


「あの静香って子、あんまりいい噂聞かないんだよね。ほら、さっき言っていた蜷局君。あの人とつながりがあるって噂があってね」


 俺は眉を寄せて圭人に目配せする。

 その意味を察する圭人。


「レイカが心配か? 逸平。関わるのはいいけど、お前大丈夫なのか? 」


 圭人がそう聞いてくる。俺は自分が中学校時代に蜷局に関わった『ある事』を思い出し、軽く身震いする。

 その事件が結局は、俺が自分の体を鍛えるきっかけとなった。

 思い出したくもない。だけど忘れたくもないあの事。

 近くの窓に寄りかかり、晴れ渡る空を見上げた。


「レイカなら心配ないだろう。でもなんだろう、胸騒ぎがするんだ」


 圭人が腕の時計を確認する。イタリアの無名デザイナーが手掛けた、斬新なデザインの時計だ。そんなに高くはない時計だって言ってたけど……こういう物を見つけてくるのが、圭人らしい。


「まだバスケ部の練習時間までは間がある。様子を見に行くか? 付き合うぜ」


「逸平君、あたしも行くわ」


 俺は自分の気持ちを確かめるように二人の顔を交互に見る。何でもないならいいんだが、また蜷局と関わるのだけは正直ごめんだ。


「分かった。遠くから様子を見るだけだ。レイカの事だ、やり過ぎている可能性が高いからな! そうなったら俺たちで止めなければいけないし」



レイカを追うことに決めた三人。

そして逸平の胸騒ぎはやはり的中することとなる。

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