scene_003
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【場所】
インドカレー『リバティ』店内
【人物】
蒲田吉継・32歳・会社員
井村瞬・26歳・会社員
「そーいやおまえ、取りに行ったのか? 牛丸さんとこ」
「まだっす」
「おまえ、マジかよ? あれ上がったの先週だろ?」
「先週の水曜っす」
「一週間経ってんじゃん」
「はい」
「はいじゃねえだろ。さっき別件で牛丸さんと話したけど、ルネサンスも明日には上がりそうって言ってたぞ?」
「ルネは、おれ、担当じゃないんで」
「担当じゃなくても回収くらいはできんだろ」
「無理っすよ」
「は? なんでだよ」
「だってルネ枚数多いでしょ、一回で回収できないじゃないっすか」
「武田と分けりゃいいじゃねえか」
「ルネやるくらいなら、ポピーやりますよ」
「だったらさっさとやれよ。一週間はさすがに寝かしすぎだぞ」
「大丈夫でしょ。うちの倉庫より牛丸さんとこの方が広いんだし」
「そういう問題じゃねえから」
「だいたい文句なら武田に言ってくださいよ。あいつマジで仕事ナメてますよ」
「おまえが言うな」
「いやいや、マジで。知ってます? 武田が工場さんになんて呼ばれてるか」
「なんだよ」
「風来坊」
「は? どういう意味で?」
「だから、納期とかアポとか関係なく急にふらっと現れて、またふらっと来なくなるから、ってことらしいっすよ」
「おまえ、それどこの工場が言ってた?」
「清さん」
「あー、清さんね……」
「こないだも『お宅の仕事あんなんでやってけるんですか?』って言われましたよ。苦笑いするしかなかったっす」
「まあ、普通はやってけねえよな、あれじゃ」
「まああれはあれでも社長のアレっすからね」
「おまえマジでそれ社内で言うなよ?」
「みんな言ってますよ」
「チッ……」
「ところで蒲さん」
「あ?」
「こないだミカド行ったとき、変なもん見たんすよね」
「なんだよ」
「プリンターあるじゃないっすか、インクジェットの」
「ああ」
「あれの横に、なんか結構でかい箱が置いてあって」
「で?」
「まあその箱はどうでもいいんですけど」
「さっさと言えよ」
「その箱とプリンターの隙間に、注射器が落ちてたんすよ」
「マジ?」
「マジっす」
「なんかプリントの道具じゃねえの?」
「いや、マジのやつでした」
「いやいや、でもあるだろ、インスリンとかさ。糖尿病の」
「誰が糖尿病なんですか?」
「知らねえよ。つーかあるだろ、インク使ってんだから、なんかそういう器具もあんだろ」
「そういうもんすかね」
「知らねえけどさ。おまえそれ、面白がって社内で言いふらすなよ」
「言いませんよ。別に面白くもないですし」