scene_005
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【場所】
緑成社斎場敷地内喫煙所
【人物】
堂本竜生・25歳・会社員
堂本千遙・29歳・会社員
「一本くれない?」
「……」
「サンキュ」
「……」
「ふーっ」
「……」
「親父が探してたよ」
「ああ」
「大丈夫?」
「……おまえ、いま何やってんだっけ」
「え、普通にサラリーマン」
「なんの?」
「ネットの広告とか、そういうやつ」
「儲かんの?」
「ちっちゃい会社だから」
「へえ……」
「姉ちゃんはまだ事務? 不動産の」
「……」
「疲れてんね」
「……親父、なんだって?」
「え、なんだろ、聞いてない」
「……」
「寒くない? ここ」
「彼女いんの?」
「おれ? なんで?」
「別に」
「いるけど」
「結婚すんの?」
「いや、そんな話しねえから」
「ふうん」
「おれまだ二十五だし」
「親父と母さんもっと若かっただろ」
「何歳だったの?」
「いや、知らねーけど」
「結婚ね……。結婚とか……別にしたいとも思わねえし」
「へえ」
「……姉ちゃんはないの? そういうの」
「ねーよ」
「前に付き合ってた人いたじゃん」
「いつだよ」
「いや、けっこう前に」
「誰だっけ……。まあ、別れたよ」
「そうなんだ」
「誰だっけと言えば、あのおっさん……今日来てる、白髪くくってるおっさん」
「ああ」
「あれ、おまえ誰かわかる?」
「いや、見覚えないけど」
「誰だろうな。他はなんとなく覚えてんだけど」
「母さんの知り合いじゃないの」
「いや、親族の席にいただろ」
「そうだっけ」
「ま、親父に聞きゃいっか……」
「母方の親戚とか、普段あんま会わなかったじゃん」
「まあな……」
「……」
「ふう……」
「親父、どうすんだろ。これから」
「どうすんだろうな」
「看病もなくなるし」
「まあ、仕事すんだろ」
「うん……」
「もともと仕事人間だし、親父は」
「ちゃんと復帰できんのかな」
「別に休んでたわけじゃねーだろ」
「いや、なんか、気分的に」
「どうだろうな」
「急に気が抜けたみたいにならないといいけど」
「なるかもな」
「心配じゃねえの?」
「まあ、大丈夫だろ。いますぐは」
「そうかな」
「すぐにどうこうってことじゃねーよ」
「……姉ちゃんは、将来どうすんの? こっちに帰ってくる気はあんの?」
「別に、いまは何も考えてねーかな」
「ふうん……」
「結婚はした方がいいぞ」
「なに、急に」
「いや、なんとなく」
「なんだよ、気持ちわりいな」
「あんまり難しく考えんなよ」
「何がだよ」
「なんでもだよ」
「意味わかんねえ」
「……」
「おれ、もう入るよ」
「ああ」
「姉ちゃんもそろそろ入んなよ。寒いだろ、ここ。親父も呼んでるし」
「これ吸ったら行くよ」
「うん」
「……」
「じゃ、あとで」
「ああ」
「……」
「……竜生」
「……ん?」
「いや……やっぱいい」
「なんだよ」
「なんでもねーよ」
「……」
「さっさと行け」
「……」
「はー……。続かねーな、禁煙」